第100話 絶望と希望
突如ディードの意識は途切れ、次に気づいた時には≪住処≫にいた。
≪住処≫と言っても昨日までの景色ではなく、ディードとファグ達が出会った頃のように殺風景の景色。
突然の事で意識が定まっておらず、何故≪住処≫にいるのか記憶があいまいな状態にあった。
「・・・・あれ?なんで俺ここに来てるんだっけ?・・・!?そうだ。16階で・・・ってなんだこりゃ!。」
意識がはっきりと戻ってきたディードは、先程までの出来事を思い出し、急いで≪住処≫を出ようとするが、自身の両腕に付けられた白い鎖のような物に驚き外そうとする。
だが、その鎖は両腕からまるで生えている様に継ぎ目がなく取れずにもがいていた。
「おい!ファグ!アイリス!どうなっている?何をした!。」
『それは【魂の楔】だ。外すな死ぬぞ。』
「なんで≪住処≫で念話を飛ばしてくるんだ?・・・ってか景色もほぼ無い。感覚的に≪住処≫に来てたのが分かっていたがどうなっている!。」
『説明している時間は無い。ディー、これから起こる事は間違いなくお前に影響を与える。そしてすまない・・・・・許してくれ。』
『ディー、ごめんね。今はこうするしか無いの。』
「おい!ファグ!何言っているんだ?おい!おい!・・・アイリス!お前もどこへ行った?返事をしてくれ!。」
外せない鎖にもどかしい気分になり、声を荒らげるディードだったが2人からの返事は無い。
項垂れていると突如、ディードの前には一つのスクリーンが浮かび上がり、映像を映し出していた。
それは16階の景色であり、視線がやや低く丁度ディードが立膝をついている様な視点だった。
外ではディードが突如両膝をつき、力無く項垂れていた。
「ディー!どうしたの?。」
「ディードさん!。」
「・・・・ぬ?。」
突然の事で意味が解らずディードを起こそうとする2人・・・・。
だが次の瞬間。
「「離れろ2人共。『ライーザここから逃げなさい。』」
それはディードの口から発せられるファグの声とアイリスの念話が同時に送られてくる。その状況に何かを感じ取ったのかレミィはいち早く動きリリアを引っ張り少し離れる。
弾き飛ばされいたライーザも鬼気迫るアイリスの言葉に危機感を感じ兵士達を15階へと向かわせ始める。
「お前達!転送陣まで急げ!。ここは戦場になる。」
「ちょっとレミィちゃん、引っ張らないで!ディーが!ディードが!?。」
「リリアさん。今はファグ様とアイリス様の言葉を信じましょう。何かが起きます!。」
リリアとレミィが離れた直後、突如ディードは雄叫びを上げる。
一つの口から発せられる3つの声、それは苦痛で上げる声であり、己を鼓舞する声であり、代償と引き換えに手に入れる力に上がる声であった。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「あぁああああああああああああああ!!!」
『うぁあああああああああああああ!!!!』
叫ぶとほぼ同時にディードの周りから光りが溢れ身体も変化する。彼の黒髪は長く伸び、根本から先まで銀色へと変化し、肉体は一回り大きくなる。両肩には白く輝く球体が2つも現れ、拳は銀の体毛に覆われる。
ディードの元の体型は決して筋肉質なタイプではない、ハーフエルフと言う事もあってどちらかと言うと細身だ。
言うなれば獣化したディード、大きく変貌したその変化に声を失うリリアとレミィ。
「・・・・随分と面白い事をするじゃない?まさか、私の逆をやるとは一種の趣旨返しっていった所?。一つの器に3つの魂を詰めるなんて、不格好過ぎじゃなくて?」
「「アンタみたいに、アレコレ移り変われる程器用じゃないんでね。ここで決めさせてもらうよ。」」
獣化したディードはその女性へと向かい走り出す。それを迎い打つべく女性は杖から火球をいくつもの繰り出し撃ち出す。
獣化したディードはそれを避け、アイテムボックスから円錐型の白銀の槍を取り出す。
