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1.What are you?

 傭兵。


 普段はどこの国や組織にも所属していないが金銭などの報酬を条件に契約、任務に服す武装兵のことである。


 ……と辞書にはかっこよく書いてあるが、実際の所は金さえもらえればどんなことでもやる自由業のことである。

 そんな彼らの溜まり場である安い酒場の片隅でテーブル越しに向かい合う一組の若い男女の姿があった。


「私、ブレイト、いいます。依頼、持って来ました」


 白い長髪の少女は立ちっぱなしで、座っている黒い短髪の男に話しかけており、どうやら待ち合わせというよりか飛び込みといった様子だった。


「ここは受付じゃないぞ」

「行きました、断られました、だからあなた、頼りたいです」


 外国人なのか、独特かつカミカミなイントネーションで懸命に話すブレイトと名乗った、髪だけでなく肌までも真っ白な少女を青年は椅子に座ったままやる気の全く感じられない視線を送った。

 しかしブレイトも引くつもりはないらしく、テーブルを掴みながら逆に睨み返していた。


「なんでよりによって俺なんだ……」

「女将さん。あなたオススメ、言ってくれた」


 青年のため息混じりの呟きにブレイトが律儀に答える。

 ひょんなことから事の元凶が分かった青年は犯人を睨みつけたが、当の相手は下手な口笛を吹きながら明後日の方向を向いていた。


「あなた気分次第、どんな依頼、受ける言ってた」


 女将からの情報を片言で訴えるブレイトに視線を戻した青年はしばらく黙った後、手元にあったメニューに目を移した。


「……お前、アビレオか?」


 その言葉にブレイトは目を丸くした。


「どうして私の生まれがわかった?」

「……アビレオのやつのは語尾が微妙に上がるらしい」

「そうなのか。意識したことがなかった」


 青年が母国アビレオの言葉が喋れるとわかったからか、一転して母国語で流暢に話し始めたブレイトは安心した様子で勝手に対面の席に座った。


「……俺はアビレオ出身か、と聞いただけだぞ」

「まあまあ、何かの縁だ。とりあえず話だけでも聞いてくれないか? あまり人には聞かれたくない話なんだ」


 まるで聞き分けのない子供を宥めるような一方的な口ぶりでブレイトは周りを見回してから手を組んだ。


「あまり人に聞かれたくない話を受けるかどうか分からないやつに話すのか?」

「アビレオ語が分かるやつなどアルバート殿以外ここにはいないだろう。もしここで大声で叫んだって問題なかろうよ」

「お前、そういう問……」


 それは違うだろう、と抗議しようと顔を上げた瞬間、ブレイトの泣きそうな顔が青年アルバートの視界に映った。


「ようやくメニューから顔を上げてくれたな」

「お前……!」


 今にも泣き出しそうな表情からは考えられないほど勝ち誇った声色で言うブレイトにアルバートは目を見開いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「どうした? 聞きたくなければさっさと立てばいい」


 鼻をすすりながら挑発してくるブレイトだが、アルバートは微動だに出来なかった。

 先ほどからアビレオ語で喋っていたせいで周りの人間達はアルバート達が何を言っているのか分からない。

 しかしそれだけで興味を失ってしまわないほどアルバート達は悪目立ちしてしまった。

 周りの人間達はきっと聞き覚えのない言語の内容を予想するよりもアルバート達の身振り手振りでその内容を推測し始めていることだろう。

 そんな状況下で「外国人女性の涙ながらのお願いを断っている男」と(はた)から見えるシチュエーションを作られてしまった。

 傭兵という、信用と実績が物を言う仕事でその状況は非常にまずい。

 恐らくここでアルバートが席を立てば、間違いなくブレイトは泣き出す。

 そうなればアルバートの立ち位置が悪くなることは火を見るよりも明らかだった。それが例え嘘泣きだったとしても。


「……聞くだけだぞ」

「ありがたい」


 精神的に退路を塞がれたアルバートが不満そうに降参宣言をするとブレイトは目をこすって頭を下げた。


「ではアルバート殿、早速ですまないのだが……私を殺せるか?」


 予想外の申し入れにアルバートは衝撃を受けたのか、真顔になって長い時間黙り込んだ後、疑いと嘲りの混ざった視線を向けた。


「……正気か?」

「残念ながら本気だ。こう見えて私の体の中には街一つは軽く消し飛んでしまうくらいの爆弾があってな。それが爆発しそうになったら私の息の根を止めて欲しいんだ。で、報酬の方なのだが……」


 ブレイトはいつのまにか横に置いてあった布袋の中身を漁ると一本の短刀を取り出した。


「銘は『安成あんぜい』という。剣士でないアルバート殿は知らないかもしれないが有名な刀匠が打った物だ。ちゃんとした所に売ればしばらく何もせずに暮らせるだけの金は得られるだろう」


 差し出された短刀を一瞥したアルバートはゆっくりと目を細めた。


「まぁ、別に無理強いをするつもりはない。もう人を殺したくないというのなら断っても」

「君達、お手すきかい?」


 クランが逃げ道を作ろうとした瞬間、二人に声がかけられた。

 二人が一斉に声がした方に振り向くとそこにはまだ顔にあどけなさが残る金髪の少年が笑顔で立っていた。

 真新しい革鎧に鞘に欠けが見当たらない片手剣を腰から下げている、いかにも新人ですといった風態である。


「依頼を受けようにも意見が合わなくて困ってるって感じに見えたんだけど、良かったら俺達のパーティに加わって一緒に受けない?」


 あまりの間の悪さと見当外れな理由に二人は揃って怪訝な顔を浮かべたが、少年は全く悪びれることなく別のテーブルから椅子を引っ張ってきた。


「うちのパーティ、人手はあるんだけど経験不足でさ。あんた達見た感じそこそこ経験を積んでるみたいじゃないか。損はさせないからさ、俺達と一緒に行こうぜ」


 ノリノリで話し続ける少年のテンションの高さに反比例するようにアルバートの視線は鋭く、厳しくなっていく。

 それも当然。どれだけ良い条件だったとしても、名前も素性も知らない相手に唐突に誘われて、もちろん喜んではいよろしくと簡単に頭を下げてしまうようでは長生きできるわけがないからだ。


「どんな依頼、受けました?」


 しかしブレイトは短刀をしまいながら少年に話を向けてしまった。

 すると脈があると見たのか、少年は思わず天を仰いだアルバートに気づかない様子で、ぱっと顔を輝かせてなぜかどこか得意げな表情を浮かべて告げた。


「簡単な討伐依頼だよ。俺のパーティ、格闘家と魔術師二人なんだけど、もしかしたらちょっと相手の数が多いかもしれなくて」

「何の討伐? 簡単、分からない」


 しつこく食い下がるブレイトに少年はため息を吐き、大した話じゃないだろう、と言わんばかりに肩をすくめた。


「ゴブリンだよ、ゴブリン。森に出たゴブリンの群れを討伐してくれって」

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