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よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いてるちゃん〜  作者: 猫屋ちゃき


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9/21

第五話 いるよ1

 人はなぜ怪談を作るのだろうか、口にするのだろうか。

 怖いものが好き、スリルを味わいたいという者もいるだろう。だが、怖いはずなのに、知ればしばらく忘れられずに怯えて暮らしていかねばならないというのに、それでも怪談を聞きたい、読みたいと思う者もいる。

 どれほど恐ろしい思いをしても怪談に触れたいと考えるのは、人の本能的な欲求でもあるのだろう。その証拠に、平安時代末期に書かれたとされる古典文学の中にも怪談は多数存在する。そんな昔から、人々は怪談を求めていたのだ。

 当然、単純に娯楽として楽しまれているという側面はある。安全なところで、自分ではない誰かが恐ろしい思いをしたという話を聞くのは、ある種の楽しみなのだ。怪談の語りを聞くことで恐怖を感じられるということは、自分が安全なところにいると確認できるということなのかもしれない。

 実際に誰かが体験した怖い話も、多くの人を怯えさせている原因不明の事象も、怪談という形式に落とし込むことによって娯楽としての恐怖に変容させることが可能だ。怪談という形で接すると、フィルター一枚隔てた出来事のように捉えることができるから。

 つまり、日常の中にあった恐怖を非日常に切り離す装置として、怪談が機能しているということだ。

 そんなふうに、人々の日常を守るために語ることができる怪談だが、語ることが日常を侵食するという側面もある。

 たとえば、夜道の弱々しい街灯の下に現れるという幽霊の話を聞けば、風呂場の鏡に映る不気味な女の話を聞けば、布団の中から伸びてきた手に引っ張られてどこかへ連れて行かれそうになった話を聞けば、夜道が、風呂場が、布団が、怖くなるに違いない。

 それが、非日常を娯楽として楽しむための怪談が、日常を侵食するということだ。

 そして、怪談の厄介なところは、語ると“呼ぶ”ということだ。

 呼ぶとわかっていても語ってしまうのか、そうと知らずに語って呼んでしまうのか。

 わからないが今日も様々な場所で、怪談は語られている。


***


 定期考査の最終日の放課後、駿は人通りの少ない廊下で源の話していた。

 盛んな部活であれば今日から活動再開なのだが、郷土研究会はまだ休みだ。急いで再開させる必要はないし、そもそも毎日何をやっているのかと思われているだろう。

 部活は休みだが、駿は源と話しておきたいことがあったため、人目を避けて立ち話をしている。


「あれから天文部員たち、どんなですか?」

「察しがいい子たちだったみたいだから、深追いはしないんじゃないかな」

「そっか……俺んちに泊めたときに釘を刺しといたんで、大丈夫だとは思ってましたけど」

「教室での様子を見る限り、山で見た変なもののことは忘れてそうだよ。彼ら、本当に星が好きだから」

「みたいだな。俺をそっちの趣味に引き込みたいらしくて、夏の星を見るキャンプとかに誘うメッセージを送ってくる」

「お、いいじゃないか。小幡くん、友達いないんだし。学年が違っても、仲がいい子がいるのはいいことだ」


 真面目に怪奇クラブとしての報告や情報交換をしようとしていたのに、源は駿の高校生らしい話を聞いてほっこりした顔になる。駿の事情を知っていて日頃から面倒をかけてしまっているから仕方がないが、源は時々かなり保護者モードになる。


「そんなことより、先生はあの山にいるやつ、何か見当つきますか? 俺はこの近隣の噂とかネットで探ったんですけど、何もヒットしなくて」


 駿は脱線しかけた話を、やや強引に戻した。本題はこっちだ。

 あの日は逃げて安全を確保するのに必死で、何かわかったわけではない。また同じことがないとは言えないのだから、講じられる策があるのか考えておく必要がある。


「僕もいろいろ調べてはみたけど、類似した話は見つからないね。灯りと声の組み合わせっていうのが、結構斬新かも」

「斬新かもって……最初は『おい、おーい』って言ってたのが、あとで聞いたら『フーッ』っていうのに変わってたんですよ。たぶん、俺らが逃げるときに出した声の真似だと思う」