その槍で女性を突く、だが白銀の槍は女性の身体を貫く所か手前で止まる。
よく見ると手前に六角形の障壁が展開されており、そこで槍は止まっていた。
「その程度で貫けるとでも?。」
「「思って無い。」」
ディードはさらにそこから怒涛の攻撃を始める。
左手には黒い盾をアイテムボックスから取り出し、その障壁を強引に強打し破壊する。
そして両肩に浮いていた白い球体からは、火球と水球が同時に打ち出され女性へと向かって行く。
次々と繰り広げられる連続攻撃に、女性は杖を振りかざそうとしたが、攻撃の合間に魔法が火と水の魔法が交互に女性を狙い、周囲に霧を発生させる。
「・・・・なるほどねぇ。転移も潰す方法も知ってるのね・・・もっと楽しませてくれるのかしら?。」
女性の問いにディードは無言で攻撃を怒涛の攻撃を繰り広げていた。
((短期決戦で決めないとディーが持たない。))
その頃、≪住処≫ではディードは魂の楔に繋がれたまま激痛に声を荒らげていた。
「うああああああああああああ!!!。」
繰り広げられる怒涛の攻撃、それと引き換えにディードは大きく消耗していく。
ファグが魔法を繰り出すたびに、アイリスが武器で攻撃する度にディードは繋がれた鎖から、体力、魔力、そして魂を削られていく。
「ハァハァ・・・な・・・なんだよこれ・・・・?。2人が俺の身体を使って外で攻撃している?。・・うぐっ!?・・ぐぁああああああ!?。」
ディードの身体を激痛が走る、その代わりに外ではファグ達が攻撃を繰り返す。
その甲斐あってなのか、女性は障壁を展開する速度が、攻撃の速度に追い付かず少しづつ攻撃を受け始めていた。
「・・・・ふうん。やるじゃない、じゃぁこれはどう?【黒の白昼夢】。」
女性の左手から打ち出されたのは、白と黒が渦を巻いている球。
ディードは咄嗟に避けるが球は起動を変え追尾してくる。
「あらあら、いつまで避け切れるかしらね?当たった方が楽に死ねるというのに。」
「「本当性格悪い女神ね。これならどう?」」
獣化したディードは、アイテムボックスから16階で倒した魔物を数匹、白黒の球にぶつける。ぶつけられた魔物達は肉体が収縮、膨張を繰り返す。
そこに火球を投げつけ、白黒の球は爆発し消え去る。
「へぇ、そんな防ぎ方も研究してたのね・・・随分勉強家になったわね。」
「「ええ、どこぞの不意打ちが好きな女神様の為に色々と策を練ったの・・・よ!?。」」
獣化したディードは白銀の槍を心臓狙い突き刺す。
だが、またも魔法の障壁によって届くことなく阻まれる。
同じ攻撃法で面白味が感じなくなったのか、女性は少し残念と言わんばかりの表情をする
「あら?防ぎ方は覚えても、攻撃の仕方はお勉強してこなかったの?。」
「「本命はこっちよ。」」
獣化したディードは白銀の槍を手放し、その場で魔法を撃つ。
「「【雷獄】!!」」
右手から数本の稲妻が迸り、女性を高熱の電流が丸ごと囲い駆け巡る。
さらに浮いていた白い球体も稲妻を発生させ縦横無尽に駆け巡り稲妻の繭が出来上がる。
女性が展開させていた魔法の障壁は耐え切れなくなり砕け散り、女性を高熱の稲妻が身体を駆け巡る。
雷獄を解除すると目の前に現れたのは、真っ黒く焼け焦げた女性。
直立不動で立つ姿は、所々炭化しているのも見受けられるが、獣化したディードは白銀の槍を拾い上げ女性の心臓狙って投げる。
投擲されいとも簡単に貫通し、槍は地面に突き刺さり女性の身体は脆く崩れ散って行った。
「「・・・・・チッ。」」
膨大な魔力を消費し、荒く息を上げる獣化したディードは崩れ去った女性を見て舌打ちをする。
するとどこからともなく拍手をする音が聞こえる。
「私のお出かけ用の身体を1体壊せたわね。おめでとうといった所かしら?。」
「「そのまま死んでてくれないかな?。」」
そこには新たな女性が黒い杖とダンジョンコアを背後に浮かせ笑みをこぼしていた。