第94話 急行!
「うあぁあああああ!!!。」
右腕を噛まれライーザは苦悶の表情を浮かべる。蛇の牙は彼女の肘から下に牙を喰い込ませていた。
「ライーザ様!。」
リンは声を張り上げライーザを救出すべく槍を構え黒蛇へと狙う。だが、
「リン!その槍を私に向って投げろ!。」
「・・・・え?。」
「早く!チャンスはコレしかない!。」
「は、はい!?。」
ライーザの指示に促され戸惑いながらもライーザに向けて槍を投げるリン。
その投擲された槍の勢いを殺すことなく左手で受け、さらに加速させ黒蛇の目を狙った。
「喰らえ!。」
ライーザの渾身の一撃が黒蛇の目を貫く。腕を噛んでいるせいか黒蛇は声にならない悲鳴をあげその場で藻掻いた。
「さすがにここは硬く出来なかったか。悪いがここでチャンスを逃がす訳には行かない。土産に右腕をくれてやる!もってけ!!。」
目を貫き藻掻き苦しむ黒蛇にライーザは更なる追撃をかける。槍の向きを変え、貫いた目から下へ貫通させ自分の右手をさらに貫き地面へと一気に刺したのだ。
同時に上がる2つの悲鳴、ライーザは右手を失い激痛の声、黒蛇は目を口を貫かれ地面に縫い付けられて悲鳴を上げていた。
ライーザはすぐさま動く、右の肘から下は無く出血も多い。
それでも彼女は動きメイの元へと近寄る。
「メイ!槍を借りるぞ。」
「ライーザ様!今の声は。」
未だ目を開けられないメイは状況を把握できずにいる。
「気にするな勝利への咆哮だ。」
ライーザはメイの持っていた槍を素早く取り、黒蛇の左目を狙う。
「万全の状態だったら一騎打ちしてみたかったんだがな、名も知らぬ変異種よ・・・永遠の眠りに付け!。」
ライーザは黒蛇の左目を渾身の力で貫き、今度は脳の方へと向きを変え奥深く槍を繰り込ませる。黒蛇は声にならない悲鳴を上げその場で激しく上下し暴れるが、1分もしないうちに動きは止まり生命の活動に幕を閉ざした。
「勝った・・・・・。」
「ライーザ様!。」
勝利を確信したライーザはその場に膝をつき左手で右腕を抑えながら丸くなる。
勝って張りつめていた緊張の糸は切れ、興奮状態で忘れかけていた痛みが一気に身体を巡り、右腕から出た出血で周囲は赤く染まり始めていた。
「ライーザ様しっかり!。誰か回復薬を!。」
「リン!、ライーザ様に何があったの?教えて!。」
「メイ!貴方を庇ってライーザ様は右手を失ったのよ。」
「ライーザ様!!なんて事を!早く止血を。」
メイの問いかけにリンが答え、その答えに驚き悲鳴に近い声を上げるメイ。
(確かにリンの言う通り止血を・・・だが回復薬は手持ちに・・・い・・いや、ある!)
ライーザは鎧の内側を左手で探り目当ての物を引き出す。
それはあの時、ディードから貰った回復薬だった。
(普通の回復薬でも止血は出来るから取りあえずこの場はしのげる、これをくれた彼に感謝だな。)
ライーザは、そう思いながら回復薬を飲みはじめる。すると効果はすぐに出始める。
痛みは薄れ腕の先端から出血は止まり、傷口を隠すように肉が再生しはじめる。
体内に新たな血が再生されていくのか、勢いよく巡る血の流れは彼女を勇気づける。
痛みで丸くなっていた彼女は痛みが取れ、安心し仰向けなり呼吸を整えた。
(もしかしてこれは高回復薬か?・・・ああ、助かった。もし彼がこの場にいたら感謝の印にキスをしてあげたいくらいだ。でもそれだと、2人の彼女が黙っていないだろうな・・・ふふふ。)
そんな思いに駆られたライーザは天を仰ぎながらクスクスと笑っていた。
「ライーザ様、ご無事ですか?。」
メイとリンは仰向けになりクスクスと笑うライーザを心配しながら声をかける。
「ああ、生きているぞ。腕は失ったが生きている、この高回復薬が無かったら危なかったけどな。」
仰向けで空になった回復薬を振り無事をアピールするライーザ、それをみたメイとリンはホッと胸をなでおろす。
「メイ、すまなかったな。あの黒蛇の毒霧は見抜けなかった、目は大丈夫か?。」
「何を言ってるんですか!?私達が足手まといなせいでライーザ様の右腕を失う事になったのです。申し訳ないです。目はまだぼやけてますが動くには問題ないです。」
「そうです、ライーザ様のせいじゃありません。あの黒蛇にダメージを与えられない私達の力不足です、申し訳ありません。」
「・・・・お前達。」
ライーザ自分の力不足を謝罪しようとしたが、逆にメイとリンに謝罪される。
黒蛇には有効なダメージを与えられていたらこんな危険な結果にはならなかったのかもしれない。
しかし所詮たら、れば、の話だ。ライーザは生き残れた結果を重視したいが、彼女達は自身の右腕を見て悲しそうな顔をしている。
そんな2人を見てライーザは身体を起こし、彼女達の肩に軽く手をあてる。
