第162話 魔力譲渡
空間に亀裂が入りガラスが割れる様な音が辺りに響き渡り光が一気に溢れ、目も開けら程の光の濁流が押し寄せて来る。
「やめてぇぇぇぇ!!」
ポルプの悲痛な叫び。
だがそれも虚しく光の中から大きな音を立て何かが落ちて来る。
「あああ・・・ああぁぁぁ!」
強い光に晒されて目がまともに開けらなくなくとも、ポルプには何が落ちて来たのかがわかっており、音を頼りに歩き出し見つけ拾い上げ抱きしめる。
「フラウ!ふらうぅぅぅ!?ああああああああああ!」
絶叫に近い言葉が地下空間に響き渡る。
「ああ何て事を!なんて・・・事を!」
ルナゴーレムの一部を拾い上げフラウは悲鳴を上げる。
既にルナゴーレムは息絶えており形も人型を保っていなかった。
「おのれ、おのれ、おのれぇえええええ。」
激情し鬼の形相とも取れる顔を見せ上を睨みつけるポルプ、そして彼女のは手をかざしながら叫ぶ。
「お前なんか異次元の狭間で永遠に彷徨い続けてしまえ!?」
身体にかなりの負荷がかかっているのか、顔や体中に今にも張ち切れんばかりの血管が浮かび上がりる。
「やめろ!」
「うるさい!お前も一緒に異次元に放り込んでやる!」
「やめろポルプ、その技はお前の身体に負担が大きいだろ!?」
「フラウの居ない世界なんていらない、いらない、いらないぃぃぃ!」
動かなくなったルナゴーレムを見てポルプの狂気は加速する。
彼女の周りに現れる歪な空間、大小様々な空間はディードの周りにも少しづつ数を増やしながら増えて行く。
「こんな世界なんてぶっ壊してやるぅぅぅ!?」
「やめろポルプ!」
既に正気を失いかけているポルプはディードの声など耳に届く訳が無く、空間は無造作に増え続けて行く。
「全部、全部なくなってしまええええ!?」
「そうはさせないわ!?」
上の空間から聞き慣れた声がディードの元に届く、リリアだ。
彼女は空間を斬り裂き、ポルプに向って叫ぶ。
「角無し姫!フラウの仇ぃぃぃ!」
「悪いけど貴女じゃ相手にならないわよ。空間を戻すまで大人しくしていなさい!?」
ポルプは空間から割って出て来たリリアを見て即座に行動に移す。
先程生み出した歪な空間をリリアの行く手を阻むように設置する。
1つでも触れれば空間はそれぞれが干渉し合い互いの空間を削り取ろうとする。
勿論触れれば肉体は簡単に千切れ飛ぶであろう。
だがリリアはそんな事をお構いなしに直進する。
彼女の背中には、以前亜空間に飛ばされた時に覚醒した白と黒の一対の羽が備わっていた。
「リリア!無事か!?」
「ええ、無事よ。離れて一気に片付ける!?」
リリアの声、姿を見て安堵するディード。
彼女の言葉に従い歪な空間が無い所まで下がる。それを確認したリリアは大きく翼を広げ無数の黒い羽を飛ばす。
「空間の歪よ、彼の場所、あるべき場所に戻りなさい。終わりの黒羽。」
無数の黒い羽が刺さった空間の入り口は徐々に小さくなりやがて消滅する。
「な、なんで!?それにその姿は?」
「貴女が亜空間に飛ばしてくれたおかげで私の固有能力が発動できるようになったの。そしてこれは私の大切な人を傷つけてくれたお礼よ!?」
リリアの固有能力『翼』は亜空間や次元の狭間など限定された空間で使える能力。
ディードと出会う前のリリアしか知らない魔族側はこの固有能力を知らない。
翼を広げ滑空するようにリリアはポルプに向かう。
「くっ!?」
「遅い!」
両手を突き出しナイフやミスリルゴーレムを操作しようとするポルプ。
だがそれらをリリアに向ける前にリリアの斬撃を受けてしまう。
「きゃぁぁぁ。」
胸に袈裟斬りを受けポルプは悲鳴を上げ膝をつき倒れ込む。
「リリア!?」
「ディー!?」
「ごめんね、私の為にこんな傷だらけに。」
「気にするなリリアが無事なら何も問題ない。」
リリアはディードの胸に飛び込むように抱き着く。
涙を浮かべながらディードに謝罪する、そんな彼女を優しく抱きしめ笑顔のディードはそのままの状態で自身に大回復をかけ傷を治す。
「おの・・れ・・おのれぇぇ・・・フラウのかた・・き。」
傷つきながらもまだ辛うじて動けるポルプはナイフやゴーレムを操作しようとする。
だがリリアから受けた傷が大きいせいなのか、それとも魔力が切れたのかポルプはゴーレムやナイフを巧く動かせない。
それどころか彼女の自身の身体にも変化が訪れていた。
瑞々しかった肌はカサつき、髪の色も白く変色をし始めており急激な老化が始まった。
「もうやめなさいポルプ、勝負は着いているわ。大人しくジグを解放すれば貴女の命まで取らないわ。」
「フラウの居ない・・せかいなん・・・てもういらないわ。このまま朽ち果てる前にお前達を・・・・あぐっっ!。」
手をかざし何かをしようとしたポルプなのだが、激痛が走りその手を引っ込める。
彼女にはもう戦う力が残っていなかった。
ディードとリリアを忌々しく見つめながらポルプは横たわる。
勝負はあった。しかしディードとリリアは未だに見つかっていないジグの安否、それに地上への階段を隠されたままだった。
「ポルプ、もう勝負は着いたのだからシグを解放し、地上へと戻る階段を戻しなさい。」
