第151話 ジグ
「ねぇ、開けてよぉ~。」
ドアをしきりに叩くその姿、後ろから見れば子供がドアに手を掛けられずにノックしている微笑ましい姿にも見えなくわない。
しかし相手はゴーレム、力が強いか叩かれていたドアの周辺は凹み音を軋ませている。
「む・・・あれは?」
「え?嘘あのフードって・・・」
ライーザとレミィがほぼ同時に声を上げる。
「あれは私がスカーレット家から逃げる時に使っていたフードか。」
「そして私が囮になり、最後にゴーレムに掛けて身代わりになって貰ったやつです。」
「なんだって!?でもどうして此処に?」
レミィがゴーレムを囮に使った場所からこの位置は広場を挟んでおりそれなりの距離だ。
しかも作業をしている訳でもなく、ただ子供が家に入れずに困っている風に見える。
ディードが嫌な予感がするが、声を掛けようとしたその時隣の家から大きな音を立てドアが開く、細身の中年女性だ。
「いい加減におし!もうこの家の人は・・・あらごめんなさい。」
「いえ、私達も今ここを通りかかっただけですから。このゴーレム朝からずっといるんですか?」
「ええそうよ、朝からずっどドアをしきりに叩いてね。家の人はもう住んでないって言ってるのにわかってもらえないのよ。」
「そうなんですか?」
「そうなのよ、それで困っているの。これ以上騒がしくするならギルドかゴーレムの管理をしている人に苦情を言いに行くところだったのよ。」
うんざりと言った加減の女性はゴーレムを見つめため息を交じりの愚痴をこぼす。
それでもなおゴーレムはドアを叩き、開けて貰えるように懇願する。
そんなゴーレムにディードは近づき腰を下ろし同じ目線で問いかける。
「こんにちわ、ここの家の人なの?」
「うん、そうだよ~お兄ちゃんは誰?」
「お兄ちゃんはディードとって言うんだ。よろしく・・ね。」
ディードの指先からは小さく魔法が放たれる、火球、水球、光球と次々に出て来る魔法にゴーレムは視線を釘付けにする。
「す、凄いやお兄ちゃん、凄い凄い。」
「あははは、喜んでくれて何よりだ。少しお兄ちゃんとお話してくれないかな?」
「お話?どんな?」
「うん、そうだね。君のパパとママはどんな人?」
「んとねパパはいつも遊んでくれるよ、ママはいつも優しいし好き。それにね――。」
それは小さな子供が自分の親からいかに愛情を貰っているかを表現するかの様に語っていた。
身振り手振りを交え、表情こそゴーレムは変えられないが、嬉しそうな声色で語っている。
目を瞑ればそこに無邪気な子供が目の前語っているような錯覚にさえに感じることが出来る位だった。
その様子を微笑みながらゴーレムを見つめるディード。
「そうか、君のパパもママも君の事が好きなんだね。」
「うんうん。ボクも同じぐらいパパとママがすきなの。」
「そかそか、じゃぁパパとママが大好きな君にコレをあげよう。」
ディードはゴーレムの前でアイテムボックスを出現させ、目の前で光る玉を取り出す。
それは迷宮都市グラドゥにいた時、リリアと一緒に買った空の魔石だ。
その魔石をゴーレムの手の上に乗せる。
「わー!?ありがとうお兄ちゃん!」
「どういたしまして。他にもあるかな?」
アイテムボックスの黒い渦の中に手を入れ、何かを探し出す仕草をするディード。
その様子にリリアとレミィは少し表情を曇らせる。
彼女達は知っている、ディードの操るアイテムボックスはそんな事をせずともアイテムはいつでも取り出せる。
つまり、それはゴーレムにアイテムボックスに興味を満たせるための演技だと言う事に気づいたからだ。
「ねえねえお兄ちゃん、それボクもやっていい?」
「いいよ、この黒い穴の中に手を入れて、さっきの魔石出ろ~とか念じてごらん。」
「うん、やってみる!?」
無邪気に喜ぶゴーレム、彼はアイテムボックスに手を入れようと腕を伸ばしたのだが、その黒い渦に中に手を入れる事が出来なっかった。
「あれ?入らない?」
「あーごめんね、ボク。お兄ちゃんの魔法は生き物は入らなかったのを忘れていたよ。」
「お兄ちゃんの腕は入るのに?」
「うん、お兄ちゃんだけしか入らないのを忘れてたよ、ごめんね。」
