第125話 ギルドの現状
「なんで買取中止になっているんだ?。」
「私達に言われても・・・・」
ディードの呟きに茫然としながら答えるメイとリン。
それもそのはず、苦労して手に入れた魔物の素材を売る事が出来ないという状況に頭がついて来れなかった。
このままではライーザを救えない。そう感じ取ったメイとリンの顔はみるみる青ざめて行く。
「ど、どうしましょう、ディードさん。」
「どうすって言っても、事情を聴くしか無いだろ?ホラ丁度あそこに。」
震えながら、懸命に声を出すリン。
ディードは事情を聴く為に受付の奥にいたココルを見つけ指を差す。
「ココルさん!。」
「!?ディードさん方々、ダンジョンからお戻りになられたのですか?」
「ああ、ついさっきな。それでこの状況を聞きたいんだが・・・。」
「この状況についてなら俺が話そう。」
「ファリップさん。いいんですか?」
ココルの後ろから出てきたのはファリップ。だが彼はかなり顔色が悪く髪もボサボサで目の下には隈がくっきりと描かれている。
ここ数日まったくと言っていいほど眠れていないんだろうか、気力のみで立っているといった感じだ。
「とりあえず積る話もあるだろうし、マスターも待っている、奥へ案内する。」
「ああ、だから俺が迎えに来たって訳だ。」
余程眠いのであろうか、彼の足取りは重くまるで重り付きの足枷をはめられている罪人の様な歩き方でふらつきながらもギルドマスターの部屋へと案内をする。
ドアをノックし中に入ると、ギルドマスターであるイーグが険しい顔をしながら書類に目を通している。
「マスター、ディード達をお連れしました。」
「すまないね、君も疲れているのに。」
「マスター程ではありませんよ。では私は書類の続きを・・・。」
「あー待ってくれ、ファリップさん。」
案内を終えたファリップはその場から離れようとした時、ディードはアイテムボックスから、ミスリルオークが変化した鞄を取り出しファリップの前に置く。
「なんだこれ?。」
「すまないがこれを鑑定して欲しいんだ。14階層で出た変異種が変化した物なんだけど。」
「はぁ!?14階層の変異種?どういう事だ?。」
ディードの言葉を聞き、ファリップは眼を見開き驚く。
「どういう事って言われても・・・・出て来て、戦って、勝って、貰った・・・?」
「貰ったじゃねーよ!?変異種から出たドロップ品は大抵呪われているって説明したよな?大丈夫だったのか?。」
「ああ、幸い呪いは無いように感じたけどな。それを含めて鑑定して欲しいんだ。」
「マジかよ・・・。まぁ前回無理を言わせたし本来なら鑑定なんざ、直ぐにポンポンやらないんだが今回だけ特別に鑑定してやる。少し待ってろ。」
「ありがとう。」
ファリップはそう言うとミスリルオークから変化した鞄をじっくりと見定め鑑定の呪文を唱え始めていた。
するとイーグが書類を一段落させたのか、束に重ね合わせゆっくりと深呼吸をしディード達に話しかける。
「呼び出してすまないね、恐らく事情を知りたいだろうしね。」
「ええ、素材の買取が駄目になったと書いてあったので、ギルドでは大量に募集中とマスター直々にお話をしてくださったはずですが・・・・?。」
ディード達はダンジョンに挑む前、ギルドで正気を失っていたメイとリンを確保し、事情を聴く為に広場で話あっていた所にイーグが現れている。
そこで彼は魔物のそざいを大量に募集している事ディード達に伝えてあった。
「うん、確かにそう言ったね、私も覚えているよ。」
「なら、なぜ今買取を中止して――」
「職員がいないんだよ。10人程治療院に送りにされている。しかもご丁寧にその10には素材を査定する10人だ。」
イーグは表情を少し歪ませてそう言葉を続ける。
査定する人がいなければ、ギルドは買取が出来ない。仮に他の職員達が査定表を見ながらでも買取は出来るのだが、適正な査定が出来ているのかは疑問が残る。