「お断りします、私は目的を達成したのですから、それに私はもう長くありませんし。」
リリアの言葉を否定しその場仰向けになるポルプ。
「目的は・・・俺達を道連れか?」
「ええ、私達の目的を邪魔する者が現れた際、負ける様であれば道連れにせよ、とあの御方に仰せつかっておりますので。」
「アイツ・・・・。」
自分の身の回りを世話するメイドを捨て駒の扱う異母姉に対し、リリアは怒りを覚える。
「魔道具を壊すとどうなるの?」
「分断された空間はそのまま何処かに彷徨い、広げてた空間は元に戻るだけです。一緒に生き埋めになりたければどうぞ。ちなみに私が死んでも同じような事が起こります。止めをさしますか?」
「断るわ、私達は生きてここを出たいの・・・・。」
「それはなりませんね。王女様のお力ならここから脱出は無理ではないはず。ささっと私に止めを刺してここを出て行けばいいだけの事です。」
リリアの固有能力である翼ならここをでて元の場所に戻る事は可能。
しかし彼女はそれを実行する気は無い。
理由はジグだ、彼を見捨ててこの場所を去る事はなんとしてでも避けたかった。
見捨ててしまえば一体何の為に人を傷つけ命を奪ったのか分からなくなる。
「ジグを返して。」
「ならフラウを元に戻して返してください。」
「っっ!?」
リリアの言葉にポルプは即座に返す、その言葉にリリアは詰まる。
フラウはもう戻る事は無い。
何故ならば彼女の命はリリアが古代言語魔法で彼女の命を終わらせている。
それに元に戻してと言うのは元の容姿に戻せと言う事だ。
出来るはずのない無理難題を突き付け諦めさせることが目的なのだろう。
『可能かも知れんぞ』
辺りに重い空気が流れるはじめる頃、突如ディードとリリアの頭に中に響き渡るファグの声、その声に驚き2人は互いの顔を見つめ合う。
『おいファグ!それは本当か!?』
『ああ、ディー、そこのルナゴーレムを全部アイテムボックスに入れろ。』
『・・・・わかった。』
ディードはファグに促されるままルナゴーレムをアイテムボックスに入れる。
『入れたぞ。』
『ああ、届いている。それとリリア、君も協力してくれ。』
『どうすればいいのですか?』
『ディードに魔力譲渡を思いっ切り使ってくれ。』
「なっ!?」
ファグの意外な念話にディードは驚く。
今は魔力が切れている訳でもない、神聖回復も使える程度の魔力は保有しているのにも関わらずリリアに魔力譲渡を使う様に指示がきている。それも思いっ切りと付け加えて。
『そんな事したら、いつぞやの時みたく俺が壊れるかもしれないだろ!?』
『大丈夫だ、今回は俺達がリリアの魔力を受け取る、多分それで私達の固有能力が強化されると睨んでいる。最悪・・・まぁこれは後で考えよう。』
『おい!そこは一番に考えるべきだろう!?』
『お前と遊んでいる暇は無いぞ。ほれポルプとやらを見ろ、段々と老化が進んでいる。アレは固有能力と魔道具の使い過ぎによる反動・・・いや代償だな。』
ポルプは仰向けになり動かないでいる、正確にももう動けないといった方が正しいのかもしれない。よく見ると手足には先程までなかった皺が刻み込まれ、髪も徐々に色が抜けて白髪が多く目立ち始めている。
『彼女を治す方を優先した方がいいんじゃ?』
『私達の力では無理だ、魔道具の影響もあるしな。今出来る事はそのルナゴーレムからフラウという魔族を切り離す事だけだ。イメージを送る。』
ファグから念話と共にイメージが流れ込んでくる。
それはルナゴーレムの鉱石部分をファグの固有能力である《分離》で剥がし、フラウの肉体部分をアイリスの《結合》でつなぎ合わせるという、かなりの力技だった。
『確かに2人の能力は見た事がある、だけど人体にやった事な無いだろ?』
『何度か・・・程度にしかやった事はない。だがそのルナゴーレムは今リリアの魔力によって満たされている状態だ、そこに彼女の力を得てさらに成功率を上げる事が出来る。そしてリリアも気づいているだろう。今この空間は亜空間と繋がっている事に。』
『ええ、ファグ様。』
リリアの背中には未だに白と黒の一対の翼が存在している。
これは未だに異空間がディード達のいる空間と繋がっている証拠でもある。
もし繋がっていなければリリアの翼は数分も持たずに消え去るのだからだ。
ディードはリリアを見つめる、リリアもまたディードを見つめる。
互いに何を言いたいかは分かっている。
2人はポルプの所へ行き膝をつく。
ディードは回復をかけ傷を癒し、リリアは少しだけ魔力をポルプに分けた。
「何故?」
「約束は守れよ。」
その一言だけ発したディードとリリアは少し離れた位置に立つ。
正面を向き合い互いに手を取り合う。
緊張した表情にリリアに対しディードが少し茶化す。
「リリア。」
「何?。」
「出来ればやり過ぎない様に・・・思いっきりやってくれ。」
「どんな注文なのよ・・・・。」
「そんなに緊張するな。ファグも言ってただろ、何かあったらその時に考えるって。」
「馬鹿ね・・・・・わかったわ。ファグ様達を・・・ディーを信じるわ。」
緊張が少し解けたのか、リリアの顔に少しだけ笑みが漏れる。
そして意を決した彼女の魔力が手から手へと送られてきた。