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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
形ある物
136/221

第128話 2人の酒

 


「美味しかったね、あのお肉。」

「ええ、臭みが無くてすっごく食べやすかったです。」

「確かにあの肉は美味しかった。材料はまだ残っているし今度は煮込みにでも使おうか?。」

「いや、焼くに限るわアレ。さっと塩と香辛料で味付けしたのがいい。」

「そうかな?煮込む事によってあの旨味が溶け出して美味しい味付けになると思うけど。」

「ううう、そっちも捨てがたいわね。」

「次、両方作ってみて美味しかったらまた次回は良かった方にしませんか?」

「「賛成!?」」


 ディード達は夕食を取りに街へと出かけたのだが、やはり市場が開店休業状態に陥っているせいなのか、料金は高く、食事を終えて出てきた客は口々に量や味付けに文句をこぼし立ち去って行く。

 それを見たディード達はそれならば、街を出て人気のない所で自分達で何か作ってたべようとなった。

 そこで出てきたのが15階層のボスであった双頭狼(オルトロス)の肉。この肉をファグが見事なまでに血抜きをしてディード達に提供してくれた。

 本来狼の肉は硬めな肉だ。瞬発性を活かす為に筋は硬く余分な脂肪は付いていない。

 だが、双頭狼の肉は一味も二味も違った。


 15階層の主という事もあって、その肉質は柔らかく、魔力で満ちた筋肉はいつまでも鮮やかな色と張りを保っている。

 アイテムボックスの中で細部まで綺麗に血を抜かれた肉は、瑞々しく、鮮やかな桜色の肉であり、塩を振って焼いただけなのにも関わらず、香ばしい匂いが辺りと漂い表面からは肉汁が溢れだじ食欲をそそる。

 ディードが試しに一口に入れ噛みしめると、口の中に広がる肉汁の旨さに思わず声を上げる。


「うっま!?・・・なにこれ?。」

「そんなに?私にも~。」

「わ、私にもお願いします。」



 ディードに続くようにリリアとレミィはその脇で一口づつ口に入れると、その美味しさに驚き2人も同じように声をあげ食べ始める。

 結局3人は双頭狼の肉とパンと果実水だけの夕食を終えたが、そこには不満など無く、美味しい物を食べ幸せそうな顔で街へ戻って来た。



「夢花さんの所で少し飲んで夢酒(ゆめざけ)を買って明日に備えようか。」

「そうですね。今の所付けられている様な感じは見受けられませんし。」

「あそこなら酔い潰れても、多少は大丈夫だしね。」

「潰れるのを前提で話さないでください。」


 街から夢花の店がある娼館の近くまで気配や足音を探るように聞き耳を立てていたレミィが一安心した様子で2人に話す。

 上機嫌なリリアの言葉に苦笑いをしながら夢花の店のドアを開ける。

 その先には夢花がカウンター越しに何かを作っている姿があった。

 こちらに気づくと軽い口調で話しかけて来る。


「お?噂をすればディードはん、久しいな。まだ生きとったか?」

「やぁ夢花さん、飲み過ぎて無いかい?。」

「ウチにとっての酒は水と同じや、飲まな生きてられへんわ。」


 夢花は軽く手を振り冗談交じりで手をふる。


「噂をすれば・・・って俺の事話してたの?。」

「そうやウチの店に来ないから、どこぞで浮気してるんやないかと思うてな。心配しておったんやけど、この人が教えてくれたんや。」


 そう言うと夢花は視線をカウンターの奥へと向ける、そこに居たのは一人で飲んでいるガロンの姿がそこにあった。


「ガロン・・・ここで飲んでいたのか。」

「俺が何処で飲もうと勝手だろう・・・それに誰かのおかげで飲まないとやってられないからな。あんなダンジョンの経験は今までした事ないしな。」

「それは・・・俺のせいじゃないと思うけど?」

「どの口が言うんだ・・・?。」

「この口だ。」


 ディードは自分の口を引っ張りガロンをからかう。その姿をみたガロンは口元を緩ませながら鼻で笑っていた。


「丁度良かった。少し話がしたいんだがいいか?」

「・・・話?。」

「ああ、お前にとっても利益のある話だと思うけど聞くかい?。」

「・・・・話してみろ。」


 ディードの持ち掛けた話に少しだけ興味を持ったのか、視線をディードに向けるガロン。

 ディードはガロンにギルドに行ってからの事を話した。

 さらにメイとリンを軸に、ギルドの討伐部隊が結成される事も話す。


「ガロン、それに参加しないか?。」

「・・・・それは俺にギルドの犬のなれと言う事か?」


 ガロンの言葉に怒気が含む、だがディードはそれを受けても涼しい顔で話進める。


「それはそっちの気持ち次第だと思う。これを利用し伸し上がる為の踏み台にするか、それとも自分の意地を貫き通すかは自由だ。」

「ギルドを踏み台・・。」

「ああ、ギルドは最初の内、人選や装備の強化などで初期投資も嵩むし投資した分を一気に取り戻す様な無茶な運営は出来ないはず。その間に自分達の仲間をギルド下で育成すればいい、それに余剰分の素材はそっちの収入になるようにギルドと交渉するのも手だぞ。」


