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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
石の涙
150/221

第140話 新天地への道のり

 

 ――――

 ――


 私は夢を見る。

 長い長い微睡(まどろみ)の中、いつも見る夢。


 私は海から幸を頂き、それを(かご)に詰め丘へと登る。

 いつものように岩場から着替えを取り支度を済ませる。

 身支度を済ませたら、最後に軽く髪を整える。

 海の幸をもって私は彼の元に行く。

 愛おしい彼の元へ。


 彼は私を見つけると、走って迎えに来てくれる。

 海の幸を片手に私は彼と抱き合い、口づけを交わす。

 持って来た海の幸で料理をし2人で食べ、夜は彼と甘い夜を過ごす。

 優しく触れられ、求められるこの時間が一番幸せを感じる。

 このまま幸せに包まれながら眠りたい。

 だけど、楽しい夢はそこでいつも切り替わる。


 次に目に入って来る風景は殺風景な石造りの部屋・・・・牢獄。

 私は鉄の鎖でつながれ身動きが出来ない。そして目の前に鞭を打たれる彼の姿が・・・

 やめて!彼が死んじゃう。お願いやめて!?

 喉がかすれる程叫んでいても、鞭は彼を容赦なく打ち続ける。

 そして彼は動かなくなると鞭が止まる。

 そう、彼は死んでしまった。

 優しい声も、身体の温もりも感じる事が出来ない。

 彼は物言わぬ(むくろ)となり、彼の身体にいくつもの石が塗りつけられ張りつけられていく。

 

 私は悲しくなり大粒の涙を流す。

 その大粒の涙は大地に触れるとそこから海が現れ、私は海の中に沈む。

 海の中で漂う私は、さっきまで何をしていたのかを思い出せなくなっていた。

 

 私は何をしようとしていたんだっけ・・・・?

 そうだわ、海の幸を彼に届ける為に私は海に来ていたんだった。

 何か悪い夢を見ていたような気がするけど、今は目の前にある海の幸に手を伸ばそう。




 そして私は海の幸を手に取り、愛しい彼の元へ


 ――――

 ――







 ライーザは心地の良い揺れから目を覚ます。


「ん・・・・ここは?・・・私は気を失っていたのか。」


 メイとリン、2人を説得する為に始まった模擬戦は一晩中続いた後、メイの奇策によってライーザは敗北をせざるを得なかった。

 その後ディード達の不思議な幌馬車に乗り込み、グラドゥの街が見えなくなる頃、意識が途切れた事を思い出す。


(それにしても疲れていたとはいえ、馬車で眠り込んだのは初めてかもしれないな。それに白い布までかけてくれていたのか。)


 ライーザは自分が横になっていた場所に視線を落とす。

 身体に白い布が掛けられ、自身の下にも布が敷かれていた。

 その布のしたのは何か弾力性のある物が敷かれており、それが馬車の揺れを軽減してくれているようだ。


(今どの辺を走っているのだろうか?)


 ライーザが視線を外に向ける。


(な、なんだこの速さは?)


