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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
形ある物
115/221

第107話 忘れない出来事

 

 ファグとアイリスがそこに立つ以外に何も無い真っ白な世界。

 思い出すのは初めてファグ達と会ったあの日を彷彿させる。



「待っていたぞ、ディード。」

「ええ、待っていたわディード。」


 ファグとアイリスは改まった言葉と表情でディードに話しかける。

 表情はディードをからかうのでは無く、真剣そのもの。

 その真剣な面持ちの2人にどう話しかけるべきか悩むディードに対し2人は先に頭を下げ始めた。


「勝手にお前の身体の使い、すまなかった。」

「ごめんさい。許可も取らずにあんな事をしてしまって。」

「・・・・いきなり頭を下げられると思ってもいなかったな。それにあれは俺達を助ける為に取った強硬手段だろ?。」


 確かにファグ達はディードの身体を使いイーリスに立ち向かった。だがそれはイーリスの強さと数々の能力を知っており、ディード達よりは有利に戦う事が出来るからだった。


「それもあるが、あれは私怨もある。奴には色々と()()があるのでな。」


 借りがある。その言葉にファグは少し上を、アイリスは下に視線をずらし当時を思い出していた。


「だが、準備が足りなかった。」

「ええ、やはり思ってた以上に()()()()()してたからね。」

「身体を所有って・・・・奴は一体何なんだ?。」

「奴の名前はイーリス、私達の2人の敵だ。」

「説明はしてくれるんだろうな?。」


 ファグは少しだけ目を瞑り、一つ一つ思い出す様にゆっくりと語り始める。


「奴は私達が産まれる前に存在する邪神とも言うべき存在。奴は常に何かを求め探し数百年彷徨っていると言われている。」

「数百年!?体何を探しているんだ?。」

「それは分からぬ。わかっている事は、複数の肉体を使い長き年数をかけて何かを求めているという事。そして・・・。」


「そして私の故郷、戦乙女の眠る聖地ウーレアを乗っ取った邪神。」


 アイリスが拳を握り締め話す。

 聖地ウーレアとは、戦乙女の眠る聖地とされておりその存在は明かされていない。

 過去の神々が造ったとされており、世界に危機が訪れた時に発動される救済措置の様な仕組みのような物で危機が訪れた時、天空より扉が開き戦乙女が舞い降り世界を救った後に天に帰ると伝えられている。


「乗っ取った?。」

「ええ・・・当時私は邪龍ヴェフボロイスを倒すべく、目覚め立ち向かったの・・・けど、返り討ちに遭い瀕死の状態でファグ達に拾われたの。」

「だがそれは聖地ウーレアを使い、邪龍を()()()()()使()()()()()、と言う事がわかった。」

「実験?。」

「ああ、邪龍にある細工を施し意のままに操る。そしてウーレアの扉が開いた後に奴はウーレアに侵入し乗っ取ったのだ。」

「つまり、邪龍は元々聖地ウーレアを開く為に操られていたのか?。」

「そう奴は何らかの方法で邪龍を操り、世界に危害を加え聖地ウーレアの扉を探す方法を模索していたらしい。」

「なんだそれ!?つまりイーリスは探し物の為に世界を聞きに陥れたっていう訳か!?。」


 ディードがファグの説明に感情が抑えきれず怒る。だが、ファグは表情を変えず淡々としゃべる。


「それがイーリスという人物・・・いや邪神とも言うべき存在だ。奴を止めなければ次にどんな事が起こるかわからない。それこそ探し物が世界を滅ぼす物だった場合、最悪の結末になるだろう・・。」

「そしてその復讐の機会を与えてくれたのが、未来の貴方だったの・・・。」

「未来の俺が?。」


 困惑するディードにファグは説明する。


「ああ、あの時俺達は落石が起こるのを視ていた。・・・()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。異世界から流れ着いた私達は、存在がほぼ消えかかっている状態でな。それを救ったのが未来のお前だったのだ。」

