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2.What do you do?

 この大陸に住む傭兵達の多くはアンテロープに本拠地を置いている。

 その理由は遡ること約五年前、当時の国王トニック・アンゴスチュラの暴政に耐えかねた国民達がクーデターを起こしたことに帰せられる。

 その陣容は国王と対立し閑職や辺境に追いこまれたり、冤罪を着せられて領地を没収されたり親族を殺された貴族・元貴族達が主であったが、戦場の主戦力となったのは理不尽な法律や高すぎる税金などに苦しめられた平民達だった。

 約二年に渡る内戦の後、トニックは捕らえられ一族郎党まとめて処刑。アンゴスチュラ王朝は滅亡した。

 そして代わりに立ち上げられた新政府には身分・クーデター以前の罪状問わず、戦争で活躍した者達が就くこととなった。

 しかし与えられる職や金には限りがある。

 そのため内戦に参加したもののあまり実績が残せなかった者達には満足のいく地位や報酬が与えられなかった。

 ただここで感情のままに暴れるほどあぶれた者達は馬鹿では無かった。

 家業や再就職のアテが無い達は戦場で知り合った縁を辿って集まり、次々に独立組織を結成。

 幼馴染だったから、個々の欠点を補うため、似たような依頼を受けることが多いから、活動場所が同じだからなどなどなど、その結成理由は様々ではあったが、彼らはチームだとかパーティだとか傭兵団だとか様々な名称を名乗り、アンテロープとは関係ない立場で勝手に活動を始めたのである。

 そんな彼らの動きを知ってか知らずか、政府もある施設とそれを管理する部署を新たに立ち上げた。

 それが依頼仲介所である。

 近隣の町村全体からやり手が見つからない些細な仕事から存亡に関わるような重大な案件まで昼夜危険度関係なくかき集め、やってくれる人を募るこの施設は復興の為の人手を必要としていた多くの市民のニーズにはまった。

 そして立っているだけで依頼が来るほど名を知らしめてない新人の傭兵達にとっても仕事を斡旋してくれる仲介所は有り難い存在だった。

 こうして無名の傭兵達が成り上がりやすい環境が生まれ、一発逆転を狙う他国の傭兵達もこぞってアンテロープに集まり根付いていったのである。

 今、二人の前で独演会めいた自己紹介をしているティントと名乗った少年もそんな傭兵の一人だった。


「ふぁ……」


 場所は変わって同じ街にある仲介所の貸し会議室。

 ティントに背中を押されて、アルバート達は彼の仲間が待っていたこの部屋に連れていかれていた。

 そんなまだデビューして間もないが、経験を積んでいずれは英雄と呼ばれるような者達の仲間入りをしたいと熱く語る彼に、一体何がそこまで彼を駆り立てているのか尋ねる気は最初こそあった。

 しかし著名な剣士や傭兵の名前を次々に挙げてはいずれ自分も、と長々と語り続ける彼にそんなことを聞いてしまえば今後の予定に差し障りが出ることは簡単に予測できたので、アルバートは質問(それ)を胸の奥へとしまいこんで終わりが見えない自分語りを聞き流すことにしていた。

 そしてそれは隣に座らされていた彼女も同じだったらしい。


「……これほど現実が見えてない様子では間違いなく返り討ちに遭うな」

「遭うだろうな」


 これまた椅子に踏ん反り返って座っているブレイトの予想にアルバートは一瞬すら考えずに肯定した。


「あんたの実力は知らないが……この分だと下手すれば俺たちも少なからず巻き添えに遭うことになるぞ」

「彼が酷い目に遭うのは私も構わない、舐めてかかった自己責任だ。しかしそれに彼のお仲間が巻き込まれるのは非常に心苦しい」

「それはどうだか。こいつの独断を許してる仲良しこよしのチームだろ? 見てて分かるだろう?」

「それは、そうだが……」

「どうしても切り捨てられないならあんた一人で手伝え。俺はどうでもいい」


 そう言って席を立とうとしたアルバートの腕をブレイトはとっさに掴んだ。


「いや待て、私はアルバート殿から例の話の答えを聞いてないぞ。聞くまでは離さん」

「そんなのここでなくても話せるだろう」

「……二人とも聞いてる?」


 二人がそんな話を交わしている様子を少年は心底不愉快そうな顔をして見ていた。


「えー、あー」


 答えを返そうにも適当な言葉が思い浮かばず、ブレイトは呻きながら、ティントの幼馴染であるという回復魔道士の少女ベラーノに目で助けを求めた。

 しかし肝心の当人は英雄譚だか憧れへの妄想なのだかよくわからない語りを続けていたティントをきらきらとした目で見ながら、頬を赤らめていた。

 明らかな人選ミスだった。


「悪い、聞いてなかった」

「全く、仕方ない人達ですね」


 無駄なあがきをしようとしたブレイトに対して、早々に開き直ったアルバートに臙脂(えんじ)色のフードを着た少女はため息をついていた。

 その表情はティントの話が止まって心底ホッとしてます、とでも言いたげな雰囲気だったが、アルバートは彼女がフードの隙間からちらちらと、ティントの一挙一動に目を向けてはふっと吐息を漏らしているのを見逃してなかった。

