第137話 話し合いと気迫
その後、後程話すという事で一旦落ち着きを取り戻した面々はギルドの倉庫へと足を向けた。
「突っ込みたい事は山程あるけど・・・・疲れた。」
「突っ込むのは言葉だけじゃないんと思うがね。」
ディードの言葉を茶化す様にファリップはニヤニヤと笑みを浮かべる。
その顔には何が言いたいのかが良く分かったディードは、容赦する必要がない判断しアイテムボックスの中から魔物を順次に取り出す。
当初の予定よりかなり多めの量を・・・・
決して小さくない倉庫だったのが準備取り出される魔物の数に、ファリップやココルだけではなく、その場に居たギルド職員達も声を失っていた。
そしてさらに驚く事に、魔物は綺麗に処理をされていて各素材ごとに順次置かれて行ったのだった。
骨は綺麗に肉をそぎ落とされ、皮は綺麗に剥ぎ取られ、肉に至っては血抜きまでもが終わっている状態だった。
「それじゃ、後の事はよろしくお願いします。査定も早めにね。」
「「・・・・・・・・・。」」
ディード、リリア、レミィの3人は足早に去っていく。
目の前に置かれた大量の魔物の素材を前に、言葉が出ずに茫然とするのはココルとファリップ。
「余計な事を言うんじゃなかったな・・・。」
「ファリップさんは責任取って人一倍査定頑張って下さいね。」
ココルの黒い笑みの前にファリップはただ力無く項垂れ返事をするしかなかった。
「取りあえず私達はお邪魔みたいなので、今日はここで上がらせていただきます。」
「お疲れ様でした~。また明日。」
「ん?何を言っているんだお前達、ちょっとどこへ行く?それにレミィ殿姿が・・・ええい!?私を置いて行くな。」
その場にいれば間違いなく雑用と残業を強制されそうな予感がしたメイとリンは、茫然とする職員達が我に返る前に逃げ出す事に成功、そしてライーザはそれを追うようにその場を後にする。
ディード達が倉庫からでると、受付では困った2人の顔が視界に入って来た。
「すみません。だけどこればっかりは・・・・・」
「そうですね・・・。ですが、規則としては容認できないので・・・・。」
「そ、そんな・・・私は失敗になってしまうのですか?。」
「う~~ん・・・・・。」
ギルドから出ようとしたディード達は、一人の冒険者風の男が受付に懇願するかのような形で依頼成功の是非を伺っていた。
「やっぱり開けてしまわれたら失敗扱いとなりますし。」
「そんな・・・・でも宛先の本人が開けたのなら問題ないじゃないですか!?」
「う~ん。」
首を捻り悩む受付嬢を他所にディード達はその場を離れようとする。
その後を突いてくるメイとリン、更にはライーザの姿もあった。
「あ!?」
「ん?」
受付嬢はライーザを見て声を出す。
「丁度良かったです。スカーレット騎士団のライーザさん本人がここにいるので彼女に是非を問います。」
「私に・・・・?一体どうしたのだ?。」
「まずはこれを見てください。」
受付嬢が渡した物は一通の手紙、しかも蝋封が解かれていた。
「開封された手紙・・・?」
「はい、そちらの冒険者さんがこちらに向かう途中、本来届けるはずのスカーレット騎士団の方をお見かけしたそうで、すれ違いになるとは思い声をかけたらしいのです。」
受付嬢が冒険者の男を指差す、彼は深く頭をさげ事の顛末を話し始めた。
彼はゲートウォールの街のギルドから依頼を受け、単身馬を走らせながらここ、グラドゥへと向かっていた。
そこに丁度スカーレット騎士団がこちらに向かって来るのを見かけ、手紙の事を話しビクトールへと面会を果たした。
差出人はスカーレット家の執事からビクトールとライーザの両名宛ての2通の手紙、内容は父であるハヴィが体調が悪化、危険な状態にありどちらかが直ぐに戻る様にと願いの手紙だった。
ビクトールはその手紙を見た途端、嬉々として喜び足早にスカーレット家へと足と進めたのだという。
そしてもう1通、ライーザ宛ての手紙も開封し内容を確認した後、彼に返却しその場を去ったという経緯だった。
