156話 乱入
「遅れた分、取り戻さなな!?」
「ぬお!?」
右手に構えた金棒が勢いよくディードを襲う。
大振りだが早い、その金棒は大きく150cm近くある獲物である。
だがそれを木の枝のように振り回す小柄メイド、スネアに脅威を覚えるディード。
ギリギリで回避したが、反対側から石像が視界に飛び込んで来る。
「風圧!?」
「おおう!?」
風圧を相手に打ち込み軌道をずらし回避するディード。
「あぶな・・・。」
「凄いね、亜人。私の強襲を回避するなんてやるじゃない!」
「そりゃどうも。出来れば戦いたくないんだけね。」
「アハハ、それ無理。だって主様の命令は絶対だから・・・だから死んでね。」
笑顔で石造と金棒を交互に振り回す小柄なメイド、スネア。
棒術や武術などの技術ではなく、ただ単に振り回し轟音を鳴り響かせている。
まともに喰らえば致命的なダメージを負う事は間違いないだろう。
「火球!?」
「なんの!?」
ディードの打ち出した火球を石造でバッティングをするかのような見事な振り抜きで魔法をかき消し霧散させディードの視界を遮る。
その隙にスネアは一気に距離を詰め金棒で襲い掛かる。
攻撃範囲から逃れるべくディードは後退しようとしたのだが、先程倒した兵士の足に自分の踵を引っ掛け体勢を崩してしまう。
「しまっ!?」
「貰い!?」
「やられるかよ!水獄。」
体勢を崩しながらもディードはスネアと完全に囲うように水獄で閉じ込めようとする。
だがスネアは臆する事無く水獄の中で強引に金棒を地面に突き刺し魔力を注ぐ。
すると彼女を閉じめていた水獄はディードの意志と関係なく解除され、水が散って行く。
「魔法を解除する魔武器か。」
「その通り魔武器”金剛”よ。魔法を打ち消すこの金棒は魔法を主体とする貴方と相性は悪い。無駄な抵抗しなければ一撃で楽に逝かせてあげるけど?」
ディードの魔法を解除し、得意気にスネアは微笑む。
スネアは見た目とは裏腹に至近距離を得意とするインファイター。
ディードは全ての距離に対応できるオールラウンダーなのだが、今スネアに猛攻に耐えられる武器は手持ちに無い。
唯一刀の時雨が耐えられそうなのだが、今はライーザに貸している為に手元には無く、近接攻撃をやり合うにはかなり厳しい状況だった。
「確かに相性が悪いかもな。」
「なら諦める?他の子もいるし、さっさと終わらせたいんだけど?」
「こっちも早く片付けてジグを助けに行きたいんでね、行かせてもらうよ。」
そう言うとディードはスネアに魔法を放つ。
火球、水球、石球、水獄、氷獄と次々に撃ち込む。
最初こそは余裕の表情を見せるスネアであったが、ディードの連続魔法の前に次第に焦りの表情へと変化していく。
「ちょ、ちょ、なんなん?この魔法の連発は?」
「言ったろ?相性が悪いって。俺の魔力が尽きるのが早いか、それともそっちの魔道具が壊れるか試してみるか?」
「その前にこっちの魔力が尽きる!~~~~こんのぉぉ!?」
ディードの連続魔法攻撃に耐えきられなくなってきたのか、スネアの顔が段々歪む。
焦るスネアは渾身の力で持っていた石像をディードに投げつけた。
「おおっと!」
「・・・ちっ!」
無造作に投げた石像をディードは避ける、それを見たスネアは少し面白くなさそうに舌打ちをする。
「貴族に準ずる魔力量じゃ確かに相性は悪いわね。」
「そうだな、でもこれで形成逆転だと思うよ?」
「え?」
ディードばかりに気を取られ、スネアは周囲を見落としていた。
スネアは周囲の音が静かになっている事に気づき辺りを見回そうとしたが、彼女の視界は大きく揺れる。
死角から飛んで来たレミィの蹴りが彼女の肩を直撃し大きく吹き飛ばされたのだ。
「お待たせしましたディードさん。」
「レミィちゃん。」
「こっちも粗方片付いたわよ。」
リリアもディードの元に駆け寄ってくる。
