第134話 脅迫
色々と抜けていたみたいで加筆修正させて頂きました。
ディードの向かって叫ぶインディス子爵。
振り返った瞬間、勝ちを確信したのか彼の顔からはニヤリと卑下た笑みが浮かばれていた。
だがそれも長くは続かない。
何故ならば、自分の手がいつの間にか水の中に入っているからだ。
自身の拳を中心に水が纏わりつき、指輪から発せられる魔道具の効果は無くなり、その水は黒く濁り足元にポタポタと落ちて行く。ディードはそれを見て笑みを浮かべている。
「な・・・貴様!?」
「失礼、あまりにも手が汚れているので少々洗わせていただきました。ですが、まだまだ汚れは落ちないみたいですね。子爵様。」
「ぐ・・・。」
想定外の事が起き、インディス子爵は驚きを隠せない。
その指輪を手に入れてから、その力に抗う者はいたが、最終的には屈服させてきた。
この指輪さえあえれば復讐はおろか、数々の権力者を抱き込み、街の完全なる支配することさえ出来る上に、復讐を終えた後、栄華極める事すらも夢見ていた。
だが今、それが淡い夢であり儚くも目の前で打ち砕かれるの目撃している。
魔道具”変換の指輪”は相手の思考や想いを捻じ曲げる事が出来る魔道具。
好きな物や人物を嫌いに変える事が出来る。
変換されてしまった人間は、思考を真逆にされ混乱を極める。
さらに使いつづければ思考能力を奪う事も可能で、完全に傀儡人形のように操る事が出来る。
「それで、私に何をしようとしたのです?子爵様。」
ディードは先程まで浮かべていた笑みを消し真顔でインディス子爵に迫る。
だが彼は答える事も出来ずに黙り込んでしまう。
指輪から発せられる怪しい光は力を無くし、ディードの水魔法は濁らなくなった。
それを見たディードは魔法を解除し無言で背を向け、ライーザの様子を見る。
メイとリンの声に反応する様を見て、ルビアから貰った回復薬は彼女の体力や精神を回復させ思考までも正常に戻ったのを確認し心を撫でおろす。
しかし彼女のに付いている手枷を見て眉を顰めるディード。
罪を犯した訳でもないのにも関わらず、これだけ厳重に幽閉されている事に嫌悪感を隠せない。
(きっとさっきの魔道具で意識や思考を完全に奪う為に幽閉させる必要があったんだろうな・・・。)
「ブラウさんでしたっけ。取りあえずライーザさんの手錠を外して貰えます?」
「で、ですが・・・彼女はまだ借金の清算を終えておらず、逃亡の可能性がありますのでこのままで・・・そ、それに借金の他に7日間の費用を頂きたく思いまして、金貨――――。」
ブラウが話終わる前にディードはアイテムボックスから革袋に入った金貨を彼の腹部目掛けて投げつける。
ブラウはそれを腹部に受け、呻き声をあげながら膝をつく。
「こんな劣悪な状況に置いておいて7日間の料金とか・・・・呆れてるよ。そこの革袋から差し引いていいから、早く手錠を外すんだ。」
「で・・・ですが。」
「いいから早く!?」
ディードは威圧をしながらブラウにそう言い放つと、彼はそれ以上は言えず黙って鍵を取り出しライーザの手錠を外す。
両手が自由になった彼女は先程まで真っ黒のに染まりあがっていた右手をじっと見つては首を傾げる。
「ディード殿、色々聞きたいことが山程あるのだが・・・・私とあそこで離れてから何日が経っている?。」
「約7日間。ライーザさんはその間の記憶はあるかい?。」
「薄っすらとだが・・・私に何かを施そうとしてそちらの子爵様が何度か私の所に訪問に来ていたような気がする。どうです?インディス様?」
鋭い目つきを放ちライーザはインディス子爵を凝視する。
心当たりがある彼はライーザの視線を受けながら目を細める。
「心配になったので様子を見に来たまで・・・日に日に変わっていく貴女を見て心配していたんですぞ?ですが良かったですな、元に戻られて。
それよりも先程の行為は目に余るものがあるますなディード殿。ブラウは真っ当な商売人ですぞ、言い掛かりにも程がありますな。金貨の入った革袋を彼に投げつけるなんて・・・。そんな粗暴な扱いをするという事はその金貨は盗品か何かですかな?。1度憲兵に最近盗品が無いか調べる必要があるじゃないでしょうか?マスターイーグ。」
(ここは時間を稼がねばならまいな。外にいるあの女2人をこちらで確保しコイツをなんとかこちら側に引き込めれば・・・・最悪ライーザは捨てるとしても構わない。コイツとライーザを天秤にかけたら無論コイツの方が何かと使えるしな。)
そんな甘い期待を心に忍ばせつつインディスは時間を稼ごうとするが、イーグの一言によってあっけなくその計画は崩れ去る。
「その革袋の中身は金貨150枚。彼がギルドに魔法鞄を売ってくれた代金です。何か不満でも?」
「な!?魔法鞄だと・・・・?」
「ええ、そうです。ちゃんとギルドのマーク入りでしたよ。不服とあれば憲兵を今直ぐにでも呼びつけますがどうなさいます?」
イーグの言葉にインディスは言葉を詰まらせる。
ここで憲兵を呼んでしまえば明らかに自分が不利な事が起こる。そしてディード達に更なる警戒感を与えるだけではなく、外で問題を起こしている事がバレてしまえばただでは済まない。