最初の内は臨時で査定をした職員もいたのだが、その日の仕事帰りに不慮の事故にあい、治療院送りになっている。
その事を知った他の職員達は、買取の仕事を受けたがらないでいて買取を中止せざるを得ない状況下になったいた。
「ご丁寧に査定をする職員を狙った悪質な攻撃だ。しかも犯人はどれも捕まっていない。事故に見せかけのもあるんだが、その職員は現在高回復以上の治療が無いと復帰できなくてね。どの職員も復帰までには少し時間が掛かるんだよ。」
「そんな事があったんですか?。」
「ああ・・3日前程からかな?いきなりの事でこちらも対応が遅れてしまっていてね、なにせこんな事は初めてだ。私も回復魔法が使えるんだけど高回復を扱う程適性があるわけじゃないんだ。」
その放しを聞いたメイは自分の顎に手を置きながら考えていた。
「3日前・・と言いますと私達がダンジョンに潜った後ですね・・・。」
「メイ?」
「まさかとは思うんですけど、私達の買い取りを妨害して・・・?。」
「それは考えすぎじゃないかしら?だって、ディードさんのアイテムボックスの事を知っていなければ私達がどう動くかは知らないでしょうし、ましてギルドに喧嘩を売るような真似をしても・・・。」
メイ考えにリンが言葉を被せる、だがメイはそれを跳ねのけようとする。
「仮に喧嘩を仕掛けたとしても、数日でここを去ろうとする者なら気にする事ないじゃない?、それに職員さん達が狙われているのは3日程前から・・・ねぇこれって私達の事を妨害しているんじゃないかしら?。」
「そんな事・・・・無いと思いたいけど。」
「残念だけど、私もそう思っている。」
メイとリンの会話にイーグが少し残念そうな顔をしながら会話に入って来る。
「冒険者達のギルドへの逆恨みなら普通ここまでやらない。まして連日となると何かの意図があると感じている。それに、君達が着た事で多分連中達は最後の仕上げに取り掛かるかもしれない、だからここに呼んだんだ。」
「最後の仕上げ・・・・まさか。」
イーグの言葉に背筋が冷たくなるメイとリン。彼女達の悪い予感は当たろうとしていた。
「ああ、君達か、もしくはディード君達も含め狙われている可能性がある。」
「私達が・・・。」
「狙われている。」
その言葉を聞き、椅子に座っていたメイは目の前のテーブルを両手で叩きつける。
彼女の顔からは大粒の涙が溢れ出し感情を抑えきれないでいた。
「どうして!どうしてライーザ様はこんな目遭うの?あの人が何かしたの?災害孤児だった私達に手を差し伸べ生きる道を与えてくれた。それだけじゃない!困っている人がいれば助けに行き、空腹で泣いていた子供に自分のパンを笑顔で渡す人がどうしてこんな目にばっかあうのよ!?」
「・・・メイ。」
リンは声をあげ泣くメイを自らの胸に抱き寄せ互いに身を寄せ合うようにして泣く。
その様子を見たリリアとレミィは俯き嗚咽をあげていた。
「君達は災害孤児だったのか。」
「・・・はい、私達の村はゲートウォールから少し離れた小さな村で生まれ育ちました。だけどある日魔物達が一気に押し寄せて来て村は壊滅、逃げ延びた私達はゲートウォールの孤児院に引き取られ、そこでライーザ様と出会いました。」
リンの話は続く
災害孤児になったリンとメイ達は一時ゲートウォールの孤児院に預けられ身を寄せ合って暮らしていた。そこで慰問に来たライーザと出会い、村の生き残りであった小さなメイとリンに対し、正面から頭を下げ『村を守ってあげられなくてすまない』と謝罪した。
それを見た2人はライーザにその辺に落ちていた枝を拾い、私達が強くなるから謝罪は要らないと豪語し。ライーザは2人の真剣な目を見つめ彼女達を騎士団の見習いとして加入させることになった。