 流れる景色が彼女の視界に入る。

 早馬を全力で走らせた時と同じぐらいのスピードを幌馬車(ほろばしゃ)が走っている。

 ゲートウォールの街までは1本道だが決して舗装されている道ではない。

 凹凸(おうとつ)もあり鬱蒼(うっそう)とした茂みもある場所もあり、勿論魔物も出る。

 それを物ともせずに駆け、さらに叩きつけるような揺れも感じさせない幌馬車に驚きを隠せないでいた。



「・・う・・・んむぅう。」


 不意に自分の足元から声が聞こえる、視線を落としてみるとそこには今まさに起きたばっかりのレミィの姿いる。

 寝ぼけ眼でボーっとしている彼女はに対しライーザは声をかける。


「え・・っと。おはようなのか?レミィ殿。」

「ふぇ?・・・ああおはようじゃいましゅライーザしゃん。」

「その・・・大分疲れているようだが大丈夫か?」

「ほぇ?・・・だいじょうぶれふ。魔力を使い切っちゃっただけなので・・。」

「魔力を?一体何に?」

「ん?起きたかい2人共?」


 レミィとライーザの話し声に気づいたディードは幌馬車の速度を落としながら後ろを振り向く。

 ゆっくり流れる景色を確認してレミィはディードの背中に抱き着く。


「ディードさんお疲れ様です。」

「レミィちゃん寝ぼけている?」

「ん~・・・初めて魔力を空にしたせいか頭がボーっとしてて、もう少しこうさせてください。」

「いいよ。俺達もそろそろ野営の準備ようかと話していた所だし、なぁリリア。」

「そうね。私も魔力半分くらい使っちゃったからさすがに疲れたわ。」


 御者台で腕を伸ばし軽く体をほぐしたリリアはディードの肩に寄りかかる。

 後ろから甘えるレミィ、横から寄りかかってくるリリア達の体温を感じ、少し照れたながらも御者台にあるハンドルを手にかけていた。


「すまない、ディード殿。眠ってしまっていたようだ。」

「ああ、ライーザさん。よく眠れたかい?」

「大分眠ってしまったいたようだな。すまない、今夜の野営の見張りは私に任せてくれ。」

「はははは、気にしなくていいよ。この幌馬車は魔力で動かすから、魔力の少ない人は厳しいみたいだしね。」

「・・・ディードさん少し意地悪です。リリアさんやディードさん達の魔力量を獣人に求めないでください。」


 少し不貞腐れ気味にレミィが言う。それに苦笑いするディードとリリア。

 少し前レミィはこの幌馬車を運転して見たのだが、あまりの魔力の消費量に自身の魔力がすぐ空になり、気を失いかけライーザの近くで寝ていた。


「あ~ごめんねレミィちゃん。そんなつもりじゃなかったんだけど・・・・。」

「なら、今夜夕食にクレープ作ってください、それで手打ちです。」

「了解、それじゃ日も傾きかけて来たし、どこか良い場所でも・・・。」

「・・・ちょっと待ってくれディード殿、右奥の方に何かあるのか見えるか?」

「右・・奥?。・・・・村か?」


 ライーザの指さす方向にディードは目を凝らすと草むらの奥の方に家が数件立っているのが見える。

 だが周囲は草むらに埋もれている様な場所であり、とても人が住んでいる様にも見えなかった。


「申し訳ないがそこに連れて行って欲しい。」

「それは構わないけど、何かあるのかい?」

「ああ、あの村は廃村(はいそん)だ。あの村が見えるという事はゲートウォールはすぐ近くの距離だ。少し見ておきたくな。」


 そう言うとライーザは少し寂しそうな顔をしながらその廃村を見ていた。


 ディード達は廃村へと入って行く。

 数年は放置していた場所であったのだろう、廃村を囲う柵は所々折れていたり朽ちていた所が多い。

 建物は3つ程あるが1つは屋根だけ、1つは倒壊しかかっており傾いている。


 ライーザは廃村を入ると周囲を探し、目的の物を見つけそこに立ち寄った。

 そこは1つの石碑だった。

 彼女はそこを見つけると、両手を組み合わせ片膝をつき祈りを捧げていた。


 (どうか安らかに・・・そして、あの2人の成長を見届けてくれ)