「声真似か……」


 あのときのことを思い出して、駿は背筋がぞわりとするのを感じた。

 得体の知れないものがワケのわからない雄叫びをあげているはうがいくらかマシに思える。声を、言葉を真似るたいうのは、言い知れぬ不気味さがあるように感じるのだ。だから駿は見た目は可愛いと思っても、インコのような喋る鳥や、こちらの喋った内容を録音・変換したのちに再生する真似っ子系のぬいぐるみが苦手だ。


「山にまつわる怪異って、実はいろいろいるんだよね。その中でもよく聞くのが、猿にまつわる話なんだ。そのせいかわからないけど、古くから生活の営みの中で山に入るような機会があるような人たちは、山に入る日には“猿”という単語を発しないよう注意していたんだって。もし誰かが言ってしまった日には、山に入るのを中止するっていうくらい徹底していたらしいよ。そのくらい、猿を不吉なものだと考えていたんじゃないかな。そして山に入ったら極力喋らない、喋るにしても里の言葉を使ってはならないと決めていたらしい」

「へ、へえ……」


 源は何かを考えるようにして語りだした。

 彼が必要のない話をしないのはわかっているものの、怖い話は勘弁してほしいと駿は思った。そして、難しい話についていけるか不安になった。


「わりと近年にネットのオカルト系の掲示板に書き込まれてるのを見つけた話なんだけど、『キャンプ場の林で猿みたいな黒い影を見た』っていうのがあったんだ。ある若者が仲間たちとキャンプに行ったときに林の中でそれが何かブツブツ言っているのを見つけたんだって。よくよく耳を澄ませてみると、そいつは仲間たちの会話を一言一句違わず真似してたらしい。若者はそいつのその行動に気づくまで、このキャンプ場は声がやけに響くなあって思ってたらしいけど」

「……」


 駿は源の話のあまりの内容に絶句した。今の話とさっきの話をつなげると、とんでもないことがわかる。そして、自分の経験したことと関係があると理解して、一気に背筋が寒くなった。


「えっと、つまりそれは……山に入る人たちが極力喋らないとか里の言葉を使わないを徹底してるのは、真似っ子お猿さんに言葉を学習されると困るからって理解でオーケー?」

「さすが小幡くん、完璧な理解だね。あくまで推測だけど、おそらくそうなんじゃないかな。そして、この前小幡くんたちが遭遇したのは、この猿と呼ばれるものの一種なんじゃないかと思うよ」

「……あー、もー、俺、お猿嫌いだわ。マジで何なんだよ。ライトか何か光らせて『おーい』とか言って、何が目的なわけ?」


 源と答え合わせをして、駿は涙目になった。あれが何かは推測できたが、解決はしていない。むしろ、得体の知れなさは増すばかりだ。学校に気味の悪い有象無象がいるだけでも勘弁してほしいのに、行き帰りに視界に入る山にそんなものがいるだなんて怖すぎる。


「人里での目撃情報とか噂話がないのをみると、たぶん山から下りては来ないんじゃないかな。だからって、双眼鏡でわざわざ見るのはおすすめしないけど。見たらおかしくなる系の存在かもしれないし」

「先生は俺を安心させたいのか怖がらせたいのか、どっちなんだよ!?」

「怖がらせたいわけじゃないけど、安心もさせてあげられないなあ」


 怖がる駿に、源はヘラッと笑った。たまに駿は、この眼鏡教師はドSなんじゃないかと思う。女子たちがたまに「源先生って癒やし系だよね」などと話しているが、断じて違うと言いたい。


「そんなことより、源先生のクラスの例の女子は落ち着いたんですか? コトラがやっつけたのは見たんですけど、一体何が何だかわからんかったんで」


 そういえば、と駿は琴子と一緒にいる女子のことを思い出した。背中に禍々しいものを背負っていたが、駿はあれが何なのかさっぱりわからなかった。そういうものに詳しいとは決して言いたくないものの、あんなものはこれまで見たことがない気がする。