当然、小さな子供に騎士団の仕事は務まるはずがなく、最初の頃はライーザの身の回りの世話をする小さなメイドとして雇い、日々の鍛錬と生活を共に過ごすようになった。幼かった2人は次第にライーザの優しに触れ、心許しいつしかとしの離れた姉の様に慕っていた。
「それなのに・・・なんで・・・なんで・・・。」
「・・・・・・・・・・・なんじゃこりゃ~~~!?。」
同じ言葉繰り返し涙するリンの姿に全体が重い雰囲気になるつつある中、その雰囲気を一気に打ち消す言葉を発したのはファリップだった。
「おい、ディードこいつは凄い鞄だぞ!魔法鞄だ。しかも今まで見た事の無いほどの大容量だ。」
「・・・・ファリップさん少しは空気を読もうよ・・・。」
興奮するファリップにディードは冷たい視線を浴びせる。それを感じたファリップは周囲を見て不思議な顔をする。
「どうしたんだ?なんか泣いているが何があったのだ?。」
「・・・・・聞いてなかったのね。」
「ああ、すまん。これに集中していた。しっかしお前これはいい物を拾ったな。」
「そんなに凄い物なの?。」
「ああ!何せこれ一つあれば女王蟻なら5匹程は楽に持って行けるくらいの鞄だ。かなり貴重だ、これは高く売れるぞ。」
「ああ、だから俺には不要な物って言ってたのか。アイツ。」
ディードはそう呟くと同時にファグに言われていた事を思い出していた。
「不要な物って・・・お前これがどのくらいの価値のある物かわかっているのか?」
「いや、全然・・・金貨20枚ぐらいの価値はあるの?。」
「200金貨以上だ。」
「へ~そんなに・・・・そんなに!?。」
ファリップの言葉に驚きを隠せないディードが魔法鞄を手に取りまじまじと見つめる。
「なんだってこんなに高値つくんだ?。」
「お前こそ何を言っている。女王蟻5匹は楽に入る品物だぞ?当然の査定だぞ。これがどれだけ価値のあるものかわかっていないだろ?。」
興奮覚め止まらないファリップは、そうディードに力説するが彼にはその内容量があまり理解出来ないでいる。
何故ならば、彼のアイテムボックスはそれを上回る程の性能を持っており、それが基準になってしまっているからだ。
「それならこれをギルドに売ればライーザさんは助けられるか。」
ディードの何気ない一言にファリップのみならずイーグも驚きに満ちた表情をする。
「な、お前これを売るのか?しかもギルドに・・・オークションや、貴族に売り込めばもっと高値で売れるぞ?。」
「そうなの?・・・・。う~ん俺としてはアイテムボックスがあるから、そこまで必要なものじゃないしな。それに容量が小さいし。」
「ち、小さい・・・?ディード、お前のアイテムボックスは今どんだけはいるんだよ・・・。」
「う~ん。少なくとも、このギルドに建物と同じ位ははいると思うけどな。」
「・・・・・は?。」
ディードの言葉に理解が追い付かないファリップは思考が停止する。
魔法鞄は非常に高値が付く魔道具。ファリップの見立て通りならば200金貨で即売るより、オークションに出した方がよっぽど高値が付く。
にも拘わらずディードはあまり使えないから売ると即決で判断したのだ。
しかも彼は魔法鞄よりも遥かに大容量のアイテムボックスを所有してい事にファリップは茫然とする。
「確かにそれを売ってくれるのはコチラとしてもありがたいけど、本当にいいのかい?。」
「別にいいよね?2人共。」
イーグの心配する声にディードはリリアとレミィにも確認の為に了承を得ようとする。彼女達は特に異論はなく無言で頷く。
「そんな訳で大丈夫だけど、買い取って貰える?。」
「値段としては200金貨でいいのかい?。もう少し値上げしてもこちらとしては構わないが?。」
「俺としてはライーザさんを助けるだけの金が出来ればそれでいいんだけど、そうだな。少し相談したい事があるんだけど・・・・いいかな?。」