自分で自分の首を絞めてしまった事に気づくインディスは言葉を失い立ち尽くす。
「さぁ、借金の清算はブラウ奴隷商に任せるとして、先程の部屋に戻りましょうか。」
涼しい笑顔でイーグはそう伝えると先頭に立ち、先程の部屋へと向かっていく。
指輪の力だけではディードには太刀打ちできない事に苛立ちを隠せずに彼を睨みつけインディス子爵は後を追った。
「メイ、リン。どうやら心配をかけたようだな。」
「「ライーザ様。」」
正常に戻ったライーザ。メイとリンは彼女に抱き着くようにしがみつく。
その姿は、年の離れた姉に甘える妹たちの様にも見え、ディードは笑みをこぼす。
部屋に戻った一同、インディス子爵の傍にいた兵士は見かけなくなり、その代わりディードの後ろにライーザが立っていた。
そしてブラウが清算を終え、残りの金貨をディードに返却、そして晴れて自由の身となったライーザはディードに改めて礼を述べる。
「ディード殿、貴方がいなかったら私はどうなっていたかわからない。改めて礼を言う。」
「俺よりもメイとリンさんにだね。君を助けたい・・・・その真っ直ぐな気持ちに揺り動かされ、俺達は動いたんだから。」
「そうだったのか、メイ、リン。迷惑かけたなありがとう。この礼はゲートウォールの街に戻ったら必ず。」
「・・・・・・ええ、ライーザ様。」
礼を述べたライーザにメイとリンは、少しだけ間を置いて反応する。
その事に少し疑問に思ったライーザだったのだが、不意に2階の窓から一陣の風が流れそちらの訃報に意識を向ける。
それはイーグの精霊である、鳥型の精霊フォル。
イーグの肩に乗り彼の耳元で何かを囁いた後、イーグは一瞬口角をあげ笑みを浮かべフォルに何かを話していた。やがてフォルはライーザの周囲を一回りしてから再び外へと飛び立っていく。
その時フォルが過ぎ去った後、インディス子爵を除く全員にフォルの優しい風と共に伝言が伝えられていた。
その伝言に対し一同は目を丸くし、イーグに視線を向ける。
彼は小さく頷き、無言でディードに合図を送った。
「今のは・・・・?」
「私の精霊からの伝言でね。すこし厄介な事になりそうだから先に手を打っておこうと思ってね。」
「厄介な事?。」
「ええ、それを子爵様に確認しようと思ってね。」
「私に?」
やや不貞腐れた態度のインディス子爵、既に金貨の入った革袋を片手に持ち立ち上がろうとしていた時だった。
「ええ・・・・貴方はここに居る1階の奴隷を使って、彼の仲間を襲わせましたよね?」
「な!?」
ディードは思わず立ち上がろうとするがイーグによって手で制止される。
「もう、終わっています。結果は残念な事になっていますが。」
その声にインディス子爵は卑下た笑みを浮かべる。
(そうか、アビタリスの奴、居ないと思ったら手こずっていたローグンの援護に行ってたのか・・・くくく、これで奴は我が手に落ち、駒として存分に働かせてやる。)
「どうです?子爵様、何か心辺りがありますか?」
「ふふふふ、どうだかなぁ・・・きっと私の部下が君の仲間を口説いて何処かへ行ったのかもしれんな。なぁに、直ぐに戻ってくると思うよ。君の態度次第でね。」
「ぐ・・・。」
言葉の詰まるディードに、余裕のある笑みを溢すインディス。
立場が逆転したのが余程嬉しかったのか、彼の舌は饒舌になってしまっていた|。
「さぁどうだね?ディード君、その力を私の騎士団で発揮してみてくれないか?もし来てくれるなら君の仲間も一緒に働けるように配慮するよ。勿論断れば・・・・わかっているな?。」
その言葉には脅迫の念が込められているのが手にとって解る。
無下にすればリリアとレミィがどうなってもいいのか?という脅し。
「・・・・・。」
「どうした?断るのか?そんな事をすれば君の仲間はどーなるか保証は出来ないんだぞ?」
強気な発言をし続けるインディス子爵にディードは黙っている。
手で行くのを制していたイーグは、その手を下げてやや呆れた様な声を出す。
「インディス子爵様、出来ればお話をじっくりお聞かせ願いますか?」
「まぁ待て、今コイツと話している最中だ。話はそれからでもよかろう。」
「いいえ、子爵様・・・・・・・・いやインディス。君にはギルドの職員襲撃関連、及びスカーレット騎士団に対する妨害行為、それに冒険者への脅迫。聞きたい事は山程ある。まずは場所を移そうか。」
「何!?」
イーグの強めの口調にインディス子爵はやや驚きの顔を隠せないでいた。
その声を聞いていたディードは少し脱力しながら椅子に深く座り込む。
「もういいんだね?」
「ええ、ご協力感謝します。」
「一体どういう事だ?」
訳が分からないと言った表情でインディスはディードとイーグを交互に見つめている。その様子に少し呆れた顔をしながらディードはインディスに話す。
「つまりこうゆう事だよ・・・・・レミィちゃーん。」
少し大きめの声でレミィの名前呼ぶ。
すると2階の窓の外から、そこに階段があるかの様に1段、1段と上がっていくレミィに姿見えて来た。
「呼びました~?」