「すまなかったな。ここに来たかったのだが、あの2()()には辛い思いをさせたくなかったのでな。」

「ここは彼女達(メイとリン)の村だったのか?」

「・・・この村は主に麦の生産、増産を担う計画の元作られた村だったんだ。」


 ライーザは語る。

 この廃村はかつてメイとリンの親達がゲートウォールから麦の増産を命じられ30名程移住してきた村だったという。

 しかし出来て間もない頃、駐在していた兵士達が突然の病にかかり、一時ゲートウォールの治療院に向い、代理の兵士が来る前に魔物達によって襲撃されてしまったという。

 そして生き残ったのはメイとリンを含む子供数人だけだったという。


「代理の兵士達によって魔物は追い払われた。数名が備蓄用の地下室に逃げ込み難を逃れたそうだ。」

「メイとリンはその生き残りだったのか。」

「ああ・・・そしてこの計画を立てたのは、ハヴィ様だ。」

「そうだったのか・・・・。」

「本当ならばこの村は、直ぐに防護柵を作り警備を固める予定だったのだが、中々思うように進まなくてな、先に領民と兵士が送られ、結果こうなった・・・。」



 祈りを終えたライーザは辺りを見回す。


「ディード殿少しワガママを言ってもいいだろうか?」

「どんなワガママだい?」

「この石碑の周囲、少し掃除してやりたのだ・・・構わないだろうか?」

「なら今日はここで泊まるとしようか、俺達も手伝うよ。」

「いや、それはさすがに申し訳ない。夕飯までに終わらせるからやらせてくれないか?」

「いいえ、私も手伝わせてください。」


 そう言ってきたのはレミィだ。


「無くなった人達を弔い、祈りを捧げる事はワガママじゃありません。」

「・・・何から何まですまない。恩に着る。」

「いえ、私もそう思える迄少し時間が掛かりましたから。」


 レミィもまた魔物によって村を追われた一人だ。

 魔物によって親と死に別れ、ディードに救われるまで彼女もまた苦労してきた身だった。

 その後レミィは自分の住んでいた村にディード達と訪れ、荒れ放題だった村を整理、墓標を作り鎮魂を願っていた。


 石碑周辺をライーザが、荒れた広場をディード達3人がそれぞれ作業に取り掛かる。

 日が暮れる前にディード達は周辺の草を取り払い場所を確保する事が出来た。





 夜、夕食時。


「な、なんだこの白くて甘い食べ物は!?」


 軽めの夕食の後、ディードはレミィの願いもあってクレープを作る。

 リリアとレミィは2枚づつ甘味を喜びながら食べていた。

 ライーザにも振舞われ、初めて食べる食感と甘さに驚いている。


「美味しいでしょ?」

「ああ、この白い甘みがなんとも言えない。そして外側の薄い皮も果物と白いのも包み込み、一体感を奏でている。素晴らしい!?」

「喜んでくれて何よりだ。」


 初めて食べるクレープに感激し饒舌に語るライーザ。

 さらに野外で初めて風呂を体験した彼女は、感激しディードにそのままの姿で感動を伝えようとしたのだが、リリアとレミィの2人によって阻止された。


「もしかして、メイとリンってかなりの苦労人だったんじゃ?」

「そうかも知れないですね。」





 夜も更け、野営のたき火だけが周囲を明るく照らす。

 ライーザはそのたき火から少し離れた所で、ディードから預かった刀を振っている。

 彼女の武器は武器を持っていなかった。

 さすがに素手で魔物と対峙するには危険すぎるのでディードが自分の刀を預けたのだ。


 風呂を済ませたディードとリリアは早々に幌馬車へと入り眠りについている。


「・・・うむ、いい武器だな。エストックのような突き専用の武器かと思ったが、斬る事にも重点を置いてある片刃の武器か・・・面白い。」

「綺麗な太刀筋ですね。初めて扱う武器とは思えないほどきれいな太刀筋でした。」


 たき火の近くでライーザの剣筋を感嘆しと様子でみるレミィは率直な意見を述べる。


「うまく説明出来ないのだが、この刀を握った瞬間、どう扱うのが適しているのが頭の中にふっと沸いてきてな。思うように振るったまでだ。」

「それは凄いですね・・・・・それじゃ早速ですけど試してみます?あっちから何かが来るようなので。」


 レミィが指を差す方向に黒い魔物がこちらに迫ってくる。

 すぐさま迎撃態勢を構えたライーザ。

 レミィは魔物が来た事を知らせる為、幌馬車を大きく2回叩きディード達に声をかける。



 ライーザが目をよく凝らし近づいてくる魔物に驚く。


「・・・・あれは夜馬(ナイトホース)、それに影梟(シャドーオウル)か?何故?」

「何故だか知らないけど、こっちに向って襲って来るなら迎撃するかないですよ。」

