第18話 街へ
18話です。よかったら見てやってください。
スーレスと名乗る商人はディードに手を差し出しこう告げた。
「この商品をじっくり見させてもらっていいですか?」
「どうぞお気の済むままに。」 「ありがたい。それでは拝見させていただきます。」
スーレスはじっくりと商品を見定めていた。やがて護衛の何人かを呼び寄せ商品を見せる。
「この切り口は凄まじいな、同じ事が出来るか?」
「難しいですね。不意打ちを狙えば出来ると言えますが、ほぼ一撃で斬り裂いていますから、余程威力のある魔法か武器だと考えられます。少なくともここに居るランクの人間には厳しいと言えます。」
「なるほど、鮮度も魔力もか?」 「多分、倒してからそれ程時間が経ってないです。」 「ほぅ」
じっくりと吟味したのだろうか。やがてディードに近寄ってくるスーレス。
「お待たせしました。こちらの商品を買わせていただきます。」
「ありがとうございます。それで、どのくらいになるでしょう?」
「銀貨4枚でどうでしょうか?」銀貨4枚、それがどれほどの値段なのかわからずじまいのディード。
だが先程の干し肉から想像すれば決して、低い金額ではないと予想する。だが、ディードは思い切った行動にでる。
「そうですね。銀貨3枚でお願いできませんか?後、銀貨1枚分は銅貨で頂けるとありがたいですが。」
「・・・・は?・・・銀貨3枚・・・?」 スーレスが唖然とする。
それもそのはず、本来なら値上げの交渉が始まると思いきや、先に値下げされての交渉をされてしまい、なんとも不可解な事をされたのだ。
「一応お聞きします。何故値下げを?」困惑しつつもスーレスが問いかける。
「代わりといっては何ですが、今夜の身の安全と、情報を少し分けて頂くというのでどうでしょうか?」
情報は商人にとって命であり、金である。その情報の価値によっては命を削り、命を奪う事もあり得る貴重な【商品】だ。
それをオークという商品を値下げる代わりに、情報という商品を仕入れるという大胆な行動に出たのだ。
この矛盾したようで、合理的な行動を取れるのは、同じ商人ぐらいなものだ。
しかも騙し合いとかではなく、まず自分の身を切るという方法に感心させられたのだ。
「エルフのお若い方、いや・・・お歳を聞くのは失礼かと思いますが、お聞きしても?」
スーレスは不躾に質問をした。年を聞かれるのは気分的にもいいことではない、とわかっているが聞かずにいられなかった。自分は年配の方に、わざわざ若いと付けてしまったのだろうか?と思った。
エルフや魔族などは総じて見た目が若い。それは魔力に適していて、長い時間若さを保つと言われている。パッと見て青年に見えても、かなりの年配だったということもある。どちらの種族も長命で知られている。
金が尽きたと聞いて、街の入り方にも困り、ギルドなどに登録を済ませていないことから、若いエルフと勝手に判断したのだ。そしてその判断が間違っていて、自分は失礼なことをしているのでは?と、疑問に思ったからだ。
「今年成人を迎え16です。女性の方は内緒で、レディーに年を聞くのは恐ろしいですから。」
唇に指を添え悪戯っぽく内緒のポーズをするディード。
「それは失礼しました。少し色々と勘違いをいたしまして、私がからかわれているのかと思うほどでしたので。」 「そんな事はありません。わざわざ値段を下げたのは、私が無知で情報を買う為ですので。」
「わかりました。それでどのような情報を?」 「それは・・・・」
「この街の事と他の街、おいしい調理が出てくる宿など少し教えていただけないでしょうか?」
「・・・・・は?」 銀貨1枚分を値引きして、その程度の情報が欲しいと言われ肩透かしを食らうスーレス。 「それでは私の方が儲けが多過ぎませんか?」
「そうですか?まぁ欲しい情報は今の所こんな所かな? あーあと門番の兵士にムカツクのが居ますので知ってたら教えていただけます?」ディードの軽い冗談を受けスーレスは笑いを堪えきれなかった。
「プッハハハハハ。」「あははははは」笑い合う2人、周囲の護衛達は驚いていた。
商談中声をあげて笑う事など、商人としてあり得ない事なのだ。やがて、
「いやぁ楽しい商談ありがとうございます。私の知っている事を教えられる範囲までお教えいたします。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。そうだ。皆さん食事は済まされたでしょうか?」
「はい、予定では街に着いてから食事をする予定でしたので、簡単な物しか食べてませんが、もしかして食事も希望されますか?」
「いえ、一緒にいかがですか?こちらから食材を提供させていただきますので。」
