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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
石の涙
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第163話 ディードの新たなる力

 


 地下空間から地上へと繋がる長い階段を上がり地上へと舞い戻って来たディード、リリア、ジグ。


「やっと出られた~。」

「ジグ、疲れたか?」

「ううん、大丈夫~。早くここ出ないと危ないんでしょ?」

「ああ、それにレミィちゃん達も心配だしな、急ごう。」

「ええ・・・そうね。」


 どこと無く浮かない顔のリリア。

 背中に生えていた白と黒の一対の翼はいつの間にか消え去りいつも通りの彼女のに戻った訳なのだが、やはりフラウの事が少し気がかりの様にも見える。


「リリア・・・。」

「・・・・うん、わかっている。」


 軽く両頬を叩き、気持ちを切り替えようとするリリア。

 地下空間は未だにポルプの能力で保ってはいるが、いつ崩壊するとは限らない。

 出来る限り離れた方がいいと判断しディードとリリアは屋敷の外へと歩み出そうとしていた。



「うぁあ~~なんだ?なんだ?真っ暗だ~。」


 少し気の抜けたジグの声が2人の耳に届く、よく見るとジグの顔には数枚の羊皮紙に覆われており、両手はバタバタをさせ藻掻いているのがわかった。


「ディ~ド~たすけて~。」

「何があったんだジグ?」

「わかんな~い。」


 ディードとリリアが近寄り数枚の羊皮紙を取る、視界を遮る物がなくなりホットした様子のジグにディードは少し笑みを浮かべていた。


「ありがと~ディ~ド。」

「どういたしまして。それでこれはなんだったんだ?」


 ディードはジグに張り付いていた羊皮紙の1枚を手に取り読んでみる。


(これは・・・・石の涙の交換取引書!?奴隷1人につき石の涙が1つ。ミスリルインゴット1つにつき涙一つと色々書いてある。)


 それは石の涙に関する交換の早見表のようなものだった。

 他の羊皮紙にも石の涙に関する記述が記されている。

 そこにインディ家、スカーレット家、そしてバルバロイド伯爵という署名が記されている。


(そうかこれがポルプの言っていた不正の証か、石の涙は人をゴーレムに変換してしまう恐ろしい魔道具。そしてこれを取引しているという事は奴隷の命を消耗品と同じような扱いをしている事言う事だ。いくら犯罪奴隷であっても命を容易く扱っていいはずがない。それに小さな子供を誘拐している事にも関与しているだろう。)


 

 ポルプの能力が切れて空間い隠しておいたものが現れたのか、それとも意図的に此処に出現させたのかわからない。

 ディードはその羊皮紙と他のを束ねアイテムボックスへと収納していく。


 (ありがとうポルプ。)

 心の中で礼を述べるディード。 

 羊皮紙を一通り入れ終わった後、ディードはリリアに視線を向けると、彼女は1枚の羊皮紙をじっと見つめ涙を浮かべていた。


「リリア・・・。」

「・・・この羊皮紙、ポルプが書いた物ね。内容は妹さん・・・フラウの事がメイン、どうすれば元に戻せるか悩んでいたらしいわ。それに自分に与えられた魔道具と能力も・・・ディー悪いけど後でじっくり読みたいからアイテムボックスに入れておいてくれない?」