「ううん、いいよ。これ貰ったし。」
ディードのアイテムボックスは生き物は入らない。
住処という例外もあるが、そこに入るにはファグとアイリスの許可が必要である。
つまりこのゴーレムは、人造物でありがなら精神体を持ち生き物として判断されアイテムボックスに入らないという事になる。
『ファグ・・・』
『お前の思う通りだ。』
『ちゃんと言ってくれ。』
『・・・・そのゴーレムは生きている、魔剣の時と同じように生命の波動、精神体が宿る物に関しては入れる事ができない。さらにそのゴーレムは人造物であって、話方から察するに間違いなく子供だ。』
ディードの念話にファグは答える。
一番知りたくも知りたくなかった答えが返ってくる。
目の前にいるゴーレムは人為的に造られた物であって、材料は子供と言う事が確定してしまったのだ。
「お兄ちゃんどうしたの?お腹痛いの?」
「ううん、何でもないよちょっと考え事をしていただけ。そうだ、君の名前まだ聞いてなかったね、教えてくれる?」
「うん、ボクの名前はジグっていうんだ。」
「そっかジグか、いい名前だね。」
「えへへ。」
「ねえ、これから――――。」
「いたぞ!?あそこだ!」
ディードの様子を心配そうに見つめていたジグ、その人間味のある優しさに少し安堵するディードだったのだが、突如遠くの方から大きな声が響き渡る。
それは青い外套の男だった。
外套の男は何の警戒も無くディードに近づく。
自分の判断の甘さに自分を呪う事も知らずに。
「そこの冒険者!?そのゴーレムは我々の開発した物だ。離れろ、盗人め。」
「な、盗人!?いきなり来てそれは酷い言い草じゃないですか?」
「黙れ、出来損ないの亜人と獣風情が。こちらはスカーレット騎士団の精鋭部隊だ。引っ込め卑しい冒険者風情が。」
口汚く罵る青い外套の男は、さも自分が格上であるかの様に振舞う。
その様子にライーザが前に出ようとしたがディードの手が彼女を制止する。
「ディード殿!?ここは私が・・・。」
「いい・・・むしろ俺にやらせてくれ。」
「っつ!?」
地の底から湧き上がる呻き声の様なディードに声にライーザだけでは無く、リリアもレミィも驚く。
ゆっくりと立ち上がる、その背後から立ち上がる魔力、周囲の景色をまるで陽炎のように歪ませていた。
「そこの口だけ角だけの貧弱の魔族、今俺は非常に機嫌が悪いさっさと失せろ。」
「なっ!?き、貴様ぁぁ!」
魔族を見抜かれさらに種族の誇りでもある角を馬鹿にされ外套の男は激怒する。
その怒りこそが素性を自白しているのだが、我を忘れた男はディードに問答無用で魔法を撃ち込む。
「炎よ我が意のままに敵を討ち抜け!?『火の矢』」
詠唱と共に外套の男の周囲に現れる5本の火の矢、ディードを狙い撃つように一世に放たれる。
ほぼ不意打ちとなった魔法攻撃、外套の男はディードが避ける事無く火の矢に打ち抜かれ燃える姿を想像し顔をニヤつかせた。
「ははは、魔族を侮辱した罰で極刑だ。死んでしまえ!」
しかし火の矢はディードの身体を貫く事無く、彼の目の前に現れた水の壁にとって阻まれ5本共消え去る。
「なっ!水壁。魔法使いか。」
「魔族ってのはこの程度の弱さなのか?リリア。」
「そんな訳ないじゃない。こんなのただの末端よ。」
「き、貴様らあああ!?」
侮辱され更に激怒する外套の男、するとそこにもう一人の外套の男が到着する。
「おい!何を騒いでいる!?揉め事は明日まで厳禁と言われているだろう!?」
「そんな事どうだっていい!アイツ等を始末するぞ。魔族って事がバレている。」
「勝手に自爆したんだけどね。そこの小角の男が。」
「きっっさまぁあああああああああ!」
「馬鹿やめろ!」
制止を聞かず外套の男は火の矢を無数に繰り出す。次々と生まれてはディードに向って放たれる火の矢。
ディードは眉を顰め水壁の幅を広げる。
連続で魔法を繰り出すせいか、外套の男の魔法の精度があまり良くなく、ディードから狙いがズレていた。
時間にして1分程の火の矢が放たれる。火の矢は音を立てディードの水壁に吸い込まれるように刺さって行く。
次第に辺りは水蒸気と土埃が立ち込め視界を遮っていた。