「成瀬さんは、落ち着いてるね。というより、例のことがある前より、今のほうが生き生きしてるかな。男虎さんと仲良くなったのをきっかけに交流の輪も広がったみたいだし」

「へえ、よかったな。じゃあ、あのとき運悪く変なもんに憑かれてただけ?」

「いや、そういう単純な話じゃないみたいだ。授業中に錯乱したってことでスクールカウンセラーのところに何度か行くよう言われてて、成瀬さんは渋々行ってたんだけど、何回目かのときに『友達がほしくて、理想の友達を作るおまじないをしました。今は普通に友達がいるので、二度とそんなおかしいことに手を出しません』って言ったらしいんだ。彼女、長々とカウンセラーや担任の僕に心配されてるのが面倒になったらしくて、僕のところにそうやって報告に来た」

「うへぇ……」


 成瀬という女子が何をしたのかはわからなかったが、とりあえずヤバそうなのはわかった。というより、ヤバさしか感じない。おまじないじゃなくて絶対に呪術じゃん、と怯えながら思った。


「それって何ですか? イマジナリーフレンドを進化させちゃったってやつですか?」

「いや、そんなものなら成瀬さんは今頃スクールカウンセラーに軽く相談ぐらいじゃ済まなくて、本格的に心療内科での治療が必要だっただろうね。人間にとっての怖いものは、何もオカルトに限った話ではないから。そういうんじゃなくて、儀式的に創ったんだと思うよ。友達を」

「……」


 またしても駿は言葉を失った。「それってどうやるんですか」とか「へぇ。そういう友達の作り方があるんですね」とか、質問もうまい返しも何も思いつかない。


「もしかして小幡くん、その友達の作り方を知りたいって思ったの? たぶん、タルパって呼ばれるものだと思うけどね。そんなに思いつめなくて大丈夫。君はひとりじゃないよ?」

「いや、知りたいと思ってないし、さらっと教えてくるの嫌だし、人の心をえぐらないでほしい」


 源に怖いこととひどいことを言われて、駿は思わず顔を覆った。タルパだとか何だとか知りたくなかったし、友達がいないことに触れてほしくなかった。やはり、この眼鏡教師はドSにちがいない、と駿は思う。


「成瀬さんはまあ、今後何があっても大丈夫なんじゃないかな。男虎さんが友達だからさ。彼女自身が明るくて社交的でいい子だし、彼女の後ろにいる存在が強いもんね」


 駿を落ち込ませてしまったことに気づき、源はさりげなく話を締めくくった。琴子と、彼女の後ろの存在の話題が出て、駿は「うーん」と考え込んだ。


「確かにコトラの背後にいるのは強いですよ。でも、いつでもどこでも役に立つかどうかは……ちょっとわかんないですね」

「というと?」

「判定がガバガバなんです。近くに危険なものがきても反応しないときもあるし、かと思えばコトラが張り切ると即座に反応するし」

「なるほど。僕の後ろの空気清浄機とは、またタイプが違うんだね」

「空気清浄機って……」


 源が自分の背後の有り難い存在を空気清浄機呼ばわりするのを、駿は複雑な気持ちで聞いた。こんな得体の知れないものが見える目があるなら、危険なものから守ってくれる何かもセットでほしかったと思ってしまう。


「とにかく、コトラは何も見えない上に好奇心旺盛だから気になるものにはガンガン近寄っていく。ヤバイもんに近づいていって後ろのものが確実に倒してくれるんならいいけど、後ろのより強いのに遭遇したら……って考えると心配だ。だから、万能扱いは考えもんだと思う」


 琴子のこれまでの様子を振り返って、駿は言った。確かに彼女の後ろの存在はそこにいるだけで圧を感じさせるほど強力なものだが、何もしないときは本当に何もしない。できることならこの学校にはびこる有象無象を自主的に片っ端からやっつけて回ってほしいと、駿は思っているのだが。


「そうか……彼女に任せきりはいけないし、あまり無防備でいるのもよくないってことだね。小幡くん、ちゃんと先輩として心配してるんだね」

「いや、別に、そういうわけじゃ……」

「本当に、いい先輩だと思うよ。天文部にもなつかれてるしね」


 源に冷やかされるように言われ、駿は少し照れた。だが、本当にそんなことではないのだ。

 自分も怖い思いをしたくないし、誰にも怖い思いをしてほしくないだけだ。

 だからこそ、自ら進んでオカルトに首を突っ込む無責任なやつが嫌なのだ。


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