「そして、そこにある魂を持って帰って転生させてくれと頼んできた。」

『――道は俺が作る。頼むよ2人共、この運命と受け入れくれ。――』

「私達はイーリスを止めるべく未来のお前の案に乗った。」

「それで来る時まで秘密にされていたのか。」


 ファグとアイリスが黙って頷く。


「ああ、そうしないと未来が安定しないと言われてな・・・。もしあそこで福々山高樹が事故に遭わないと私達の存在も危ぶまれる。」

「それだけじゃないわ、未来のディードの存在も安定せず、彼女2人の存在も安定しないと説明されたわ。」


 2人の彼女とは勿論リリアとレミィの事だ。

 彼女達は必然と過去未来のディードに欠かせない存在。


「つまりリリアとレミィの事は知っていた?。」

「ああ、知っていた。でも言えなかった・・・すまぬ。」

「ファグが謝る事はないよ。喋ってしまうと未来が変わる可能性があったんだろ?もしあの時リリアを助けなかったら俺という存在も消えていた可能性もあったってことだろ?。」

「ああ、だからこそだ。お前を守る意味でもあったのだ。」


 ディードを守る、それはファグ自身をも守るとも言うべき行為。

 不用意な発言や助言によってファグ達は自身の存在が消えるかもしれないという事を懸念しながらも何年も彼を導き見守ってきた。


「奴を止めるまでは死ぬわけには行かなかったのでな。私の最も信頼していた《ミリア》の為にも・・・・。」

「ミリア・・・・?ぉぃちょっと待て、それって・・・?。」


 ディードはその言葉を聞きファグに聞き直す。


「ああ、ミリア村とは彼女の名前を取ったからだ。お前の祖母に当たる人物。あの村は強力な結界にて守られている。それは彼女が自らの肉体と自我を触媒にし、結界を作り精霊となったのだ・・・・全てはお前の母、ファルナを護る為に。」

「そんな・・・。」

「お前も見た事あるだろう。家に住み着いている家妖精やファルナの持つ精霊の弓は彼女の意思とも言ってもいい物だ。」


 ディードの家には確かに家妖精が住んでいて常に家事などの手伝いをしてくれている。摘んできた薬草や野菜などを綺麗に洗ってくれたり、家の中を隅々まで綺麗に掃除してくれるありがたい妖精。

 そして精霊の弓と呼ばれるファルナが持つ弓は、魔法の矢を放つ武器。弓を絞れば魔法の矢が出現し数キロ先から狙撃を可能とする。結界の中なら念じればどこにいても手元に飛んで来るこの世に2つとない代物だ。


「そんな・・・。」

「これは、お前が転生する前の話だ。」

「そしてこれにもイーリスは関わっているの。ディード、私達は新人の神と名乗っているけれど所詮自分勝手な存在。奴の野望を止めたいだけ。」


 ファグとアイリスが互いに視線を合わせ何かを確認したかのように頷く。

 そして・・・・アイリスは片膝をつき、ファグは頭を下げる。


「「イーリスを止める為に私達に力を貸してください。」」

「・・・・・・・・・。」


 突然の事でディードは思考が停滞する。

 前世の自身の死、そして未来からの干渉、邪神の阻止さらには祖母の話まで一気にされて思考が追い付かないでいる。

 それを察したファグとアイリスは話を続ける。


「今すぐに返事をしろなんて言わない。」

「それに強制はしない。だからじっくり考えてくれ。」

「リリアの封印を解く旅は続けていいのか?。」

「それは勿論だ。旅を続ければきっと奴とまた出会う事になる。そして今度こそ・・・・・・ディードどうやら客のようだ。」

「客?。」

「ああ、外のドアを誰かがノックしている。見て見ろ。」


 ファグは会話の途中で打ち切り、魔法で外の風景を映し出す。

 そこに映し出されたのはリリアだ。

 時刻は深夜を既に回っている。


「どうしたんだろ?リリアも魔石の情報を整理するって言ってはずだけど?。」

「その情報に重大な事が隠されていたのかも知れないな。行ってやれ、私達も今日はこれで休むとする。」

「ああ、返事はまた後でいいだろ?。」

「ええ、構わないわ。行ってあげて。」


 そう言うとディードは住処を急いで後にする。


「さて、彼女はこんな夜更けに何をしに来たんだろうな。」

「野暮な事を言わないの。()()()()()()()()。」


 アイリスはファグの耳を抓る。


「地味に痛いぞ、それ。」

「今日は何も考えずに休みなさい。」

「仕方が無いな。息子の為だ今日は寝るとしよう。」


 ――――

 ――


 コンコン、コンコンと小刻みにドアをノックする音が耳に入って来る。

 ディードは住処から現実に戻り目を覚ます。


(なんだこの夜更けにリリアは・・・・。)


