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BLOOD STAIN CHILD Ⅵ  作者: maria
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自覚

 受験は至極スムーズに終えた。緊張を覚えることもなく、昼にはミリアお手製の豪勢な弁当を食し、一層やる気を漲らせつつ、午後の教科も終えた。

 リュウは夕焼けを背に足早に帰宅すると、家ではどういうつもりであるのか、ミリアが豪勢な中華料理を食卓いっぱいに並べていた。

 「ど、どうしたのさ。」

 「どうしたって、パーティーだわよう。」

 ミリアはパーティーが好きなのである。誕生日や各種年中行事は無論のこと、リョウがツアーから戻ってくればこれはもう問答無用で即パーティーであるし、リュウがアルバムを作っても当然パーティー、いつぞやに至っては愛猫白の腹にできた「おでき」が治ったパーティーなんぞもあった。要は、朝から丹念に時間をかけて凝った食事を作り、それを家族みんなで囲むのが好きなのである。

 「もしかして、それは、……僕の受験が終わった……?」

 「あったりまえじゃないのよう! お疲れ様。ようく頑張ったわねえ。」

 ミリアは満面の笑みで答える。リョウは当然だろうとばかりに笑みを浮かべながら、ソファでギターを弾いている。

 「今日は久々にミリアと一緒にスーパー行ってな、お前の好きな中華料理の材料買ってきたんだ。いやあ、最近できた駅前のデパ地下、何でもあんのな。ねえモンがねえ。」

 「リョウってば試食ばっかししてんのよう。」

 リュウは苦笑したままギターを置き、食卓に着いた。

 「滅茶苦茶旨かったぞ。でな、リュウにも食わせてえって思ってな、この小籠包だろ、それからエビチリ、買ってきたんだ。」

 「うわあ、美味しそう。」

 リョウはビールを飲みながら、ミリアも少しぐらいはいいだろうとリョウに強いられ、ビール一杯に顔を赤らめながら、受験終了パーティーが始まった。

 「いよいよお前の受験も終わるっつうんで、昨日弦張り替えてやって早速ギター弾かしたらよお、ミリアのやつ、結構ギター弾けんの。もちっと腕がなまってると思いきや、全然前と変わんねえでびびったよ。」

 「そりゃそうだよ。ミリアはいつも一人になるとギター弾いてたんだから。」

 「い、い、言っちゃだめよう!」

 「どうしてさ。ミリアはいつも欠かさずギター弾いてた。おじいちゃんのSGのオールド、いっつもここで弾いてたんだ。優しい音がしてたよ。僕はだから早くステージに戻ればいいのにって思ってた。」

 「……そうだったんか。」

 「違うのよう。ただ、ほら、……ギターが好きだから! 小さい頃からおもちゃ代わりだったでしょうよう。だから、弾かないと、……うーんと……、気分が下がってくるのよねえ。」

 「あははは、そうか! 俺はな、実は、……ミリアにLast Rebellionに復帰させたかったんだ。」

 「知ってたよ。だから正式なギタリストを入れなかったんだ。」

 「つうかな、本気で入れてもいいなって奴がいれば入れたかもしんねえんだけど、ミリア以上のギタリストが実際、いねえんだよ。否、テクニックだけだったら巧い奴は幾らだっているんだけどな。珍しくもなんともねえ話だ。ただ俺の曲を解釈して、そんで最高のギターソロを作ってくれる奴となると、世界でミリアしかいねえ。俺はそれがよーく、わかった。十数年かけて、よーく、わかった。」

 「だって私はリョウが大好きだもの。昔っから、とーっても。」

 「それも知ってる。」

 「リュウは何でも知ってやがんな。だからテストの点もいいのか。こりゃ、高校も余裕で合格だな。」

 「うん、そうだね。それから、ミリアとリョウが区役所に結婚届を出してなくても、夫婦以上の夫婦だってことも知ってる。」

 二人は一瞬で酔いが醒めた如く、はっと息を呑んでリュウを見詰めた。

 「戸籍上は兄妹ってなってて、それで結婚できないことも。でもそれは間違いなんだ。リョウとミリアは本当は他人同士で、しかも世界で一番近しい他人同士、つまり夫婦なんだ。」

 二人の目を真ん丸に見開いた驚き顔が、リュウは可笑しくてならない。

 「リョウもミリアも間違いなく、僕の最高のお父さんとお母さんさ。区役所の人が何と言おうが、そんな人たちには何もわからないのさ。わからないで、言ってることさ。そんなの気にすることない。僕は全然気にしない。」

 リュウは自身がここまで饒舌なのに、我ながら驚いた。しかし言わねばならない、そういう決意めいた思いが更にリュウを饒舌にさせていく。

 「僕はもうあと二か月で高校生になる。義務教育が終わる。だからもう何の遠慮もいらない。リョウもミリアも、ちゃんと本当のことを言ってくれていい。僕は普段から一番近くでリョウとミリアの姿を見ているんだ。ちゃんと、自分の目で真実の姿を見ている。だから何も隠さなくったっていい。もう現実に向き合える年齢だ。」

 リョウとミリアは目を瞬かせて互いを見詰めていたが、やがてリョウが重々しく口火を切った。

 「……リュウに内緒にするつもりは、なかったんだ。」

 リュウは大きく肯く。そこに何の虚飾もないことを知悉していたので。

 「単に忘れてたっつうのかな。馬鹿みてえなんだけど、正直普段は何も考えてねえ。ただミリアとリュウが大事なだけなんだ。旨いモン食った時は、お前らにも食わしてえなって思って、クールなフレーズが思い浮かんだ時には真っ先にお前らに聴かせてえなって思う。逆にキッツイ目に遭った時もな、即座にお前らの顔が思い浮かんだ。そういう思いを抱く対象をカテゴライズするとなると妻と息子になるのかもしんねえが、そもそも俺には家族っつうか親兄弟っつう見本がなかったわけだし、正直わかんねえ。」

 リョウはそこでふと考え込み、黙した。

 「……たしかに、俺らは結婚式はやったがな、区役所さんに婚姻届っつうモンは出してやってねえ。戸籍上では夫婦じゃない、異母兄妹だ。でも正直、だからっつってミリアとリュウに対する思いは変わらねえし、つまり相変わらず一番だっつうことだ。何しても、一番に伝えたい人間。それは妻と息子っつうことになんのかな……。」

 「そうだよ。」リュウは即答する。「リョウがミリアや僕のことを思ってくれている気持ちは、父親だよ。だから僕にとってのリョウも父親だ、しかも、ヒーロー。唯一無二のヒーロー。」

 リョウはほうと長い溜め息を吐きながら微笑んだ。隣でミリアも微笑みながらリョウの顔を覗き込む。

 「……そうか。……ありがとう。俺は今、初めて父親んなった気がする。」

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