「ああ。」


 リリアから差し出された羊皮紙を受け取りアイテムボックスへと収納しようとする。

 アイテムボックスを開きその羊皮紙を入れようとした瞬間ポルプの書きなぐるような文字が目に入りディードは不意に口にする。


「魔族の世界に光が満ち溢れる事を願う・・・か。」

「!!?」


 ディードの言葉にリリアは驚く。

 しかしディード自身リリアが何に驚いているのかが理解出来ていなかった。


「どうしたリリア?」

「・・・いえ、なんでもないわ。不意にフラウの顔を思い出しただけ。早くこの屋敷を出ましょう。」

「・・・ああ。」


 リリアは足早に先頭を歩き出す。

 その後ろをついて行くようにジグと共にディードもまた歩き出した。





「これは・・・?」


 屋敷の扉を開けディード達は周囲を確認する。

 気を失いその場に倒れている者、傷つき壁にもたれ掛かって休んでいる者、それにいくつかの死体と人間だった物が散らばっている風景だった。


「ディードさん!リリアさん!」

「レミィちゃん大丈夫?」


 扉を開けた音をいち早く聞き取ったレミィは一直線に2人の元に駆け寄る。


「ちょっ!?レミちゃん凄い血じゃない!ディー!?」

「待って下さい、これは返り血で私の血じゃないです。私は無傷ですから大丈夫です。」


 ディードが慌てて回復魔法を掛けようとするがレミィはそれを制止する。

 それを見たディード達はホッと胸を撫でおろす。


「その返り血だと相手は?」

「相手は武器にされて・・・そこに散らばっている方達がそうです。」

「へ?武器?」


 レミィの言葉にディードは間の抜けた言葉を返す。

 それもそうだろう彼女が戦った相手、スネアは手に持つ物の重さを0にする固有能力を持つ。

 それは人間にも適応され、彼女が人間を武器にして戦ったとういう事を知らなければ理解出来ない。


「彼女は手に触れる物の重さを無くす能力を持っていました。そして同じ側の人間を武器にして私と対峙しそして・・・。」


 その先の言葉を口にしようとした時、不意にディードに抱きしめられるレミィ。

 彼には何を言おうとしたのかわかっていた。

 彼女が此処に立ってい居る理由がそうだ、レミィはスネアを倒したのだ。


「ディードさん・・・あの血が・・服が汚れちゃいます。」

「汚れよりも今は少しだけ君を抱き締めたい、辛い思いをさせちゃったしね。」


 優しく抱きしめられ気が抜けたのかレミィの瞳から大きな一粒の涙が流れ落ちて来た。



 やがて2人は離れ際に互いの唇を求め合う、優しくキスをした後離れたディードにもレミィの返り血が付いてしまった。


「やっぱり血・・・付いちゃいましたね。」

「大丈夫、さっき新しい魔法を覚えたから。」

「へ?」


 ディードはレミィの胸付近に手を宛て意識を集中し魔法を発動させる。


「分解」


 薄い白色の魔法がレミィを包み込む。返り血は徐々に霧の様に立ち昇り漂う。


「結合」


 水色の魔法が返り血を空気と結合させ返り血を大地に落としていく。


「ディー、これってまさか?」

「ああ、2人の(ファグとアイリス)固有魔法だ。」


 リリアの困惑した顔を見つめながら笑顔で返すディード。


「ちょっと待って、固有魔法を習得したって事なの?」

「そうなるな、アイツ等程の魔法の威力はまだ無いけどね。」

「・・・固有魔法という概念が覆されたのを今見た気がする。」

「大袈裟な・・・。」



 固有魔法というのは名の通り、その人その人それぞれが持つ個性の様な物だ。

 その個性をディードは手にしたと言うのであるからリリアは理解に苦しむ。


「人は常に進化し続ける者だよリリア。」

「そのせいで戦争という片方にしか利益が無い物を生み出しているんだけどね。」

「そうとも限らない。敗北から学ぶこともあるんだ。前の俺の先人達は戦争で負け、苦しみながらも知恵を技術を身に着け豊かな国に仕立て上げた例もある。」

「信じられないわ。こっちでは敗北は死か奴隷に繋がるもの。」


 こちらの世界では敗北=死か奴隷というのが定石だ。

 敗北は土地や人を全てを奪われた上に奴隷と屈辱を味わされていく。

 学ぶ事も、抗う事も出来ず生涯を終える者も少なくない。


(そう考えるとつくづく日本という国は奇跡に近いんだな。)


 そんな思いを少し馳せたディード、やがてレミィと自分いついていた返り血は綺麗に取れ元の姿へと戻る。


「うん、やっぱりレミィちゃんは白が似合うね。」

「ありがとうございます、ディードさん。」

「さて、これからどうしようか。」


 やがてライーザ、エルカーラも合流する。



「取りあえずは証拠は確保した、後は直接ライーザの城へ行けばいいのか?」

「それはやめておいた方がいいわ、いきなり証拠をもってやって来ても警戒されるだけだし、その日にどうにか出来る物じゃないでしょ?。それに広場の問題も終わって無いのよ?」

「私の兄も行方知れずだし、現在城にはビクトリア様がいる可能性がある。証拠を持って逝っても全力で潰される可能性だってあり得る。城に向かうのは得策じゃないわ。」

「それに、大量にいると聞いたはずのゴーレムが見当たりませんですしね。」

「・・・やる事が山積みだな。後何か問題はあるのが・・・。」

「石の涙の出元とそれに関する研究施設の破壊、もしくは無効化っていった所ね。どれも1日で片付く事は出来ないわよ。」


 ディードの問いにリリア、ライーザ、レミィと順に応え最後にエルカーラが口を開く。

 気になる事が多いが、広場のタイムリミットが明日、確実に潰さなくてはならないのが広場に設置されているであろう《人心の鐘》の存在だ。

 それをなんとかしないと明日には街の住人のほとんどが操られてしまい兼ねない。


「まずは広場の鐘をなんとかしよう。」


 ディードの言葉に全員が頷く。

 いざ屋敷を出ようとしたその時、屋敷の入り口から数人がこちらに向かっていた。



「なんだあのメイド、やられちまったのか。せめて1回ぐらいは相手して欲しかったのによう。」


 ゲラゲラと笑う男、そしてその背後には腰にロープを括りつけられ、首輪を嵌められた数人の若い女性が引き連れられていた。

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