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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
形ある物
123/221

第115話 ディードの奇策

 


 休憩が終わったディード達は、一路女王蟻の巣へと向かい対峙する。

 女王蟻は10匹程の兵士蟻(ソルジャーアント)を侍らせ対峙したのだが、ディード達の人数は9人。

 ほぼ同数で挑んだ戦闘は兵士蟻を速攻で倒したレミィが他の仲間の援護に、ガロンが女王蟻と対峙し、駆け付けたディードとリリアによって一方的な展開となり圧勝に終わった。


 11階層に着いた頃には既に日が暮れていて、前回のディード達が野営に使った岩場まで辿り着き、野営となる。

 アイテムボックスから手軽に食べられる食事を出したディードは、前回同様に岩場に石壁を四方に展開し、水獄で水を張り、リリアの紅玉の杖で水を沸かし風呂を作るという贅沢な魔法を繰り広げていた。

 その魔法の使い方に信じられないような顔をしている5人、唯一ララだけは笑い転げていた。


「にゃはははは、お前等最高だにゃ!?こんなダンジョンの中で風呂を作ってる奴なんて初めて見たにゃ!。」

「まったくです、うちの騎士団の魔法部隊がコレ見たら卒倒しますよ。」

「こんな魔力の無駄遣いは初めてみたわ。」

「・・・・馬鹿じゃろお前等?。」


 魔法使いの数は圧倒的に少ない。冒険者20人に対し魔法使いは1人いればいい方だ。基本的には1つの属性魔法、2つ3つと使えるとなるとさらに希少性が増してくる。

 ディード達と同じC級クラスの魔法使いが、触媒や道具無しの魔力のみで1日に使える魔法が火球に例えると20発前後。

 魔力が枯渇し使えなくなった時点で魔法使いは何も役に立たなくなる。

 それだけではなく、下手をすれば戦力が一気にダウンし戦況を大きく傾ける原因となる。

 故に魔法使いは自分の魔力を管理、温存し、最後のその時まで魔力を使い切らない様に心掛けている者が多い。

 なのでディードとリリアの魔法の使い方は、まさに魔法使いにとって真っ向から喧嘩を売っている様にも見えてしまうのだ。


 散々な謂れ様にリリアが少しムッとした表情で反発する。


「折角疲れを取る為に用意してあげているのに、それは無いんじゃない?。」

「まぁまぁリリア。俺達が変・・・と言うか魔力量が他の人達よりも多いからこうやって出来るんだから・・・普通の魔法使いがやったら、魔力回復薬(マナポーション)必要になるぞ。」