「はぁはぁはぁ・・・・どうだ、角無しの半端な亜人共め。」
「馬鹿野郎!?周囲が火事になったらどーする!」
「大丈夫だ。キイフ、どうせ明日にはこの街にの人間は全て傀儡の道具になるだけだし、少し死が早まっただけだ。」
「詳しく教えて貰おうか。」
目の前にゆっくりと歩くディードの姿。
それを目撃した外套の男達は驚愕する。
「馬鹿な。俺の全力の魔法を無傷だと?」
「ああああああぺラノ!?お前なんて奴に手を出した!?」
「どうした?キイフ。」
「ま、魔力が・・・。」
「魔力がどうした!?俺はお前の様に魔力を可視化出来ないんだぞ!?説明しろ。」
「貴族・・・王族クラスの魔力を持つ奴が2人いる。」
「はぁ!?」
キイフという外套の人物は相手の魔力量を目視できる、可視化という魔法を使っている。
その瞳に映る魔力の量、黒い狐の獣人に扮するライーザとエルカーラは人間が持つ魔力の量でもそこそこだが魔族と比べれば低い方。
レミィは獣人でありながらその魔力の量はかなり多くキイフと同じ位の魔力を持っている。
だが魔法のみで戦うのであればキイフとドぺラノの2人掛りなら楽に倒せる相手程の魔力量であった。
魔力量を人間側の冒険者ランクに例えると、ライーザ、エルカーラはCランク。
レミィがBランクといった感じだ。
問題はディードとリリアの2人だった。
キイフはディードの魔力を見て驚愕する、彼の魔力量は貴族と同等、冒険者ランクに例えるとAランクの上の方に位置をする。
しかも異なる3つの魔力を持っていた。
「な、なんなんだコイツ・・・・いや、それよりも。」
「何かしら?」
「ひぃ!?」
ディードから目を逸らすようにリリアを見つめるキイフ、だが睨み返され彼女は悲鳴を上げる。
その魔力量は他の追随を許さない程の魔力量だった。
簡単に言えばディードの倍を持っている。
他の種族よりも多くの魔力を保有する魔族は、その魔力を制御する為に角を持つ。
魔力が多ければ多いほど角は比例して大きくなるのだが、リリアにはそれが見当たらない。
それでいて制御出来ている様に見えるリリア、それと異質な魔力を持つディードにキイフは半ば恐慌状態に入っている。
「あ、あり得ない、ありえない!・・・なんで王族クラスの亜人がここに?」
「おい!しっかりしろ、魔力量だけで判断するな。戦略的に挑めば時間を稼げるだろ?俺がもう1回火の矢を撃ちまくる。お前はその間に逃げて仲間を呼べ。」
「悪いけどそれは出来ない相談だな。」
「なっ!?」
2人が話している間、いつの間にか接近していたディードは2人の足元を氷獄で凍らせ逃走を防いでいた。
「い、いつの間に!?」
「あわわわわわ。」
「聞きたい事がある。素直に話せば手荒なことはしないつもりだ。協力しろ。」
「下等亜人の癖に!?」
ディードの言葉にペラノは咄嗟に手をかざし魔法を撃ちだそうとする。
だがディードの正面に手をかざした時、彼の腕は既に凍っていた。
「う、うわああああ腕が!?くそ下等な亜人の癖に。」
「その下等な亜人にやられるお前はなんだ?ゴブリンか?」
「このゴミ共めぇぇぇ。」
「話にならないな。」
ディードは片足を振り上げる。それと共に地面から石柱がせせりだしペラノの腹部に命中する。
「なっ!ごっ――!?」
空気を強制的に抜かれた様な声を出しながらペラノは吹き飛ばされ壁に激突する。
衝撃と激痛のせいか、彼はその場に崩れ倒れ込み気を失っている。
だが意識を取り戻した時、彼は苦痛で苦しむことになるだろう。
彼の両足は氷獄から強引に抜け出させられたせいか折れていてあり得ない方に曲がっている。
さらに腕は凍っており利き腕は使い物にならない。
「氷、土魔法・・・しかも無詠唱で・・・」
「次はお前か?」
「ひぃ・・・や、やめ。」
ディードがキイフに近づこうと1歩1歩と歩み寄る。
逃げなければ殺される、そう思いキイフは踵を返そうとするのだが恐怖で足がすくんで動けないでいる。
「もう1度だけ言うぞ、聞きたい事がある協力しろ。」
「ひゃ、ひゃい!?」
ディードの言葉に気圧されたキイフは涙がらに彼の質問に答えるのだった。