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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
石の涙
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第143話 我が子

 

 明け方に産まれた赤ん坊は、今はぐっすりと母親の腕の中で眠っている。

 一方のエルカーラは何とも言えない表情で赤ん坊を見つめながら抱きかかえている。

 出産による肉体疲労があるのに関わらず、彼女は眠らずに布に包まれている赤ん坊を見ていた。

 リリアやレミィが少しでも眠る様にと促していたのだが、”眠気が無い”といい拒否していた。


 リリアとレミィは今浅い眠りについている。ディードは食事の準備、ライーザは周囲の警戒を行っていた。


(・・・・・)


 エルカーラは周囲を見渡す、脇で小さい寝息を立てているリリアとレミィ、外には背中を向けて食事を作っているディードとライーザの姿を視界に収めている。

(やるなら今しか・・・・)


 エルカーラの身体に力が入る。

 それと同時に全身からにじみ出る緊張感と嫌悪感に身を捻じり切られるような錯覚さえ覚える。

 だか彼女はそれでもやらなければならない!といった面持ちで赤ん坊を床にそっと置き、馬車の中にあった長剣に手を取り赤ん坊の元へと向かおうとした。


「始末するのかい?我が子を・・・・」


 その言葉に胸を鷲掴みにされる様な感覚を覚えるエルカーラ。

 先程まで背中を見せていたディードの姿が見当たらず、いつの間にか目に前に来ていた。


「・・・こうするしかないんだ。わかって。」

「わからないな。自分のお腹を痛めやっとの思いで産んだ子を手にかける感情は俺にはわからない。」

「だって・・・こうするしかないじゃない。この子の為にも私の復讐の為にも・・・・それに・・・この子の腕は・・・もう。」


 涙ながらに言葉を絞り出すエルカーラ。

 彼女の視線の先、赤ん坊の右手は石に包まれていた。


「これから先、人より多くの苦労を辿る運命にあるわ。もしかすると魔物にもなる可能性もあるかもしれない。そんな実験を受けてしまった子よ?」

「だから今の内に・・・・か?」

「ええ、そうよ。苦しむ人生を歩む位なら、ここで全てを断ち切ってあげるのも・・・母親の役目め。そして復讐を必ず成し遂げる。」


 長剣を握り締める手が震える。それでもその震えを押さえつけようと必死に力を込めるエルカーラ。


「復讐は悲しみしか生まないよ。」

「それでも私は抗い続けるわ。こんな事になった責任を取らせるために・・・」

「それはインディス子爵にかい?」

「ええ・・・そうよ。」

「すまないが、それは出来そうにないんだ。」

「それは貴方が私と止めると言う事?」

「いいや、違うんだ。インディスはもう壊れてしまっているんだ。」


 ディードはインディス子爵がグラドゥで起こした事件の事を簡潔に話した。


「それじゃ・・もうインディスは元に戻る可能性ないって事?」

「ああ、精神的は完全に崩壊しているみたいだし、仮に元に戻っても罪を償わせれる事は間違いないだろう。」

「寝ても覚めても地獄って訳ね・・・・。」

「どうだい、その子を生きてみては?」

「今にも石に取り込まれるか、魔物化するかもしれない子と?」

「その事についてはこれで解決できると思う。」


 ディードは目の前にアイテムボックスと呼び寄せある物を取り出す。

 その様子を見ていたエルカーラは驚く。


「収納魔法・・・。」

「ああ、アイテムボックスって言うんだ。まぁ少し特殊なんだけど、それよりもこれを見て欲しい。」


 ディードがエルカーラに見せた物は一つの小さい緑色の宝石であった。

 それを見たエルカーラは怪訝な顔をする。


「それは?」

「これは()()()()()()()装飾品でね。体内の余分な魔力をを吸い取る効果があるんだ。これをあの子の右手に添えてみてくれ。」


 エルカーラは怪訝な顔をしながらもその宝石を受け取り赤ん坊の右手に添える。

 すると、その宝石は淡い緑色の光を放つと同時にその石の中に融けるように中に入って行く。

 そして右手を覆っていた石は跡形もなく消え去り、赤ん坊の右手は元に戻っていった。


「・・・・これは魔石なの?」

「正確にはトレントの魔核を数個使った疑似魔道具みたいなものだ。能力はただ余剰分の魔力を吸い取るだけ。大人になる頃には砕けると思うが、それまでは普通の生活ができる。」

