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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
形ある物
149/221

閑話 イーグとフォルの約束

 


 私の名前はイーグ。

 この街で冒険者のギルドマスターを務めている。

 そして今、重要書類に自分のサインを書き、割り印を押し一通り確認してから声をかける。


「終わりました。ご確認お願いします。」


 無言で割り印を押された書類に目を通すのはラスティア王国の使者であり、侯爵の身分を持つ男、名はクローズ伯爵。

 わざわざ王国から遠路はるばる魔物の素材を引き取りに来てくれた。

 しかしその顔から滲み出る表情は、苦い薬草でも噛んだようなしかめっ面。


「確かに・・・・。」

「何処か具合でも悪いのでしょうか?先程から苦悶の表情が滲み出ておりますが?」


 私は敢えて質問する。

 これはほんのちょっとした仕返しだ。


「・・・・大丈夫だ。少し長旅で疲れが出ているのかもしれんな。」

「そうですね。それなら少しお休み・・・という訳には行きませんね。何せこの量の魔物の素材を王国に届けないと行けませんから・・・・。」


 その書類の書かれていた魔物の量は、ここのギルドで持ち込まれる素材の半年分近い素材、更にはゲートウォールの採掘権を維持する為に20階層の主であるタートルドラゴンまで書かれている。


 このクローズ侯爵、実はこのグラドゥを乗っ取るつもりでここに来たのだ。

 乗っとる大義名分は反逆罪か、怠惰の罪か・・・恐らく策を講じて来てのだろうが無意味に終わってしまった。


 理由は魔物の素材だ。緊急依頼と称し大量の魔物の素材確保せよとの達しを寄越したのはほんの2週間前。

 そして王国からここグラドゥまでの距離と侯爵の兵士達の数を見て時間的に通知を出したとほぼ同時にこちらに向かってきた計算になる。


 到着と同時に集まっていない魔物素材を反逆もしくは依頼違反を決めつけ断罪、投獄か追放の手立てを考えていたのだろう。

 しかしディード君達が集めてくれた魔物の素材が役に立った。

 目録を見てクローズ侯爵は嘘だと判断し、嬉々として自分の兵士にギルドの倉庫を調べさせた。

 結果は目録を同じ量がそこにおいてあり保管されている。

 一応腐らない様に氷魔法で保管してあるが、鮮度は最近取ってきた物であるのは間違いない。

 信じられないという顔でこちらを見ている。


 信じられないだろうね。何せこの2日で魔物の素材が大量に揃ったわけだし、市場にも流通していなかったんだかから。

 君の放った密偵は中々いい仕事をしてくれたよ。

正確な情報を持って君の所へ行ってくれたのだから。


 そしてそれを見た兵士達が段取りが違う状況に指示を求めているが・・・私の知る由ではないかな。


「ゆ、優秀な冒険者がかなりいるようだな・・・。」

「ええ、まだランクDですがかなり優秀でした。」

「Dランク!?」

「ええ、()()()()()()A、Bランクの冒険者達は各地の困難な依頼を受けて飛び回っているので、今現在ランクB以上はグラドゥには居ないので、CランクとDランクの方々に頑張って貰いました。」

