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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
石の涙
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第168話 流寝 匠

 


 住処で一人はしゃぐ男、寝ぐせ頭にパジャマ姿の青少年。

 黒い髪と黒い瞳はディードにとって何処か懐かしさを感じるものが、その男はやや興奮した状態でディードに迫ってくる。


「いいな、いいなぁああ。羊のメルルたんのお胸どうだった?触り心地は?柔らかった?それに恋人2人もいてさぁあああ、ウサたんに、エルフっ娘が両脇にいるなんて・・・・本当羨ましいぃぃぃいいいい。」


 両手を広げ下から何かを揉む様な仕草をしたと思ったら、今度は両手を頭に抑えそのまま仰け反り男。

 その行動に唖然としたディードだが、やがて我に返り質問をする。


「え・・・・っと?君は?ってなんで住処にファグとアイリス以外の人がいるの?」

「おぅう!自己紹介もまだだったか。俺の名前は流寝 匠(るね たくみ)。夢から夢へと旅をする愛の旅人、通称夢追い人さ。ヨロシク・・・にゃん!?」

「にゃ・・・にゃん?」


 寝ぐせの髪をかきあげ香ばしいポーズを取る匠、色々言いたい事があるディードだったのだが、その言動に飲み込まれ唖然とするしか出来なかった。


「えっと初めましてでいいのかな?」

「そんな他人行儀みたいにしなくてもいいじゃないかな。」

「いや、初対面だけどね?」

「チッチッチッチ、初対面じゃないんだな、これが。」


 人差し指を横に振り軽く否定する匠、その姿に若干の苛立ちを覚えるディード。


「本体を助けてくれてありがとうな。」

「本体?」

「そそ、俺の本体の名前はジグ。今たき火の前で眠っているだろ?亜空間に閉じ込められている時は少しやばかったんだ。」

「あっ!ジグが言ってたタクミって君の事だったのか!?」

「そう!?ジグの中にいるもう一人の人格。それが俺、見た目は普通、能力も普通の清らかな青少年さ。」

「・・・殴っていいか?」


 色々とポーズを作ってから話しかけて来る匠。

 その様子は思春期にありがちな中二病そのものなのだが、ディードには煽っている様にしか見えなかった。


「いいじゃないか同じ元日本人なんだし、もう少し仲良く話そうよ。どうせこれが最後なんだし。」

「最後?」

「そそ。」


 匠は両手を頭の後ろで組み、足を交差し視線少しずらす。


「どうもね、そろそろ限界なんだわ。」

「どういう事だ?」

「ん-、ジグとしても匠としてもそろそろ限界ってとこかな?もうすぐ死ぬんだわ。」

「なっ!?」


 匠の言葉に驚きを隠せないディード。


「だからな、お礼とお願いをしに来たんだ。」

「お願い?」

「そそ、ゴーレムは一定時間稼働すると中に含まれている核・・・ん-わかりやすくいうと電池が消耗し過ぎちゃって、電池切れを起こして稼働出来なくなるんだ。だからそうなったら俺達を壊して欲しんだ。」

「壊すって・・・なんでまた!?魔力を注いで復活させれば――――」


 自分で言いかけながらある事に気づくディード。

 魔力を注げばまた使える・・・確かにそうなのか知れないが、本当にそれをやっていいのだろうか?

 彼等は元人間であって生粋の魔物では無い。

 魔力を注ぎ活かす事は彼等を人として扱わない事と同義となる。

 意識も無くただ命令に忠実なゴーレムを使役するだけの環境が果たして生きていると言えるのか・・・・そんな考えがディードの頭の中を過る。


「ごめんな、でも君にしか頼めないことなんだ。ゴーレムの中で意識を保ってられるのは俺みたいな特異点(ながれもの)だけ。稀に意識を取り戻す奴もいるけど、それはもう核の限界が訪れて一時だけ意識が戻るらしいんだ。肉体は石にされ、魂まで擦り続けられる環境に黙っていられなくてさ。」

「でも俺は・・・。」


 慟哭するディード、だが匠はゆっくりと言い聞かせるように話しかける。


「メルルちゃんも言ってじゃないか?奪った命を数えるより、救った命を誇って。それともメルルちゃん達がゴーレムにされていく方が良かったとでも言うのか?」

「ちがう!?断じてそんな事はない。」

「なら誇れよ!?彼女達を救った事を。そして永遠の闇に捕らわれ、魂だけを削らされていく他のゴーレム達を救ってあげてくれ。それが出来るのは君達だけだ。止めなければもっと他の人達がゴーレムになって行くんだ。それでもいいのか!?」


 ディードの肩を掴み、強く揺らしながら頼む匠。

 言い訳が無い、だがディードは口を開けなかった。

 ゴーレムの魂を救う事、それは彼等の核を物理的破壊し”死”を与える事言う事だ。

 


「だから俺も協力する。俺の力を持ってけ。」


 ディード方に手を乗せたまま匠は魔力を放つ。

 匠の身体から藍色(あいいろ)の魔力が立ち上がり、ディードに藍色の炎を纏わせる。

 熱くも無く冷たくもない藍色の炎はやがてディードの身体の中にしみ込んで行く。


「これは・・・?」

「夢の力と言えばいいのかな?物を作る時に頭の中でイメージしたりするだろ?それを強化、放出する能力さ。強いイメージを持って物を作れば、性能を1段2段上に昇華出来る。イメージが優先される魔法ならより強力になってくれること間違いなしだ。」


 親指を立て笑顔を送る匠。


「何故こんな事を?これを受け取ったら君はもう使えないんじゃ?」

「魔法を使う肉体が無いんだよ。今出来る事はジグの終わりの時間を伸ばしてあげる事だけ。まったく嫌になっちゃうよな。あっちの世界で寝ていたらいつの間にか死んでいて、こっちに転生してるじゃない?