「でも、それだけリリアさんとディードさんが凄いって事なんですから。リリアさん一緒に入りに行きましょう。」

「むぅ・・・納得行かないけど、レミィちゃんがそう言うなら・・・。」


 少し口を尖らせたリリアを宥めながら、レミィと2人で先に入浴する。

 その後、メイとリンが入り次にジロエモンとララが、最後はディード1人が入浴し。ガロンとミロダは、簡単に身体を拭くだけにとどまった。

 彼等曰く、これ以上堕落は緊張感が薄れるからだと固辞された。


 夜、ディード達は3人3組に別れ見張りと交代で睡眠に入る。

 就寝用のテントを2つ用意したディードは、2組が就寝、1組が見張りの3時間交代制を設けている。

 振り分けはメイとリンにリリア、ジロエモンとララにレミィ、ガロン、ミロダにディードが入り3時間づつの見張りとなった。



 夜明け前ディード達の見張りの番となり、少し眠そうな顔で起きるテントの外に出ると、既にガロンは起きており刀で軽く素振りをしているのを見かける。


「早いんだな、ガロン。」

「・・・お前と一緒だと堕落してしまいそうだかならな。」

「否定は出来そうにないな・・・。でもちゃんと寝るって事は別に悪い事じゃないだろ?。」

「まぁな、体力も気力も十分に回復出来るという事は、戦闘にも探索にも良い影響が出る。一瞬の油断で大怪我や命も失う事もあるからな。」

「ああ。」


 ガロンは刀を振り回しながらディードの会話を続けている。

 一振り一振りを確認しながら、自分の動きを確認していた。


「それで、お前あの話は本当なのか?。」

「あの話?。」

「金貨100枚を稼ぐって話だ。」

「ん?ああ、ダンジョンに入る前の話か。」


 ディードはダンジョンに入る前に一つの約束を交わしていた。

 それは、ジロエモン、ララ、ガロン、ミロダの各4人には1日当たり1金貨で約4日間拘束し、ダンジョンから出た後支払う話している。

 その代わり討伐した魔物は全てディードが引き取るという契約が交わされていたのだ。

 魔物素材が欲しいジロエモンはやや難色気味だったが、支払い後、欲しい素材があったらそこから買い取るという形で話は付いている。

 ガロン、ミロダ達はそんな美味しい話があってたまるかと警戒されたのだが、先渡しで2人には10金貨を支払うと目の前に金貨を出された。

 現金を見た2人は取りあえず受け取るのを保留し、一緒にダンジョンに挑むことを決意する。


「ああ、お前が100金貨を稼ぐ方法があるっていっていただろう。」

「ああ、俺の能力をフル活用するけどな。アイテムボックスに入れられるだけ入れてダンジョンから出るだけだ。」

「しかし、今の魔物の数だと金貨10枚にも満たないだろう?残り3日間で間に合うのか?。」

「間に合うと思う。いや間に合わせると言えばいいのかな。ただ先に言っておくが誰かを犠牲にしてまでやるつもりは無いぞ?。」

「その言葉は信用していいんだな?もし誰かを囮や罠にかけようものなら容赦なく切り裂くぞ。」


 ガロンの鋭い眼光がディードに刺さる。だが彼は涼やかな顔でそれを受け止め微かに笑う。


「勿論だ。誰も犠牲にはしない事を誓う。・・・・だた魔物は犠牲になって貰うけどな。」

「・・・・フン。それでこれからの策はあるのか?俺とミロダは14階層までなら戦闘の経験はあるが、他はどうなのだ?何か策あるなら聞かせろ。」

「別にそんなに難しい話じゃないぞ。それはだな――――。」





 朝になり、全員が起きて来るとディードは軽めの朝食を用意し全員に振舞う。

 出来立ての熱いスープが身体を巡り、焼き立てのパンと串焼きが鼻腔と喉を通り抜ける。眠っていた身体は一気に目を覚まし、その栄養を取り入れようとフル稼働する。


「あ~やっぱりお前のアイテムボックスは反則だなにゃ。」

「まったくだ、ここがダンジョンだと言うのを忘れそうになるわ。」

「でも、これで力が湧きますし、がんばれるじゃないですか?。」

「そうね。これで元気に戦えるわ。」

「いや、そうじゃなくてですね・・・。」

「無理よメイ、この人達に普通の常識は通じないわ。普通は乾燥した野菜を戻したスープや、日持ちする黒パンや干し肉なんて無縁だもの。」


 ララとジロエモンはアイテムボックスの有用さを確認し、レミィとリリアはこれで力が出ると褒め、メイとリンは騎士団の時の遠征の過酷さを皮肉を込めて思い出していた。





 12階13階と進んだ一同は、特に危なげもなく順調に進み、次々と襲って来る魔物を全てを葬りディードはアイテムボックスへと放り込む。

 ふと現在のアイテムボックスの空き容量が気になりディードはファグに念話を送る。


『なぁ、ファグ。アイテムボックスの許容量はまだあるのか?。』

『あぁ、今の倍は軽く入るぞ。』

『・・・マジか?』

『インディ〇ン嘘つかない。』

『いつからお前はア〇リカ先住民になったんだよ』

『冗談はさておき、わかりやすく言えば現在3割程度っていった所か。』

『まだ余裕があるんだな。』

『もっと入れて私達に貢献するがいいぞ息子よ。』

『色々言いたいけれど、今度住処に行ったら直接言ってやる。』


 ディードが少しこめかみを抑えながらため息をつく。その様子にレミィは少し心配になり様子を伺う。


「ディードさん大丈夫ですか?。」

「レミィちゃん、ああ大丈夫だ。ちょっと念話でファグとやり取りをしていただけ。」

「そうですか。また住処(バックヤード)に行く機会があったらファグ様に指導して頂きたいものです。」

「そう?この問題が終わったら住処に行こうか。」

「はい、私が頑張りますね。」


 ガッツポーズをしながら笑みを浮かべるレミィに、ディードの顔は綻び彼女の頭を撫でる。

 そしてディード達は14階と辿り着くと後から付いて来た仲間達に向って話しかける・


「これから3日間、俺のアイテムボックスが満タンになるまで戦闘を繰り返すとする。勿論安全に攻略するぞ。」

「・・・・は?。」

「・・・・へ?。」

「・・・本当にやるつもりだったのか。」


 ディードの言葉にメイとリンは内容が掴めず茫然とし、リリアとレミィは気の抜けた返事を、ガロンは朝方ディードの策を聞いていた為解ってはいたが溜息交じりに呟く。ジロエモンとララ、ミロダに至ってはディードの言葉を信じられずにいた。