 ディードの言葉にガロンは目の前の酒を見つめながら考える。

 彼にも思う事があり、その提案は魅力的で自分の利益になると感じたからだ。


「それに、もう仲間を失いたくないだろ?お前はがさつに見えるが仲間想いの所もある。あの涙は偽物じゃないはずだ。」


 それは以前ガロンの仲間であったギロンの事を示している。

 自業自得はいえ、ガロンに刃を向けた上に魔剣に喰われるという最期を迎えてしまった事に、心を痛めその場で悔し涙をしたガロンをディードは忘れていなかった。

 その言葉に揺れ動かされたのか、ガロンは目の前の酒を一気に煽り飲み干す。

 それと同時にその場で銀貨を出し席を立った。


「お・・・おいガロン。」

「今から俺のメンバーを集めて話をする、それだけだ。」

「って事は・・・?」

「その話、受けてやる。こちらにも大きな利益がある以上即行動あるのみだ。」

「ああ、明日俺からもギルドに言っておく。」


 ディードは拳をガロンに突き出し、打ち合わせるように仕向ける。

 それを見たガロンには微かに微笑みながら拳を強く打ち合わせる。

 ゴン!と鳴り響く音にカウンターで見ていたリリア達が少し笑っていた。


「いっで~。本気で合わせる事無いだろ?」

「本気ならお前の拳は砕けているぞ。じゃぁな。」


 ガロンはそう言い残し店を後にする。

 残されたディードは手の痛みと痺れがまだ取れないのか、少し手を振りながらリリア達の席に向かって行く。


「うへへへへ、ええわな。男の友情ってのは。」


 夢花はニヤけながら少しおどけた様な声でディードに絡む。

 その顔を見ながらシト目で返すディード。


「何その気味悪い笑い方は?」

「いやな、ディードはんが来る少し前までガロンはんがディードはんの事を褒めてたんや。武器も魔法も凄いのに、人を下に見ない所や色々褒めてたで。」

「アイツがか・・・・・。」

「ほんでもって今、新しい商売の話を持ち掛けたやろ?嬉しかったんちゃうんかな。って思うたら、なんやかニヤけてしまってな。」


 ガロンの意外な一面を聞いてしまい、反応に困ってしまったディード。

 その顔を見ると、夢花はさらにニヤける。


「ええな~、ウチもそんな友達がおったらええのにな~。」

「あ~1人居そうだけどな。紹介するか?」

「ほんまか!?」

「猫の獣人で女の人だけど、絶対気が合うと思う。」

「「あ~」」


 ララの事を言っているのが直ぐにわかったリリアとレミィは声を揃える。


「ララさんっていう1度会った事あるんじゃないか?」

「あ~あの人!是非是非。」

「なら今度言っておくよ。」


 そんな雑談を楽しみつつ時間はあっと言う間に過ぎ夜は更けて行く。

 夢花から夢酒を数本買い宿に戻る3人。道中レミィに気配を探って貰ったが、特に不審な感じは無く、付けられた感じもないと言う。


「それじゃまた明日ね。」

「ああ、また明日。」


 別々の部屋を取り割れる際、リリア、レミィの2人からキスを受けるディード。

 それぞれの部屋に戻る際、ディードに向ってリリアが声を出さずに口だけ動かす。


『あ・と・で・へ・や・に・い・く』


 ”後で部屋に行く”。その唇の動きにディードは思わずドキッ!とする。

 夜も遅くに恋人が部屋に来ると言う事は、それは同衾であり、夜を共にするという事。

 しかも次を期待していたとはいえ、誘う機会を伺っていたディードが逆に誘われたという事に、胸は高まり期待してしまう。


 一瞬相談事かと考えたが、それならわざわざあんな事はしないだろうと一人悶々とする。

 そんな中、ドアの扉から小さくノックする音が聞こえる。

 期待を胸にゆっくりと近づきドアを開けるとそこには意外な人物が立っていた。


「お、お、お酒一緒に飲みなおしませんか?ディードさん。」


 緊張しているのか声が上ずり、酒を持ちながら小刻みに震えているレミィの姿がそこにあった。

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