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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
石の涙
176/221

第165話 元日本人VS日本人

 


 剣と刀がぶつかり合う。

 トールとディードの真剣勝負は技術面でディードに軍配があがる。

 トールの力任せの剣、だがかつて剣を交えた事のある獣人のガロン程では無い。

 ディードはトールの剣を刃のない反りで受け止め、返す力でトールに打撃を与えている。

 だが打撃こそ当たってはいるが、大したダメージを与えられている訳では無い。

 何故ならば刃を返したり強い攻撃を入れようとするとトールは奴隷と位置を入れ変えて攻撃を避けるのだ。


(ちっ!?またこれか・・・)


 心の中で舌打ちしたディードを見透かすようにトールはニヤニヤした表情で剣を振るう。


「どうしたさっきの勢いは?奴隷ごと斬ればいいだけの話じゃねーか?」

「お前と違って例え犯罪奴隷でも粗末に扱うつもりは無い。それにその娘達は犯罪奴隷じゃないな、どこからか無理矢理連れて来ただろう?」

「だからどーした?この世は弱肉強食だ、弱者は従うか餌になって死んでいくのみよ!?」

「何が弱肉強食だ、お前の行為は一方的な加虐だ!一生懸命暮らしている子達を無理矢理奴隷に仕立て上げ、欲望のままに彼女達を傷つけるのは人として許される行為じゃない!?」


 ディードは刀に魔力を込めトールの剣を薙ぎ払う。

 碌に手入れもされていなかった鉄の剣は根元から折れ、剣先は地面へと転がる。

 舌打ちし悪態をつくトールにディードはその隙に一撃を入れようした。


 だが・・・


贖罪の山羊(スケープゴート)!」


 目の前に現れたのはまたしても犬の獣人奴隷。

 ディードは彼女に当たる寸前の所で止める。


(またか!彼女のばかり呼び出して・・・最早精神状態が・・・・)


「うふふふ・・・あはは。また死に損なったわ・・・あはは。」


 瞬間的に入れ替わり、ディードの打撃や斬撃を目の前で止められる。

 いくら冒険者でも何度も不意に目の前に刃が迫ってくれば心情的負荷は大きい。

 素人ならその負担は計り知れないだろう。

 そのせいか獣人の奴隷はその負荷に耐え切れなくなってきたのか、何度も身代わりにされる内に虚ろな目で笑い失禁し精神が崩壊しかかっていた。


(くっ・・・リリアまだか?)



「もうその奴隷はお前のせいで精神が病みはじめているんだ。さっさと殺してやるのも情けだぞギャハハハ。」

「逃げ惑うばかりの弱者の癖に。」

「最後に生きて立って居ればそれでいいんだよ。こんなクソみたいな()()()()()()()好きに生きて何が悪い!?娯楽も碌にねぇ!飯も酒も大して旨くねぇ!ヤる事ぐらいしか楽しみが無ぇんだよ()()()()は!?」


 トールの言葉に違和感を覚えたディード。

 だがその違和感を確認する間も無く、待ちに待っていた声が届く。


「ディー!」

「それはお前の主観だトール!? 人を無闇に傷つけ奪う事でしか喜びを得ないお前なんて、ただの弱虫だ!風圧(ブロウ)!?」


 ディードは犬獣人の奴隷を手を掴み抱き寄せ、トールに向けて風圧の魔法をかける。


「ちっ!?風の魔法か。」


 強い風が彼を数歩下がらせる、その隙にディードは犬獣人の奴隷の安否を確かめる。


「おい大丈夫か?」

「・・・もう私を虐めないで死神さん、楽にさせてよぅ。」


 虚ろな瞳で笑う犬獣人の精神は過度の負荷により擦れきれていた。


「・・・今楽にしてあげる。」


 ディードはトールに風圧を当てながら彼女の奴隷の証でもある首輪に手を触れ魔力を込める。


「分解!」


 奴隷の首輪が霧の様に溶け徐々に消えて行く。

 首輪が完全になくなるのを見計らってディードは犬獣人に木霊の囁き(ドリアードスリープ)をかけ彼女を眠りにつかせる。


「リリア頼む!」


 ディードの掛け声にリリアは駆け寄り、獣人の奴隷を介抱する。


「多分予想は間違って無いけど、くれぐれも気を付けて。」

「ああ、わかっている。」


 ディードはトールに傷つけられた奴隷をリリアに任せた時、ある事をファグを通じて念話で確認して貰っていた。



 それはリリアが彼女に触れている間、身代わりで呼び出されるか否かだ。

 ディードはトールの魔法にある予想を立てていた。

 身代わりになる人物は必ず条件がいるはずと。


 (キー)となるのは奴隷の首輪。

 トールは奴隷の所有者である、彼の魔法が奴隷のみに適応されると仮定すればその奴隷の証である首輪を破壊してしまえば、身代わりで呼ばれる事は無いだろうとディードは予測した。


(無差別に身代わり出来る魔法なら奴隷商みたいな事はしないはず。後、距離も関係している、さっきから犬獣人の奴隷が頻繁に呼び出されていたのは彼女のがトールの一番近くに居たからだ。そしてリリアに確認して貰った通りであれば、奴は複数の奴隷を1度には身代わりに出来ない、他の人が触れていればその奴隷を身代わりにすることが出来ない、そして首輪を破壊したら身代わりにさせる事出来なくなる。)