「その為ギルドでは判別がしずらいのです。一応両名には手紙が届けられていられるんですが、開封された手紙を渡すという事はギルド側では依頼失敗に当たります。ですが、開けた人が目的の人物だった上に、無理矢理取られ開封された上に受領書にも判を押さずに足早に帰ってしまい・・・。」
「そうか・・・・。」
開封された手紙を見つめながらライーザは判断する。
読むと内容は、父ハヴィが危篤状態であり、今お抱えの魔術師によって延命が施されていると、出来ればどちらかが戻ってきて欲しいのとの事だった。
「届けてくれた事に感謝する。受付嬢、これは依頼成功でいい。」
「そうですか、それならこちらで依頼成功と判断さえて頂きます。後で受領印をお願い致しますね。」
「ああ、済まない・・・。」
冷静な落ち着いて言葉を交わしているように見えるライーザだったが、その心内は穏やかでは無かった。
「ライーザ様・・・・。」
「ああ・・・わかっている。急いで馬を借りて戻ろう。メイ、リン行くぞ。」
「「・・・・・」」
「メイ、リンどうした?」
少し悲し気の表情をした2人だったが、互いに見つめ合い覚悟を決めたのか共に頷きく。
「ライーザ様、私達はゲートウォールに戻りません。」
「ここ、グラドゥでギルド職員として働く事になりました。」
「・・・・な、何を言っている?。」
メイとリンの突然の告白にライーザは驚きを隠せない。
「私達はライーザ様をお助けする為にスカーレット騎士団を離れました。」
「ここ、グラドゥで・・・自分達の力で生活する事にしたのです。申し訳ありません。」
「2人共悪い冗談はよせ、今は一刻も早くスカーレット家に戻らないといけないのだ。お前達を置いて行くなど出来る訳なかろう。私を助ける為にスカーレット騎士団を抜けたというのであれば、ちゃんと説明すれば元に戻れる。だから今は変な事を言わないでくれ・・・・な?」
動揺しつつもなんとか冷静に説得を試みライーザに2人は少し寂し気な顔をしつつも首を縦に振る事はなかった。
「もう・・・・いいのです。ライーザ様、これ以上は無理に私達を庇わなくてもいいのです。」
「私達はここで頑張って生きて行きます。別にこれが別れじゃないので次の騎士団の遠征の時にでもお会いで――――。」
「何を言っているお前達!?兎に角話は後で聞く。今はゲートウォールに戻るぞ!?」
「「戻りません!?」」
「・・・・なっ!」
2人のハッキリとした意志表示にライーザは驚く。
メイとリンは上下関係も相まってか、今までライーザの意見に反抗した事は無かった。
「いいから来い!?」
「行きません!?」
「無理です!?」
「ええい!時間が惜しいというのに・・・こうなれば無理にでも・・・」
「ちょっと待った!」
行く行かないの問答が続く中、業を煮やしたライーザがメイの腕を掴もうと手を伸ばしたとき、ディードからの制止の声が入った。
「ディード殿、止めないでくれ!時間が惜しいんだ。早馬を借りて向かうとしてもゲートウォールに着くまで3日は掛かる、早く向かわなければ後悔する事になる。」
「それは彼女達が望まなくてもか?」
「移動しながら彼女達を説得する。だから今は・・・・。」
「今は・・・・・?無理矢理にでも連れて行くと?」
「うっ・・・・・。」
ディードのその言葉にライーザは言葉を詰まらせる。
彼女の自身も分かっている、無理矢理連れて行ってもメイやリン達は喜ぶわけがない。
仕事を奪い彼女達の自立の道を閉ざしてしまう事もわかっているのだが、今のライーザは彼女達と別れる事は出来なかった。
「なら、こうしようか。ちょっとそこまで来てくれ。」
「ディード殿なにを?」
「ディードさん?」
そう言うとディードはギルド内にある練習場の誰も居ない所へ3人を招く。
そこでアイテムボックスから数々の剣や槍、短剣などを取り出しその場に落とす。
それは先日路地裏で、襲ってきた冒険者達から巻き上げた武器達だった。
「・・・・ディード殿これは?」
「ああ、先日俺達を襲ってきた奴が置いて行った武器でね。ここで練習用にと思ってさ、刃は潰してある。」
「ディードさんこれで私達にどうしろと?」