「そうか・・・。今もその冒険者はこの街に?」

「いえ残念ながら、他の依頼を受けて街を離れました。丁度入れ違いでしたね。まだ残っていればその目録の素材を全部持って王国へと行けたかもしれませんけど。」

「は?・・・何を言って?」

「彼等アイテムボックスというかなり希少な能力を持っていたのですよ。そのおかげで私は()()()()()()()()()()()()()()()わけなので。」


 嫌味を込めてそのまま彼に伝える、するとクローズ侯爵はさらに顔を歪ませる。

 正直マスターの座はどうでもいいのだ、ある約束を果たす為にこの席が必要だっただけで執着は無い。

 その約束も叶ったのでもうここに居る必要もないのだが、全て投げ捨てる訳にもいかないのでね。


「そんな冒険者がいたのか・・・?」

「ええ、ここに来て日が直ぐに頭角を現しましたね。ですがもうここに居ません。王国に行けば仕事がとか言っておりましたので、そちらに向かわれたのではないでしょうか?」

「くっ・・・・ちなみに名前は?」

「確か・・・()()()()()()だったと思います。途中冒険者と出会っていなければ海洋都市アクアノーレッジを経由するかも知れませんね。」

「そうか・・・ご協力感謝する。私達は王国へ戻るとする。」

「そうですか・・・着いたその日に戻るとは侯爵様も忙しい身なのですね、どうかお体にお気をつけて。」


 私の声を無視する形でクローズ侯爵は執務室を出て行く。

 倉庫から魔物の素材を持ち帰る為だろう。

 伯爵の兵士達は、段取りが変更されたせいか足並みが揃わずザワつく。



「ええい!だから素材を持って帰ると言っているのだ!?早くしろ!」


 侯爵の(げき)が執務室まで聞こえて来る。


 割り印を押した羊皮紙を握り締め、不機嫌なまま自分の馬車へと向かって行くのが安易に想像できる。

 少し愉快な気分に浸っていたのだが、フォルが壁をすり抜け私の元に飛んでくるのがわかった。

 フォルは精霊であり肉体を持たない彼に取っては壁をすり抜ける事も造作もない事だ。私の身に何かあった時の為に隣の部屋で待機していたようだった。

 そして壁を抜け私の方に乗ると、念話を飛ばしてくる。


『随分とご機嫌だな、わが友よ。』

『ええ、最近色々とありましたからねぇ。意地悪をする子供達にお仕置きをしていた所です。』

『ふ、子供か・・・。まぁ私からすれば、わが友も子供のようなものだがな。それにしても久ぶりに聞いたな・・・お主の昔の名を。』


 昔の名、私はフォルと契約する前、冒険者の頃はフォルイングと名乗っていた。

 一応私もアイテムボックスという能力を持っているが、性能はディード君の半分にも満たない。精々仲間内の荷物を預かる程度だ。

 私はエルフの魔導士としてランクBにまで上り詰める程の実力があった。

 数々の魔法の知識を手に入れ、更なる高見へと手を伸ばそうとした時、ふとしたことでフォルとであった。

 そしてフォルと精霊契約し、自分の名前を分け与えた。


 精霊契約とは、精霊の莫大な力を行使する為に対価を差し出し契約するというもの。

 そしてフォルは対価に私の名前を要求したのだ。


『ええ随分と忘れていましたけど、もう一人いたんですよねアイテムボックス持ちが。』

『エルフといえど年には勝てないか?』

『フォル、私はまだ100歳の若造ですよ。決して老いてはいないと思いますが?』

『くくく・・・そうであったな。』


 私の肩に乗りフォルは軽く羽ばたきをする。


『さて、イーグ。私の願いを叶えてくれて感謝する。ここに感謝の印として名を返そうと思う。』


 フォルは私と精霊契約をする際、一つの願いを託された。

 それはまだフォルが精霊としては力が弱い頃、偶然ではあったが彼を助けた存在がいた。

 白銀の鎧に藍色の髪、茶色の瞳、手には見た事もない槍の様な物を携え、果敢に巨大な闇に向おうとしている姿の戦士の姿。

 フォルの恩人の姿だった。

 その恩人はまだ精霊として自我の弱いフォルを守り、そして闇に消えて行った。

 それはライーザの母、アルテナのかつての姿だった。


『この時代で彼女の忘れ形見に出会い、そして私の思い出と感謝を彼女に届けけてくれた事に感謝し、名を返し君に仕えることを約束しよう。』


 君に仕える、それは精霊契約を破棄し主従関係になるとの提案。

 精霊の力が制限なく使え、彼達を使役できるという事。

 対等な関係を捨て、私に生涯仕えるというものだった。

 だが私は待ったをかけた。


『フォル、気持ちはありがたいですが名前の返上はいりません。』

『何故だ?』

『私の大切な友人を下に置くというのはどうも私の性に合っていませんので、関係はこのままでお願いします。』

『私はあの約束の為にエルフの森を捨てさせ、この街で現れるかわからない人物を探し続けてさせたのだぞ?』

『たかが50年程です。それにエルフの規律なんてもの、私を縛る為にあっただけで不要な物でしたので、こちらから捨てさせてもらいました。』


 フォルが驚いた様な素振りをする。


『それにね、フォル。近々貴方の助けが必要になる時が来ます。』

『・・・・戦争か?』

『ええ、近いうちに必ず起きます。その時に貴方の力が必要なのです。主従関係ではなく友人としての力が欲しいのです。そして見たくありませんか?彼等の行く末を・・・』

『・・・イーグ・・・わかった共に見ようか、彼等の行く末を。』

『ええ、見届けましょうか。この世界の行く末を・・・』







 同じ頃、グラドゥの治療院では、2人の治療師が両手を前に組み食事の祈りをささげていた。


「今日の明日の生きる糧を与えてくださる七色の女神様に感謝を。」

「感謝を――。」


 治療院のラーナは食事を終え、食後酒を楽しんでいた。


「ラーナ、ここの所忙しかったね。」

「そうね、エストラ。あの奇跡が起こってから私達忙しかったもんね。」


 あの奇跡とは、ディードが治療院に居た怪我人全員に回復魔法を掛け、回復させた事だ。


「いつ思い出してもあの奇跡は忘れられないわ。」

「そうね、あの女神像様が七色に光るなんてね。」


 ディードは治療院の裏側に周り回復魔法をかけたのだが、その際室内に置いてあった女神像がステンドグラスからの強い光を受け、七色に光るという事が起こっていた。

 その際ギルド職員だけではなく、その場にいた怪我人達の全員の傷が癒えた事はまさに奇跡の所業とも言える。

 勿論その光はディードの回復魔法であり奇跡では無い。

 だがその事を知らない2人には奇跡が起こったと錯覚してしまったのだ。


「これも女神様が奇跡を起こしたくれたおかげね。」

「そうね、あの奇跡は人間には起こせないもの。」


 範囲神聖回復(エリアリジェネヒール)などという魔法は普通の人間では扱える事が出来ない。

 神聖回復(リジェネヒール)を使うだけでも高位の神官3人がかりで一人を治せればよい方なのだ。

 なので範囲神聖回復などは扱えるものは居ないもの、存在するはずのない魔法を称されている。


「酔いが回る前にもう1度女神様に感謝の祈りをしておこうかしら?」

「もう既に酔いが回っているんじゃないの?」

「そうだとしても感謝の気持ちは一緒でしょ?」

「・・・それもそうね。わかった私も一緒に祈るわ。」


 ラーナとエストラは、女神像に向って日々の感謝と共に平穏を願って祈る。


「祈りましょう、我等人間を守護する女神。()()()()様の為に。」

「祈りましょう、七色の女神(イーリス)の感謝の祈りを。」


 彼女達は両手を組み静かに祈る。

 その祈りは届かないことも知らずに・・・

 純粋に祈りを捧げていた。

次話から新章に突入致します。

最後までお読み頂き感謝です。


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