 ゆっくりと身体を起こしドアを開く、そこに立っているのは勿論リリアだ。


「どうしたんだリリア?こんな夜更けに?。」

「あの・・・ごめんね・・その住処に行ってたよね?。」

「ああ、色々話を聞いていた。何か急ぎの用だったのか?。」


 少し眠そうなディードを見つめ、少し罪悪感を感じたのかリリアは少し様子がおかしかった。


「どうした?。なんか様子がおかしいけど?。」

「あの・・・ね。その・・・。」

「とりあえず中に入って。」


 ディードはリリアの部屋に中に引き入れベットを椅子代わりに座る。

 リリアも隣に座ったのだが、彼女は一向に口を開かない。


「それで・・・何か話があったの?言いずらい事?。」

「・・・うん。」

「そう・・・。」


 ディードはリリアの事を優しく抱きしめ軽く頭を撫でる。

 その行動にリリアは最初こそ驚いていたが、彼の胸に引き寄せられその心臓の鼓動を耳にする。

 ドクンドクンと鼓動する心臓。

 リリアは確かに彼はここに居る、生きていると確信し目を瞑る。


「落ち着いたらでいいから話してくれるかい?。」

「どうしてそんなに優しいの?。」

「それはリリアが好きだからだよ。」

「私が前世の貴方を殺しかけても?。」

「・・・・どうしてそれを?。」


 ディードが驚く。

 まだ2人には前世の死について話していないのに、リリアは既に知っていたことに驚きを隠せないでいた。


「あの魔石はね、情報を整理すると隠された情報も出て来る仕組みになってたの。それが貴方の事・・・。

 ――福々山高樹は、リリア、レミィの手助けにより苦しむ事無くディードとして転生した。そして君達に出会た事に最大の感謝と愛情を・・・・・君達を永遠に愛するディードより――」


 異世界を渡り歩いてい居る最中にファグから渡された魔石。

 それは情報をわざと複雑に組み込んだ代物だった。

 その目的は、1度に多くの情報を取り込み混乱させない様にする為の配慮。

 リリアはその情報を解読し、深夜にディードの前世の死についての事を知ってしまい、いてもたってもいられずに彼の部屋を訪ねたのだった。


「ディー、多分貴方はこの事を隠そうとしたんじゃない?。」

「・・・・バレた?。」


 そう、ディードはファグ達から全てを聞き、その後は自分の心に留めておくつもりだった。それは2人に余計な心配をさせない為の配慮だ。


「君たちのせいじゃないのに、無駄な心配をかける必要性はないだろ?。」

「わかっている、わかってはいるんだけど、それでも心配だった。」

「だ丈夫だよ、リリア。俺はここに居る。」

「・・・うん。」


 ディードはさらにリリアを抱きしめる。

 少しきつめに抱きしめられたせいなのだろ。甘い吐息が漏れる。


「ごめん、痛かった?。」

「ううん、大丈夫。それに少し嬉しい。」

「嬉しい?。」

「うん、だってディーがこうして生きている、その音が聞こえるんだもん。」

「リリア・・・。」


 ディードはリリアの額にキスをする。それを受けて彼女は頬を緩める。


「ねぇ、そこは額にじゃなくて。唇じゃないの?。」

「それも魅力的な提案なんだけど、こうして抱きしめていると届かなくてね。それに・・・。」

「それに・・・・?。」

「歯止めがきかなくなりそうでね。」

「バカね・・・・。」


 リリアは抱きしめられた腕を外し、自らディードに口づけをする。

 そのキスは、今まで以上に深い愛情が込められているような情熱的なキスだった。


「・・・・ディー、貴方を感じさせて。貴方がここに居るって私に感じさせて欲しいの・・。」

「・・・・いいのかい?。」

「・・・うん、来て。」


 再び2人は唇を合わせ、優しく抱きしめ合う。やがて2人はベットに雪崩れ込むように倒れ込み・・・・・



この日の出来事は2人にとって忘れられない日になった。

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