第95話 対策
16階へと降りた3人は初めて見る光景に驚きながらも足を進めていた。
見渡す限り赤茶色の大地、遠くの方では切り立った崖、その間を縫う様に続く道、生き物にはかなり過酷な環境だと思える通称【荒野】。
ディード景色を見ながらポツリと言葉をこぼす。
「本当に何でもありだなダンジョンって・・・まるでグランドキャニオンだ。」
「グランド・・・・?何それ?。」
効きなれない言葉にリリアが首を傾げる。
「ああ、俺が元いた世界の光景だ。似ていると思うが、俺は実際の光景を目のあたりにしてる訳じゃないんだけどな。絵だけの勝手な想像だ。」
「絵だけで想像?ディーのいた世界ってそんなに絵画の技術が優れていたの?」
「あー、道具の技術が優れたって言えばいいかな?見た景色をそのまま絵にすることが出来る技術があったんだ。こっちには無いの?。」
「魔道具による景色を映し込む道具はあるにはあるけど、高価な上に何枚も記録しておくことは出来なかった気がする。あれば間違いななく軍事技術として使われていたもの。」
「そうか、いつかは気軽にそんな道具が出来るといいな・・・・っとレミィちゃんが帰ってきた。」
レミィはディードの願いにより、兎の盾を駆使し高い位置から偵察をしていた。
高く跳んでは兎の盾を足元に置き、それを足場にしてさらに跳躍する。
彼女だから出来る技術であり、非常に有用な技と言える。
「ただいまです。」
「お帰り~。大丈夫だった?」
「お帰り、ごめんね面倒な事頼んじゃって。」
「いえいえ、それ程難しい事じゃないですし、それに最短で行くにはこっちがいいわけですし。」
切り立った崖の間を縫う様に行く道が17階への最短ルートとギルドで教えられディード達は危険を承知でそこを強歩している。救出の為とそれともう一つの目的の為に。
「それでどうだった?。」
「情報通りですね。少し先崖の上に5、6匹のスピアバードが居ます。私達にまだ気づいていないのか食事を終え満足しているのか、休んでいる様です。」
「そっか、それじゃ俺達も奴らの食事にならない様に対策を取ろうか。」
「はい。」
ディードの一言にレミィは偵察を切り上げ3人固まりながら小走りで先を進む。
やがてスピアバードのいる所に近づいたのか、近くには武具などの装備品がチラホラと点在していた。
レミィは上空から来る気配に感づき警戒を促す。
「来ます!!。」
「わかった、それじゃ作戦通りにいくよ。【水獄】!。」
ディードが両手を掲げ、目の前に広さ3m深さ1mの水の塊、水獄を繰り広げる。
「ディー本当にこれでいいの?。絶対奴ら突っ込んで来るわよ?。」
「ああ、だからこの方法を選んだ。安全に確実にそして早く討伐する為の方法だ。信じてくれ。」
「私はディードさんを信じてます。」
「・・・そうね、ディーを信じるわ。やりましょう!。」
「ああ、来るぞ!。」
ディードは飛来してくるスピアバードを確認し、水獄に一層魔力を注ぐ。
スピアバードは鳥の魔物だ、名の通り槍の様な形状をしている。高い所から獲物の見定め急降下してくる。
その姿はまさに空から飛来してくる槍の様に見える事から付けられた名前だ。
嘴は鋼鉄と同等の硬度を持ち獲物を串刺しにする。そこから生き血や魔力を吸い上げる。また、魔力の多い者を感知し優先的に狙う事から、別名【魔法使いキラー】とも呼ばれている。
ディードが繰り広げる水の檻など突き破り、その身を喰らってやろうと意気込み急降下してくる。
そして、水獄の中を突き破ぶり水面から顔を出した瞬間、自分の視線がクルクルと宙を回っている事に気づく。
何が起きたか理解出来ないスピアバード、そして地面に転がった時に初めて自分が首と胴体が別れた事に気づき、その生を終えようとしていた。
次々と襲い掛かってくるスピアバードだったが、ディードの水獄を抜け出し顔を外に覗かせた瞬間に首を刎ねられていた。
ディード達の作戦はシンプルな物だった。 水獄を破って顔を覗かせたスピアバードを、レミィとリリアの2人が首を狙うというものだった。
水の中は密度が高い、どんなに勢いよく突き進んでも突破する事にはそれなりに減速される。
ディードの水獄は1mも深さがありそれを突き進むとなれば、顔を出す頃にはかなりの減速が予想されていた。
ディードはこれを利用し、2人に顔が出たら首を狙う様に指示してあった。
6匹目をリリアが斬り全てのスピアバードが居なくなったのを確認したディードは水獄を解除する。
「お疲れ様、簡単だったでしょ?。」
「確かにあっけなさ過ぎて、拍子抜けよ。最後のスピアバードなんか理解出来ないまま死んでいったわよ多分。」
「ええ・・・確かにこれが16階からの洗礼と言われる魔物だと言われるとちょっと・・・とは思いますけど、これもディードさんの作戦のおかげですね。」
洗礼の魔物と言われる訳、それは16階から本格的になる空からの魔物による攻撃だ。本格手に空を警戒しなくてはいけなくなるのは16階のスピアバードからだ。
基本的に冒険者は空の相手するのは苦手だ、理由は単純、空への対抗手段が少ないからだ。
四方から来る敵に対し、さらに上空も警戒しなくていけない為、16階からは難易度はさらに上がる。
これに対し、ギルドは上空に対する抵抗手段として16階からはレンジャーまたは魔法使いなどを、最低1人パーティーに入れる事を推奨している。
だが、それを優先して狙うスピアバードは、初めて来る冒険者には天敵とされ、16階の洗礼の魔物と呼ばれるようになった。
「話によるとスピアバードは焼くと美味しいらしいから、この依頼が終わったら捌いてみようか。」
「串焼き、姿焼き、どれも美味しそうだけど・・・。」
「身が少ないですよね・・・。」
その名の通りスピアバードは槍の形状に近い姿をしている。急降下強襲に適した進化を遂げその身を細く進化した魔物で、身に多くの魔力を含み味もかなり上質な味と称されている。
「まぁ、食べる事は後にするとして、多分ここら辺にあるはずだから少し探そうか。」
ディード達がここのルートを来たもう一つの理由、それは遺品探しだ。
命を懸けてギルドに報告に来た2人の兵士の仲間であったオルテガの遺品をついでに探すとディード達は決めていた。
オルテガの遺品は狙い通りすぐさま見つり、錆びてない血の付いた穴だらけの鎧、兵士達の証明であるドッグタグを見つけアイテムボックスにしまう。
「さて、ここを抜ければ17階だ。遺品も回収出来たし急ぐとしよう。」
「そうね、行きましょう。」
「はい。」
その後もう1度スピアバードの群れに襲われた3人だったが、同じ方法を用いて撃退し彼等は17階へと降りた。
そして17階を降りた際、3人は異様な光景を目にする。
「なんで、一つの場所に魔物が固まっているんだ?。」