ディードの言葉にイーグは少し眉を顰めディードを見据える。
「それはいい相談かな?。」
「悪い相談じゃないと思うんだけどね。その魔法鞄の事もあるんだけど・・・。」
ディードとイーグの込み合った会話は長く、鐘1つ分程の続いて行く。
ディードの提案にイーグとファリップは驚きつつあるが、次第に彼の提案を受け入れ少しづつ修正の案を出していく。相互が損をしないための
そして夕方になろう頃にディード達の会話は終了し、マスターの部屋から出て行こうとする。
「それじゃ明日金貨を要して待っているよ。私も立ち会わないと行けないからね。」
「わかりました。それじゃ明日。」
ディード、リリア、レミィの3人は部屋から出て行き、残ったのはイーグ、ファリップとメイとリンだけとなった。
メイとリンは今夜はギルド内で宿泊し、朝イーグと一緒にライーザがいる奴隷商の所へと行く予定となった。
それは彼女達への襲撃を警戒し、ギルド内での宿泊を特別に見る形であった。
イーグとファリップはそれぞれの椅子に深く座り込み大きくため息とつく。
「しかし、思わぬ相談だったね。まさかこんあ事になるとわ思っても見なかったよ。」
「ええ、普通の冒険者なら自分の利益だけを求める物なのですが・・・そういった常識を持たず、且つ我々の予想を超えた相談でしたね。正直こんな考えがあったとは思いもよりませんでした。」
「ええ・・・私達も正直驚いています。こんな事になるとは思ってもいませんでしたし。」
「ええ、あの金額を払い切れるまであの方々のメイド、もしくは奴隷なども考えていたのですが・・・・。」
「きっと、彼には不要だったんだろうね。どっちとも・・・・両手に綺麗な花を持っているし。」
「・・・・そうですね。正直あの二人は羨ましいとさえ感じますね。」
「・・・そうだね。これからの困難も彼等は支え合っていくだろうね。・・・それじゃ私達は最後の仕事をしようか、ファリップ、彼女達に紅血設定を。」
「何かすみません。こんな事になるなんて・・・。」
「いやいや、君達は気にしなくていいよ。これから私の仲間になるんだからよろしくね。」
立ち上がろうとイーグにメイとリンは頭を下げる、その様子をみたイーグは彼女達に気にするなと手を振る。
重い身体を起こし立ち上がるイーグに対し、軽く手をあげファリップは話しかける。
「これを終わったらもうさすがに限界なので寝ていいですかね?。」
「ああ、私もさすがに疲れたよ。明日からさらに忙しくなりそうだから今日は早めに寝よう。」
「・・・・・明日休みじゃダメですかね?」
「・・・・ファリップ君。がんばろうね?」
「・・・・鬼ですか?。」
「いや、しがないエルフさ。」
重い腰をあげ4人は部屋を後にする。
彼等は明日以降仲間となり、一緒に仕事をする為その準備として。
その仕事は長くなるか、短くなるかはメイとリン、彼女達2人にかかっている。
ギルドを出たディード達は、街をふらつく。時に買い物をし、店に寄ったり3人だけの時間をゆっくりと過ごしていた。
レミィはディードの腕に絡みつき、リリアはその反対の手を恋人繋ぎで歩いている。
買い物で支払う時はディードはアイテムボックスから金を取り出し支払っていた。
それは見えない相手にわざと見せつけるように・・・
それから街をあてもなく歩く3人だったが、不意にレミィは声を上げ大袈裟な仕草をする。
「ディードさん、こんなに大きな収入があったんですから今日はパーッと飲みに行きましょうよ。」
「・・・・そうだね。そうしようか、リリア。」
「そうね。それじゃあの店に行きましょうか。前祝に今日は飲みましょう。」
そう3人ははしゃぎドンドン人気のない路地へと歩いて行く。
後ろからつけて来る数人の集団を引き連れて。
「ほんと残念です。」
小さな声でそう呟いたのはレミィだった。