周囲の護衛からは歓声があがる。そしてディードは再び道具袋を前に出した。そして繰り返されるオークの出現。一同が唖然とする。オークが2体ある。それは重量的にも金銭的にも衝撃なのだ。
この2匹だけでも売ればかなりの金額になるというのに、わざわざ切り分けるなど、言動が雑すぎる。
それなのに、
「リリアお腹の部分を切り分けてくれる?」「はーい。」リリアの朗らかな声が聞こえた。
慌てるスーレス「え?それは勿体ないですし、女性の方に切り分けなど肉が、うぇ?。」
止める前にリリアの剣筋によって上半身、腹、下半身と分けられる。
まるで、柔らかい物でも切っているかのように分かれたのだ。そして彼女の剣は青白く光り輝いていた。
「それじゃ残りは片付けて、皆さんで焼いていきましょうか。」そして上半身と下半身を収納していくディード。腹はたき火の方へ運ばれ、切り分けられていく。オークがあった場所には、綺麗な2本の線だけが残っていた。 一連の出来事をただ傍観するだけで終わってしまった護衛とスーレス。
この時点でスーレスは2人を敵に回してはならないと直感した。
やがて、ディードとリリアによって切り出されたオークの肉は串焼きにされ皆の胃袋に収まって行った。
「感謝いたしますディードさん、買取だけではなく皆に振るまって頂いて。」
「いえいえ、私達も食事はまだでしたので。」
「それでは先程のオークの料金を準備出来ましたのでお渡しします。」「ありがとうございます。」
銀貨2枚と1枚分の銅貨入りの袋2つを受け取り、それを見ずに懐にしまうディード。
「ご確認はされないんですか?」「ええ、信用してますから。」
怪訝な顔のスーレスとは対照的に笑顔のディード。スーレスは少し考え
「なるほど信用ですか。それで私は合格したんでしょうか?」
「ええ、もちろんです。」 「なるほど、なるほど・・・・つまり味方になれと?」
「まぁそんな感じです。もっとも情報も欲しいですけどね。」笑顔のディード
つまり、スーレスは試されていた事を理解する。適正な価格で取引できるか、食事をふるまう事でさらに何かを要求しないなど、他にあるのだろうと推測した。
「面白い方だ、それで情報は街の事やおすすめの宿との事で?」
「はい、まずは人頭税の事や宿や食事の価格ですね。他にも色々ありますが、よろしいでしょうか?」
「わかりました。少し長くなりますし、まずは人頭税や住民税などお話でよろしいでしょうか?」
少し考えこむディード、
「あぁそうそう、装飾品でなにか可愛い物はあれば先に教えていただけますか?リリアにねだられる前にならべく安くて良い物を仕入れておきたいので。」 「え?なんでよー」 「ははははは。」
少し頬がふくらむリリア、からかい笑うディード、つられて笑うスーレス。
やがて談笑しつつ、色々な事を教えてもらった。
まずは、人頭税はどの街でも徴収されるらしい。1度入る事に身分証が発行され1月は出入り自由。
ギルドメンバーなら人頭税はパスされるという。まぁ仕事で出入りの度に取られたら洒落にならない。
次に長期滞在するのであればギルドメンバー以外に住民税をはらう必要があること。
貨幣の価値におすすめの宿など、色々教えてもらった。
そして話も一通り終わり、ディードがすぐ近くで、アイテムボックスでテントを取り出し寝に入る。
テントにはリリアと2人で入って寝る事になる。この旅で初めて熟睡できそうだと眠りにつくディード。
やがて、護衛とスーレスがたき火を見つつ、革袋のワインを飲んでいた。
「今日は色々ありました。実にいい日だ。たまにはこんな夜も悪くないですね。」
「ええ、まったく驚かされっぱなしでした。魔法袋に魔法剣、どれも売ればと途轍もない金額で取引されるというのに価値がわからなかった所を見ると、エルフ族の方はかなり閉鎖的な環境なのでしょうか?」
「どうでしょうなぁ、私達にはわからないことです。一つだけ言える事は、敵に回してはならないって事でしょうな。」 「敵に?」護衛が首をかしげる。
「ええ、私達は試されていたのです。適正な価格で売買してくれるのか、情報を正確に教えてくれるのか、そして裏切らないのか。他にも色々ありそうですがね。」 「裏切る?」
「ええ、今もそれは続いています。本当に面白い方だ、それとジョソさん、多分彼らは冒険者ギルドに登録するでしょう。彼らを無理にメンバーに入れるような事はしない方がいい。もし声がかかったら、受けた方がいいと思いますよ。」 「肝に銘じとおきます。」
入れようと思ってた事がバレてたのかと思い諦めテントを見つめるジョソ。
やがて夜は明けていく。
一方明け方では ≪住処≫でファグとアイリスが上下に切り分けられたオーク肉をどっちの部分を食べるかでケンカし、ディードを≪住処≫に呼び出すのだった。
最後まで見ていただきありがとうございました。