 14階層、激戦区と呼ばれた場所。11階から14階までの魔物が集う場所であり、1匹1匹は問題無いが、魔物の数が多いと称される場所。

 日夜魔物同士での弱肉強食の生き残りをかけた戦いが繰り広げられ、常に戦場と化している。

 そんな数の暴力に9人で立ち向かおうとするディードに発言は、リリア、レミィ以外の人達は正気とは思えない程であった。

 茫然としていたミロダであったが我に返り、ディードに詰め寄る。


「お、お前何言ってるんだ?ここは一番の激戦区だぞ!。俺やガロンさんもここで撤退を余儀なくされる程の数の暴力が襲って来るんだ。10や20は当たり前の様に来る、それをわかって言っているのか?。」

「当然。ちゃんと作戦もあるし、誰一人死なせはしないよ。」

「それはどんな作戦なの?ディー。」

「え?俺が森側、リリアが湖側を相手にする。」

「・・・・それだけ?。」

「それだけ。」


 ディードの言葉に全員がため息を吐く。その様子にディードは慌てて弁明をしようとする。


「だ、大丈夫だって。簡単な作戦だけど、尤も安全で効果あるよ。リリアが湖側を紅蓮の鳥で焼きつつ襲ってきた近づいた魔物を他の人達がやっつける。俺は森側で適当に頑張るから。」

「なんでそこだけ適当なのよ。」

「いや、ちょっと試したいことがあるんだけど、まだやった事無くて出来ればここで実践しておこうかな~・・・なんて。」


 苦笑いをしながら視線を逸らしリリアに説明するディードに大きくため息を溢すリリア。

 彼女はディードの両頬を自身の手で覆い彼の視線をリリアに固定する。


「ディーの事だろうから大丈夫だと思うけれど、もし何かあったら助けを呼ぶのよ。」

「ああ、そっちもな。どんな場所でも必ず駆けつけてやる。」

「ふふふ、馬鹿ね。でも期待してるわよ。」


 見つめ合い互いに笑みを浮かべる2人。そこには今から戦場とか化す場所にふさわしくない甘い雰囲気が立ち込める。


 ――コホン。 、とメイの咳払いに対し慌てて離れる2人、ディードが仕切り直しと言わんばかりにここでの説明をしはじめる。


 湖側にリリアを主軸としたメンバー、メイ、リン、ジロエモンにララが構成される。

 リリアの火力で敵を減らしつつ、近づいて来た魔物を各自撃破するという戦闘。

 中央にガロン、ミロダにレミィが加わり有事の際にどちらにも駆け付けられるようにレミィは遊撃を頼む。

 一方ディードは森側を単身で攻め込むというものだった。


「それじゃ各自危なくなったら早めに知らせてくれ。俺もなるべく早く駆け付けるから。」

「普通は逆にゃ。」

「逆じゃな。」

「逆ですよね?。」

「むしろ貴方が返り討ちされるんじゃないかと心配ですが?。」


 ディードの言葉に辛辣な突っ込みが返って来る。

 少し意気を落としかけた彼にリリアは肩を叩く。


「しっかりやりなさいよ。どうせ光の矢(グレイアロー)みたいな事するでしょ?。」

「ああ、でも今回は倒れる事はないと思うぞ。それじゃ行ってくる。」


 ディードは森側へ単身で駆け抜けていく。その様子を見たリリアとレミッィは互いに頷き作戦を開始する。


「それじゃこちらも行くわよ。レミィちゃん頑張ってね。」

「はい!?リリアさんも頑張ってください!。」

「ええ、それじゃ作戦開始!。」





 単身で森へと突っ込んだディードは周囲を見渡し即座にファグに念話で確認を取る。


『本当に使うぞ。いいな?』

『ああ、任せろ。一応説明もしたが3分ぐらいが限界だ。その後はアイリスに変わって貰う。』

『こっちも準備いいわよディー。さぁ丁度実践相手が来てくれたから思う存分やりなさい。』


 アイリスの念話と同時に木に擬態していたトレントがやって来た侵入者を迎い打つべくディードに向ってくる。それに釣られるように甲虫や、芋虫などが獲物を我先にへと寄って来る。その数ざっと見て20以上は超えていた。


「『それじゃやりますか!・・・・ケルベロスモード()!』」



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