「・・・そうなの。」

「ああ、それでも不安になったら、また俺達の所に来るといい。一応予備は作って渡しておくから。」


 膝を折り寝ている赤ん坊を見つめるディード。

 その様子をみたエルカーラは長剣をその場にそっと置き、赤ん坊を抱き上げる。

 母親の温もりを感じたのか、赤ん坊は安心したかのようにスヤスヤと眠っている。


「それでも私は復讐を諦めないわ。」

「それは構わない、だが目の前にいる命は決して罪な子でも失敗の証でもない。一つの無垢な生命だ。それだけは分かって欲しい。」

「・・・そうね、あの男達共には復讐出来たし、この子の命だけは取らないだ上げるわ。でも・・・・」


 赤ん坊を抱きしめ暗い顔をするエルカーラ。

 彼女は今後の事を考えていた。

 復讐とはいえ街で大勢の人間を殺めてしまった彼女は、今後の事を懸念する。

 彼女は街を出る時、荷物は無く剣1本で街を出てきている。

 つまりは金が無い。金が無ければ稼ぐしかないのだが、稼ぎ方がかなり限定される。

 今迄の様にギルドから依頼を受け、討伐や採取に励むことは出来ないだろう。

 となれば職人や飲食などの従業員になればやっていけるかもしれないが、少なくともゲートウォールの街ではそれは出来ない。

 何故なら彼女の首に懸賞金が掛かっている可能性があり、街に入れるどうかわからない。

 どこかの村ならば生きていけると可能性はあるが、いつ賞金稼ぎが来るかわからない。

 そうなれば日銭を稼ぐ為に娼館で働くか、盗賊などの裏の道しか残っていない。

 そんな未来を憂いて彼女の顔は笑顔になれないでいる。

 そんな彼女を見越してなのだろうか、ディードはアイテムボックスから1つの革袋を取り出し彼女に差し出す。


「これは・・・?」

「直ぐには冒険者には戻れないだろうし子供の世話もあるだろう。だからこれを受け取って欲しい。」


 彼女がそれを受け取り中身を確認すると、金貨が溢れんばかりに入っていた。


「ちょっ!これ!」

「50枚程入っているから少なくとも1年くらいは何もしないでやっていけると思う。」

「金貨50枚って貴方馬鹿じゃ無いの?こんな見ず知らずの女に大金渡して、一体どういうつもり?」

「馬鹿も馬鹿なのよ、うちの彼は。」

「そうですね、お人好しで大馬鹿です。でもそのおかげで私達がここに居るんですから。」


 リリアとレミィがゆっくりと起きだしてくる。どうやら途中から話を聞いていたらしく口を挟む。


「ディー、そのお金は街から出る時のお金?」

「ああ、大丈夫俺達のは少し残してあるから。」

「はぁ、まったく呆れるわ。」

「でもそれがディードさんのいい所ですし。」

「まぁ・・・そうなんだけどね。」


 少し顔を赤らめながら言うリリアと笑顔のレミィ。


「貴方達なんで止めないの?こんな大金を目の前で渡しているのよ?」

「・・・そうね少しお説教をしたい所だけど受け取っておきなさい。それでも気後れすると言うなら1つ提案があるわ。」

「提案?」

「ええ、貴女が捕まっていたいた施設を案内してくれる?確認しておきたい事があるの。」


 その言葉にエルカーラは少し考える。

 自分にとっては嫌な場所でしかない、だがこの大金を無償で受けるのにも気が引ける思いなのだ。

 少しの考えた末彼女は決心する。


「わかった、案内する。だが街で私の扱いがどうなっているかわからないから、出口を遠くから見るだけでなるかも知れないがいいか?」

「う~ん、できれば施設を見て見たいのだけど・・・・」

「リリア、何故その施設を見て見たいんだ?」

「ちょっと・・・気がかりがあるのよ。理由は後で・・・ね?」


 ディードの言葉にリリアは言葉を濁す。

 どうやらここでは言えないことがあるらしく、2人きりの時か、レミィと3人の時だけに話したいらしい。


 リリアは施設が見たいが、その場所を知っているのはエルカーラだけ。

 おおよその場所を教えてくれれば、ディード達で入る事が出来る。

 子供を産んだばかりのエルカーラを一人で置いて行く訳には行かないと困惑していた所、不意にファグからの念話が届いてくる。


『その悩みは解決してやろう。』

『本当か?』

『ああ、先程の宝石代と合わせて、馬の魔物の肉を2頭分。それとレミィを住処(バックヤード)に寄越してくれ。』

『馬の肉はいいけど、レミィちゃんはどうして?』

『来たら説明する。ってかそっちの方が早い。早く肉ヨコセ。』


 一方的に念話が切れ困惑するディード。


「リリア、その悩みは解決できるかも知れない。」

「ディー本当?」

「ああ、少し住処に行ってくる。レミィちゃんを連れて。」

「私ですか?」

アイツ(ファグ)の指名だからな、少し行ってくるよ。」


 ディードはその場に座り込み、レミィと共に住処へ行くべく手を繋ぎながら眠りへと入って行く。

 その様子を見たエルカーラは何が起こっているは理解出来ずに困惑する。

 視線をリリアの方に向けたのだが、彼女は肩をすくめるだけで説明する気がない。


 そうこうしている内にどこから焦げた匂いが立ち込める。

 その匂いの方を辿ると、先程までディードが調理をしていた場所にライーザが居た。


「ちょっ!ライーザさん!何をしているの?」

「何って料理を()()()()と言われて見ていたのだが?」

「見ているだけなの!?って焦げてる!焦げてる!?」

「む、そうなのか?・・・そういう料理だと思っていたのだが?」

「ライーザさん、もしかして料理した事って無いの?」

「・・・?料理は料理人の資格がある奴がないとしてはいけないのではないのか?」

「あぁ~!ディーのバカぁああ!ちゃん作ってからいけー!?」


 ライーザの抜けた発言にリリアの咆哮が草原に虚しく響き渡る。

 それからディード達が住処から戻って来たのは3の鐘(正午)が鳴る頃の事だった。

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