「お互いに謝罪しあってても先に進まない、ここから無事に出られたら反省会でもしようか。それまではお預けだ。まずはここを生きて出るぞ!いいな。」
「「はい!!。」」
ライーザの提案に彼女達は声をあげそれぞれの武具を拾い上げ、兵士達と合流しようと南側に戻ろうとした。
しかし兵士達は息を切らしながら走りながらこちらに向かってくる。
「報告!ロックゴーレムが階層付近で出現!救援を!。」
「またなの?一体どうなっているの?16階からこんな数の魔物なんて聞いた事がないわ。」
「ですが魔物はこちらに向かってきます。我ら3人では持ちません、支援をお願いします。」
(おかしい・・・事前に聞いた話とまるで話が違う、変異種なんてのは数年に一度現れるかどうかの魔物・・・それに16階からの魔物は個の強さが出始め、共闘するような魔物は存在しないはず・・・。)
ライーザは兵士からの報告を受け思考を張り巡らす。
ダンジョンの中における変異種の出現は数年に一度あるかないか、それも単体のみと言われている。ダンジョン外の変異種の確率はさらに低く数十年に1度とも言われてる。
これにはダンジョンのコアと魔力が大いに関係してあり、コアの機能と強い魔力に影響されたダンジョンの魔物が、己の生存を掛けて進化を促しているというのが説であるとされている。
そして進化に打ち勝ち、変異したものが次の種の礎となり繁殖を繰り返し定着させていくものだと現在は推測されている。
(一番安易に考えられるのは罠だ。何らかの形で変異種を意図的に作り出し私達に戦わせる・・・・もしくは・・・いや、その考えよりも今はどうするかだ。ロックゴーレムだけなら私とメイ、リンで迎え撃つことが出来る。しかし、次に出てくる魔物が出た場合、さらに魔物が先程の様に変異種、もしくは複数来た場合果たして我々は守り切る事が出来るか?・・・答えは否だ。北も東も苦戦しているだろう・・・インディス家には救援は望めない。いや、望む事は出来るだろうが多分大きな見返りを求められるのであろう。・・・・そうなると、他からの救援が必要になるな。)
「そこの3人の兵士達・・・確か名前は、オルテガ、メッシュ、ガイアだったな?。」
「は、はい・・・。」
「これから緊急の命令を出す、ロックゴーレムは私達3人が引き受ける。お前達3人は15階へと戻り転送陣を使いギルドに救援要請を出してくるのだ。」
「え?・・・しかしそれは・・。」
ライーザの命令に戸惑う3人、だが彼女はさらに言葉を続ける。
「ここでロックゴーレムを何とかしたとしても、次に来ないという保証は無い。既に変異種と呼ばれる存在は2体確認、さらにこの魔物の数だ。私はこれを作為的な物だと判断している。このまま救援を求めずに戦うのは危険と判断したのだ。君達が頼りなんだ、聞いてはくれないか?。」
「ライーザ様・・・。」
ライーザは3人に頭を下げ頼む。
「分かりました、その命令お受けします。必ず戻りますのでそれまで頑張ってください。」
「すまない助かる。」
兵士達は意を決し転送陣へと戻る事を決意する。
そして来た道を振り向いた時には、既にロックゴーレムの足音が巨体が見えていた。
「それでは私達が援護する!メイ、リン!準備はいいな?。」
「はい!。」
ライーザは左手に盾を持ちながら先頭に立ちロックゴーレムに向かって行く、後ろにはメイとリン、それに3人の兵士達が続いている。
ライーザはロックゴーレムの注意を引きつけ、メイとリンは素早く左右に分かれロックゴーレムの足を狙う。
「今だ!行け!。」
「はい!、必ず戻ってきます!どうかご無事で!!。」
「絶対に生きて会いましょう!。」
「ライーザ様、ご無事で!。」
3人の兵士達は、そう言い残すと脇目も振らず16階へと戻って行く。そして彼等の2人が転送陣まで走り込み、ギルドに連絡したという訳だった。
「それからの事はわかりません。16階でスピアバードの攻撃を一身に受け、散ったオルテガの為にも私達は騎士団へと戻りたいのですが、私達はまだ体力が回復していませんし、貴方達の案内をする所か足を引っ張ってしまう状態です。どうかお願いします。」
そう言って転送陣の先で涙ながら話す2人の兵士。
「任せてください。貴方の思い確かに受け取りました、行ってきます!。」
ディード、リリア、レミィの3人は16階の荒野へと走り出した。
この小説を書き始めてから1年が経過しました。
そして記念すべき100話 (閑話も含む。)
大まかなストーリーとキャラ、スタートとエンディングだけの構想で始めた稚拙な物語ですが、完結まで書き続けたいと思います。
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(`・ω・´)ゞ