彼女達の周囲には倒れた兵士達が呻き声を上げながら藻掻いているの見える。
どうやら戦闘不能までに留めていたようだった。
「2人共怪我はない?」
「大丈夫よ。少し時間は掛かったけど大体の兵士は片付いているわ。」
「ええ、後はこっちとライーザさんとエルカーラさんですね。」
彼女達の方に視線を送る、ライーザは数人の兵士相手に1歩引けを取っておらず、兵士達を次々に戦闘不能にしていく。
一方エルカーラは一回り大きい兵士と一騎打ち状態。
エルカーラの一方的な攻撃の前に兵士は防戦状態だった。
「少し時間が掛かったけど、あのメイドの娘さえなんとかすれば屋敷の中に行けるかな。」
「そうね、早めに決着をつけたい所ね。あれで倒れてくれればいいんだけど。」
「どうやらそうわ行かないみたいです。」
ディードの言葉にリリアが応え、レミィはスネアから視線を逸らさずに双剣を構える。
スネアはゆっくりと立ち上がりこちら歩いてくる。
「兎・・・今のはお前か?」
「ええ、卑怯とでも言うんですか?」
「いいや、確認や。まずはお前から血祭りにあげてやろうと思ってな。獣の亜人!?」
先程までの柔らかい表情から一変、獰猛な獣の様な表情をするスネア。
レミィに蹴り飛ばされたた事が気に入らない様子だった。
「こっからは本気でいく。まずは兎、お前から――」
彼女は言い終わる前に何かに気づき視線を地面へと向ける。
その時、地面から小さな地響きが起り大地を少し揺らした。
「地震?・・・・いや、これは地響き?」
「これはウチの相方が仕事した証拠なんよ。」
「何をしたんだ?」
「言うと思う?」
「口で言っても無理でしょうね。」
「そういう事なんよ兎。」
言うと同時に魔武器の金剛を振り回し一直線にレミィへと向かう。
レミィは即座に兎の盾で宙に逃れ魔武器は空振る。
「器用な兎やね。ひっ捕まえて挽肉にしてあげる。」
「兎を舐めないでくださいね魔族のメイドさん。」
「魔族とわかっていても怯まない根性は素直に褒めてあげる。」
「褒めなくて結構です。私の村を実験台にした魔族に褒められても嬉しくありませんから。」
レミィとスネアの睨み合い互いの武器を構える。
「ディードさんここは私にやらせてください。お二人は早く屋敷へ。」
「レミィちゃんそれは・・。」
「大丈夫です。私はこんな所で死ぬ気はありません。絶対に勝って合流しますので。」
「ウチを相手に勝つ気でいると思うと健気で可愛いやね。ちゃんとひき肉にしてから会わせてあげるわ・・よ!」
スネアの武器が再びレミィを狙い空を裂く、宙に逃げるついでに双剣の片方をスネアに投げつけるが、魔武器に撃ち返されてしまう。
だが、レミィの双剣は柄の所に魔力で出来た糸で繋がっており、それを引っ張ると飛ばされ片方は再び彼女の手元に戻ってくる。
「随分面白い武器持ってるやね。」
「ええ、大事な人から頂いた物です。そちらも随分といい武器ですね。」
「こっちも大事な人から頂いた物なんよ。だから負ける訳には、引く訳にはいかないのよ。」
レミィとスネアが対峙する。
身の丈程ある金棒を器用に振り回すスネア、それを当たらない様に避けつつも隙を見て攻撃を入れるレミィ。
「早く行ってください。さっきの音から察するに何かを崩した感じです。」
「・・・・わかった。レミィちゃん絶対にやられないでくれ。」
「勿論です!」
大地に双剣を差し二つの牙でスネアに攻撃しようとするも、魔武器を大地に突き刺し無力化させる。
その隙を狙いレミィは一気に距離を詰め渾身の蹴りを放つ。
それを左腕で受け止め、返しに金棒でレミィを狙うが既に彼女はそこにおらず後退する。
2人の攻防をいつまでも見ている訳にもその場を離れるディードとリリア。
幾多の剣戟のぶつかり合う音が聞こえる中、2人は屋敷のドアへと手を掛けるのだった。
多忙と体調不良のコンボで投稿が遅れました。
次こそは更新を早く・・・・出来るといいな。