 彼女の名前はスーラといい、二人がこの街に出てきたその日に知り合い、以降ずっとパーティを組み続けているそうだった。

 年はこれまたティント達と同じくらいらしいが魔道士の養成学校を卒業しており、洗濯する時以外は肌身離さず身につけているというフードはその証なのだという。


「全く……。ちゃんと聞いてくださいよ」

「ティ、ティントさん。そろそろ依頼について話しましょう?」


 空気が悪くなりつつあることを察したのか、格闘家であるという少女が手を挙げた。

 何かしら話がいい所に差し掛かっていたのか、さらに不満げな顔をするティントと、その語りを途中で止められようとしていることに不機嫌さを隠そうともしないベラーノ二人の視線を受けて少女は小さくなった。

 少女の名前はリアといい、四人の中で傭兵としての活動歴は一番長いものの、パーティに入ったのは最後らしく、発言権はほとんど無いようだった。

 この有様にアルバートは内心、盛大にため息を吐き出していた。

 まず輪をかけてメンバーの経験が少なすぎることが一つ。

 二つ目にほとんどのメンバーが完全に仕事を舐めているか他のことに関心がいっていること。

 最後にティント以外のメンバーが全員女性、ということだ。

 これまで異性関係に関するトラブルが原因で著名な傭兵団が分裂・解散、酷いところでは全滅してしまったという話はいくつもあり、傭兵の間で半ば本気で語られている「四人以上の時は一点では組むな」という不文律を堂々と破っている。

 これらからこのパーティは文章だけで見ればバランスの良い編成に見えるが、その実は問題の種を抱えまくった集団、と受け取れてしまうのだ。

 といえども、黙って投げ捨てて回れ右をするのは隣の疫病神(ブレイト)が許しそうにない。


「そいつの言う通りだ。俺らは仕事に誘われたのであって自己紹介をしに来たわけじゃない。これ以上自分語りを続けるつもりなら俺は帰らせてもらう」


 なら宣言して既成事実を作るまで、とアルバートは腹を括ってティントを睨みつけた。

 文句あるか、と言わんばかりのアルバートに気圧されながらティントは平静を装いつつ頷いた。


「……いや、そうだな。確かにお互いのこともなんとなく分かっただろうし、そろそろ本題に移ってもいいかもしれないな」

「ねぇティント。ほんとにこいつを連れてくの?」


 仕事の話をようやく始めようとしたティントに口を挟んだのはベラーノだった。


「今回の仕事は別のパーティとも組む、っていうのはベラも同意してただろ?」

「したけどさー。何もこんな奴じゃなくてもいいんじゃないの?」

「仕方のないことではないでしょうか?」


 反抗してくるアルバートを嫌がる気配を隠そうともしないベラーノを見かねてか、スーラが口を出した。


「経験も実績もない私達のようなパーティにそれなりの人が加入してくれるとは思えないわ。それを考えれば彼のような人でも入ってくれることは将来的に見てもプラスだと思うけど」

「そうかもしれないけどさぁ。リアはどう思うの?」

「ふぇっ⁉︎ わ、私もスーラさんに賛成、です、ね」


 完全に孤立してしまったベラーノはつまらなそうに鼻をすすると明後日の方向を向いてしまった。


「別にずっとパーティに入れてくれというわけじゃない。今回だけの臨時、ってことなんだから我慢しろ」

「あんたさえ良ければ、正式に参加してくれても」

「お断りする」


 これまた不快感を隠そうとしないアルバートにティントがそんな勧誘をしてきたが、アルバートは即座に断った。

 良好な人間関係が構築できそうにない集団に加わるという更なるデメリットが加わる、メリットがほとんどない場所に好んで首を突っ込むほどアルバートは愚かではなかった。


「そ、そうか。……じゃあ改めまして、今回の仕事はゴブリンの討伐だ。ここから徒歩で三日ほどいった所にある村の近くの森にゴブリンが出たから退治してくれっていう依頼だ」

「ゴブリンの数というか、群れの規模みたいなものは?」

「分からない。村人が森で狩りをしているときに遭遇して逃げ帰ってきたらしい。まぁ、どのくらいの規模でも所詮ゴブリンだろう? たいした相手じゃない」


 気楽な調子でそう語るティントに一抹の不安を覚えないでもないアルバートではあったが、ちゃんと対処すればそれほど危険な相手でないことも確かだったので、それ以上言及することはしなかった。


「問題がなければ明日の朝にでも出発したいんだけど、どうでしょう?」

「そうだな……いいんじゃないか?」

「じゃあ東門の前で集合ってことでいいかな?」


 ティントの提案に女性陣から異議が出ることはなかった。

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