「少し様子がおかしいがこちらに気づいても向かって来るから仕方が無いな、迎撃しよう。」


 レミィとライーザは程同時に駆け出す。

 夜馬は全長2mに満たない比較的小さな馬、全身が黒く赤い瞳が激しく上下に揺れこちらに向かって来る、それが3頭。

 影梟は全長1mにも満たない小さな種類の梟。こちらも闇に紛れて動く魔物なのだろうか、全身が黒く正面に大きな瞳がこちらに向かって来る、それが4羽。


「ライーザさん、あの2種類で厄介なのはどっちですか?」

「影梟の方だ。あれは上に飛び相手を眠らせる魔法を使って来る。」

「分かりました。じゃぁそっちは馬をお願いします。」


 レミィはそういうと、高く飛び上がり、足元に兎の盾を展開させ空を翔け上がる。

 突如空を翔け上がる様に迫ってくる白い影に影梟は驚き魔法を使おうとしたのだが、胸に剣が刺さる、レミィによる投擲だ。

 だがその剣はすぐさま引き抜かれる。

 彼女の双剣の柄についている魔法の弦で繋がっており、すぐさま自分の元に引き寄せたのだ。

 もう1羽も同じ方法で双剣を投げ突き刺す。残る2羽は慌てて上空に飛び難を逃れ、魔法を撃とうしたのだが、上空を走る様に駆け上がってくるレミィに魔法を当て荒れるはずがなく、2羽と同じ運命を辿った。


 下ではライーザが2頭を相手に少し手間取ったが隙を見て夜馬の首を斬る。

 首と胴体を切り離された夜馬は、少し前を走りながら突然バランスを崩し倒れた。


「残り1頭は・・・・ディード殿!?そっちに向かって行ったぞ!?」


 たき火を消そうとしたのか、3頭いた夜馬の内1頭はライーザから大きく迂回し幌馬車へと向かって行った。


「大丈夫ですよ。」

「レミィ殿。」

「ほら、リリアさんが・・・・あ・・・あぁ~。」


 幌馬車から勢いよく飛び出してきたリリアは、目の前迫ってくる夜馬に対し剣を抜き、チャージを使い夜馬を縦に真っ二つに斬り裂く。


「今のは・・・なんだ・・?」

「リリアさんですね・・・・。」

「見間違いか?剣がいきなり大きくなったが?」

「あれはリリアさんの剣に付いている特殊な機能です。魔力を大きく消費する代わりに、ああやって大きくなりますね。」

「そんな武器は聞いた事がないぞ?」

「でしょうね、あれはディードさんのお手製でリリアさん専用の剣なのですから。」


 唖然とするライーザ。

 レミィはディードに魔物を収納してもらう為、幌馬車へと駆け寄る。


「レミィちゃん、お疲れ。」

「え?もう終わり?」

「ええ、一応は・・・あっちに退治した魔物がいますのでアイテムボックスに収納しますか?夜馬と影梟だそうです。」

「ああ、そうしようか。なんかうちの馬鹿2人が馬肉だってさっきから喜んでいるだ。1頭程肉を渡してもいいかな?」

「ふふふ、問題ないと思いますよ。」


 意気揚々と飛び出したものの、他に魔物が居ない事に残念がるリリア。

 そんな彼女を見てディードは少し苦笑いするも次々に魔物をアイテムボックスへと収納していく。


「ライーザさんもお疲れ様。」

「ああ、そっちに1頭取り逃がしたみたいですまなかったな。」

「気にしなくていいよ。強い魔物じゃ無かったし。」

「それなんだが・・・・少し変だったんだが。」

「変?」


 ライーザは左拳を顎の所にまで持って行き考え込みながら話す。


「ああ、あの2種類の魔物は基本森にしか生息し魔物だ。しかも敵を待ち構えるタイプの魔物だ。」

「でもあの魔物達は俺達に向って来たぞ?。」

「魔物達は明らかに様子がおかしかった。もしかしたら逃げ来てのかも知れないな。」

「逃げて来たと言うと、アイツ等を狙っていた魔物が居たって言う事か?。」

「ああ、それに怯え逃げて来た進路に私達がいたって事になるかも知れないな。あくまでも予測だが・・・。」



 考え込んでいるとライーザだったのだが、突如刀を構え臨戦態勢を取る。

 レミィも同じく双剣を構え一点を凝視した。

 直後に強い殺気がディード達に流れ込んで来る。

 それは怨念にも似た感情、ドス黒いオーラのようなものが肌をすり抜ける。

 先程、魔物達が来た方向からその殺気は感じられた。


「ディードさん。もの凄い殺気を放って来る者がいます!」

「ああ、俺も今感じた。ライーザさんの予測は当たってたな。」


 リリアも武器を構え戦闘態勢に入る。


 やがてその殺気の主の姿がディード達の視界に入って来た。

 その姿は片手に長剣を持ち、髪を前に下げ、返り血を浴び薄汚れた白い衣服をまとった、一人の人間だった。

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