 そしてディードはその予想を確信する為に風圧の魔法を解き一気に動き出す。

 距離を詰めディードは刀を振るう。


贖罪の山羊(スケープゴート)!」


 壊れた武器しか持っていないトールにディードの刀は脅威、体勢を整えるべくトールは奴隷を呼び出し身代わりにさせる。

 そして呼び出されたのは先程の犬獣人とは違う人間の奴隷。


「ひっ!?い、嫌殺さないで・・・お願い!?」

「大丈夫、力を抜いて。」


 突如ディードの前に現れた奴隷は小さく悲鳴を上げ震えている。

 彼女はディードとトールの戦いを遠目ながら見ていた。そして犬獣人の奴隷が殺され次は自分だと思っていたのだ。

 震える奴隷に対しディードは優しく言葉を発する。だが彼女の震えは止まる所か、更に恐怖で震えが大きくなっている。


「その首輪を壊せば君は解放される、だから動かないで。」

「は・・・はい。」


 その言葉を聞き、奴隷は震えながらもディードの言う通りにしていた。

 彼女の首輪にディードは手を触れ、分解の魔法を使おうとした時、突如腹部に痛みが走る。


「え・・・?」

「・・・ぐっ!?」

「へへ、身代わりだけだと思ったか?こういう使い方もあるんだぜ【断罪の羊(だんざいのひつじ)】って言うんだ。だが、奴隷は残り1匹になっちまったけどな。」


 トールは奴隷の背後から短槍を奴隷ごとディードをも突き刺す。


「お、お前は何も感じないのか・・。」

「あん?」

「無理矢理奴隷にされた恐怖も、傷つけられる恐怖も、汚される恐怖も、明日を迎えられないかもしれない恐怖を感じた事はないのか?」


 ディードは突き刺された短槍を持ち、身体を引き抜きながらトールを見つめる。


「恐怖だと?へ、そんなものはねーよ。こんなクソゲーな世界でそんな事イチイチ感じられているかっての。それに・・・・」


 トールはニヤニヤとした顔でディードに近づき手を掴む。

 それと同時に何処から取り出したのかディード腕には奴隷の首輪と似た紋様の入っている腕輪をはめさせられていた。


「ほら、これで俺に楯突いた男は俺の所有物に成り下がったわけだ。」

「いつの間に?」

「お前にはわからないだろうけどな、この腰についている巾着はアイテムボックスってな色々な物を収納できるんだぜ。さっきの武器もその一つだ。」


 トールは自分の勝ちを確信し短槍を手放し女奴隷を殴る様に払いのける。

 痛みでまともに身動きが出来ない女奴隷は成すがままに倒れ苦しむ。


「助け・・・」

「お前なんざ助けても価値はないだろ?殺しても経験値が増えるわけでもないしな。ほら立てよバカエルフ。お前にはあの女達の餌と戦力としてコキ使ってやるんだ、まだ片腕だけだから奴隷の効果は薄いは・・・。」


 トールはディードに立つように命じる、彼の口からはディードを餌にリリアやレミィ達をも取り入れる予定の口調だった。

 だが彼の野望は叶う事はない。

 彼が最後まで言葉を話し終える前にディードの刀によって心臓を突き抜かれていたのだ。


「な・・・なんだ?これ?」

「奴隷の輪を付けたからって必ずしも奴隷に身を落とす事が出来るとは限らない。油断したな。」


 ディードにはめられていた腕輪はよく見ると既に分解の魔法のよってアチコチ破壊されておりその効果を果たしていなかった。

 ディードは腕輪を付けられる瞬間から分解の魔法を放っていたのだ。


 自分の胸に刺さっている刀を見て意味が解らないといった感じのトール。


「い・・痛い?なんだこのクソゲーは?奴隷に攻撃されるなんてあり得ない。」

「その痛みは現実だ、これからお前はその痛みを抱えながら恐怖で死んでいくんだ。」

「ふざけるな、こんなクソゲーなんざ・・・聞いてないぞ。」

「・・・言葉の端からもしかしたらと思っていたが・・・お前日本人か。まさか最初に殺す相手が同じ日本人だと思っていなかったよ・・・いや俺は元日本人か。」



 刀を引き抜くとトールはその場に両膝をつき、未だに信じられないのか理解できないという顔をしている。


「俺は死ぬのか?こんなクソみたい世界で・・・。」

「ああ、お前は生かしておく事は出来ない。人を傷つける事に抵抗は無いお前に救いの手を伸べる程俺は優しくない。」


 女奴隷の腹部に刺さっていた短槍を引き抜き、高回復(ハイヒール)をかけるディード。

 それを見ていたトールは懇願する。


「お、俺の負けだ、治療してくれ・・・頼む。回復の薬は持っていないんだ。」

「そうやってお前は今まで奴隷達をどうやって来た?それが答えだ。」

「うっ・・。」


 ディードの答えにトールの表情は一変し絶望へと変わる。

 それはトールが今まで奴隷にやってきた事への仕返しみたいなものだ。

 彼はこれまでに奴隷達にしてきた事を思い返す。

 多くの奴隷達を傷つけ、死に追いやった事を。

 そして遂に自分も同じ目に遭うと思ったのか、それとも流れ続ける血を見たのか彼は死に対する恐怖を感じ始めていた。


「いやだ・・・しにだぐない・・・じにだぐないよぅ。助けて・・・たすげて。」


 懇願するもその言葉に誰もが耳を傾けなった。

 やがて彼の瞳からは光が消え失せ苦痛に満ちた顔で息を引き取る。



「さよならだ。同じ日本から流れ着いた人間よ。」


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