「簡単さ、口で言ってもわからないのであれば、互いに思いをぶつければいい。どうせあそこで言い争っていても埒が明かないだろ?」
「だが、しかしそんな事をしている場合ではないのだ。こちらにも事情がある。一刻も早くスカーレット家に戻らなければならないのだ。」
「俺が早馬よりも早く届けてあげるよ。」
「な!?」
ディードの言葉に驚きを隠せないライーザ。
逆にメイとリンは「あー。」と気の抜けた声を揃えてはいている。
それは数日一緒にダンジョンに挑み、ディードの非常識な能力を目にしているから出る溜息に似た声、彼ならやり兼ねないと思ってただろう。
「早馬と言っても一日に走れる距離は60キロが良い所。悪路もあるし馬の疲れを考慮しても3日間同じ距離を走破出来ると思えない。俺が明日馬車を用意するからそれまでじっくり話し合い、3人で納得のいく結果になってて欲しい。」
「馬車を?・・・・ディードどの失礼だが、馬車になれば逆に速度が落ちる事を知っておられるか?」
「勿論、それは普通の馬車の話であって俺が作・・・・用意する馬車はそこらへんお馬よりはずっと長い距離を走る事が出来る。信じていてくれ。」
「しかし・・・・。」
そんなウマイ話などあるか?と言いたげな顔をするライーザにメイとリンは彼女の肩に手を置く。
「あの人に普通の常識を当てはめてはいけません。ライーザ様。」
「そうです。あの人に我々の常識は通じませんので・・・。」
「そ・・・そうなのか・・・?確かに少し思い当たる事もあったが・・・」
ライーザは住処であった出来事を思い出している。
彼にはアイリスという女神が住処に居る。
「し、しかしこれ以上ディード殿に頼るわけには行かない。私達の手でなんとか。」
「早馬3頭も用意するにしても、お金を用意できますか?」
「そ・・・それは・・・。」
馬を用意する・・・その為にもお金が必要だった事を失念していたライーザは愕然とする。自分の手持ちの金は奴隷商に行く時には既に持っておらず、例え持っていたとしても早馬3頭を用意する分は持っていない事を完全に忘れていた。
「だから1日待って欲しい、その間に3人でじっくりと話すといい。もし3人行くのであれば、魔法鞄の紅血設定も解除しなくちゃいけないし、先程出した魔物の査定も1日は掛かるだろうし・・・。」
「・・・・・わかった1日だけ待つ、話に乗ろう。すまぬがディード殿世話になる、報酬はゲートウォールに戻りちゃんと支払う。」
「ああ、報酬はその時にでも・・・・。明日の朝、この場所に来る。それまでに話をつけておいてください。・・・それじゃ。」
そう言うとディードはそのまま振り返る事無く練習場を後にする。
彼の姿を見送ると少し溜息をつき、ディードのおいて行った剣を1本拾う。
「彼に世話になりっぱなしだな。・・・・メイ、リン本当にここに残ると言うのだな?。」
「はい。」
「私達はここに残り生きて行きます。今までお世話になり――」
メイが話を続ける最中、突如ライーザに眼前に突きつきられた剣に言葉を失う。
その剣は刃を潰されていたとはいえ、ライーザがいつメイの目の前に剣を突き出したのか全く見えなかった。
「ら、ライーザ様・・・・?」
「この程度の動きに反応出来ないお前達はいずれダンジョンで命を落とすことになる。私はそれを避けたいのだ。もしそれでも我を通すのというのであれば、この私からこの剣を奪って見せよ。それが私に出来る譲歩だ。時間はディード殿が再びここに来るまでだ。」
その提案にメイとリンは動揺する。
彼女達は訓練で何度もライーザと対峙した事はあるが、彼女達はおろか騎士団の誰も彼女に勝つ事は無かったからだ。
「・・・わかりました。時間以内に剣を落とせばいいのですね。私達はいいと言うまで何度でも立ち上がりますよ?」
「・・・・構わない。手加減はしてやる、だから2人まとめて全力でかかってこい!
?」
ライーザの気迫に2人だけではなく、周囲に居た冒険者達も圧される。
だが、ここで怯んでいでも何も始まらない。
メイとリンはその気迫に押されながらも武器を手に取りライーザに挑もうと声を張り上げた。