 うっは~!?これが異世界転生なんだ!?俺の知識を総動員して成り上がってハーレム作って可愛い子とイチャイチャしてやろう!?と思ったんだけどさ、気が付いたらゴーレムの身体になってやんの!?

 そんで本体を救ってくれた奴が同じ転生者でヘタレなハーレム野郎だなんて色々運命を感じちゃった訳よ。」

「最後やけに棘ある言い方だな。」

「棘もあるさ、まったく羨ましい限りだよ。可愛いウサたんにエルフっ娘って・・・やったのか?やったんだよな?!いいなぁぁぁぁぁ!?俺なんてあっちでもこっちでもDTなんだぜ?2つの世界でDTのまま死んでいくなんてなんて不幸なんだよ・・・ヨヨヨ。」


 自分の身を抱き締め悲壮感漂わせる演技をする匠。

 余りにもふざけた演技をする匠にディードは毒気を抜かれ呆気に取られる。


「でもな、最後に俺の力を受け継いでくれる奴が少し嬉しいんだ。ほんの少しだけこの世界で俺がいた証が残るかもしれしれないし。」

「匠・・・・。」

「あーでも、そろそろ時間だ。ほら身体が透け来ただろ?」


 匠の姿を良く見ると、足元から色素が抜けてゆき透明になって行くのが見える。


「言いたい事は言えた。後はその力をどう使うか楽しみにしているよ。ハーレム野郎。」

「おい!?言いたい事だけいって勝手に消えようとするなDT!?」

「おま!俺が気にしている事を!?ジグの所に戻るだけだよ、じゃぁさっきの件は頼んだよ。それとファグさんアイリスさん後は頼みます。」


 匠はそう言うと、ディードに顔を向け舌を出し、人差し指で右目を引っ張る。

 所謂あっかんべーという奴だ。

 まるで子供のからかいの姿にディードは脱力する。



「なんて奴だ、勝手に色々と押し付けやがって。」

「そう言ってやるなディー、あれで匠も色々と考えての事だ。」


 前足をディードの肩に乗せ彼をなだめようとするファグ。


「あいつの肩を持つんだな。」

「今はお前の肩に乗せているけどな。」

「物理的にな。それはそうと、後は頼みますって・・・匠に何を頼みまれたんだ。」

「さぁな。 それより住処に来た目的を忘れていないか?」


 ファグの言葉にハッと我に返る、ディードはライーザに一振り剣を作る予定で住処に来ていた事を思い出す。


「そうだ、朝まで時間があまり無い。ライーザ用の剣を作る予定だったんだ。」


 ディードは慌てて女神に槌を取り出し、ルナ鉱石の塊を金床に置き黙祷を捧げる。


(フラウ、悪いけどこれ以上犠牲者を出さない為にもこの鉱石を使わせてもらうよ。)


 フラウから分離させたルナ鉱石を一心不乱に女神の槌で叩きはじめる。








 同刻

 夜も更けテラスでぼんやりと月を眺めるビクトリア。

 そこに昼間の執事が現れ彼女の前で頭を下げ報告する。


「お嬢様・・・バルバロイド伯爵から返事が預かっております。」

「なんて?」

「明刻1の鐘で放ち、2の鐘ではじめるとの事です。それとこちらを預かって来ました。」


 執事から差し出されたは、布に包まれた黒いねじれた角だった。

 テラスから月夜の光を浴びさらに黒く、妖しく光るを帯びるその角は脈を打ちまるで生き物の様にも見えた。

 それを掴み取り月夜に照らすビクトリア。


「そう・・・わかったわ。その様に準備をしていて。」

「お嬢様・・・本当によろしいのでしょうか?」

「愚問よ、明日すべてが終わるの。人も街もぜーんぶ終わるの。アイツが愛したこの街、人が全てが消え去るの。私はどれ程これを待ち望んだと思っているの?」


 黒いねじれた角を眺めながらビクトリアは静かに魔力を執事に放つ。

 彼女の冷たい魔力が執事を取り囲む、だが彼はそれに動じることなく再び頭を下げる。


「畏まりました、準備に取り掛からせていただきます。」

「ええ、そうして頂戴。それとアレも忘れずにね。」

「・・・・・仰せのままに。」


 執事はそう言うと再びテラスから出て行く。


「ふふふ、これさえあれば私は・・・。」


 黒くねじれた角、まるで至高の宝物のようにうっとりとした表情でいつまでも見惚れているビクトリアだった。

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