3.初志貫徹
「おはよーございまーす!」
アンジェロが元気よく扉を開けると、中で作業をしていた男性が不機嫌そうに大声を上げた。
「あぁ? まだ開いてねぇのが見えねぇのか?」
「依頼を受けて来ました!」
「依頼ぃ?」
アンジェロに負けず劣らずの大声で返され、男性が眉間に皺を寄せているとテラスになっている席の方からドタバタと走る音が聞こえてきた。
「お父さん、昨日話したじゃない! 何追い出そうとしてるの!」
「あ、お姉さんが依頼を出した人ですか?」
「ええ。ごめんなさい驚かせちゃったでしょ?」
階段から慌てて降りて来た若い女性にアンジェロが笑いかけると女性は困ったように笑った。
女性に怒られたからか受注者を勘違いで追い出そうとしてしまったからか、男性はバツが悪そうに厨房の奥に消えていくが誰もそれを呼び止めなかった。
「アンジェロっていいますー。こちらはブレイトさん」
「よろしく」
「よろしくお願いしますね。どちらで話しましょうか」
「じゃあ、問題の畑見てみたいな」
「分かりました、では歩きながら話しましょうか」
アンジェロの提案により3人は店の外に出る。
住宅街であり、まだ朝も早いからか道にすれ違う人の姿は少ない。それでも近所迷惑にならないようにアンジェロはやや声を潜めて話を始めた。
「害獣の種類ってわかってるの?」
「いえ……。ただ齧られているので浮浪者や虫の類ではないと思いますが」
「ちなみに被害はどれほど」
「んー……お料理に使うために育ててた物なので仕入れにかかる金額とか考えると……。でもまだ出してるわけではなかったので直接的な被害はないですね」
「不幸中の幸い、か」
「あ、そこです」
女性が指差した先には青々とした葉がついた植物がたくさん生えている農地があった。
「おお、住宅地の中にこんな立派な物が」
「ここの地域みんなで育てているんですよ」
泥棒が入ってこないようにするためであろう、金網に付けられた錠前を外して中に入る。
植物には沢山の実が生っていたが、その中で大きく齧り取られた熟した実が異彩を放っていた。
「ああ、今日もやられてる……」
女性が残念そうに齧られたまま放置されている実を手に取りため息をつく。
その横で同じような実を手に取ったアンジェロは噛まれた所に鼻を近づけて匂いを嗅いでいた。
「一体いつ頃から」
「大体一週間前ぐらいですね。チチさん……あっ、あちらの家のおばあちゃんなんですけど、その方が水をやりに来た時に気づいたのが最初ですね」
「チチさん?」
その名前に見覚えがあったブレイトは脇のポケットに入れていた依頼書の束を取り出す。
そして項目の依頼人の住所を見て納得した。
「……チチさんの家の飼い猫、って分かりますか?」
「あー、サーちゃんのことですか? そういえば最近見てないですねー」
念のためカマをかけてみると女性はごく自然に返した。当然だろう、猫は今失踪中だから。
「ブレイトさん! ブレイトさん!」
農地の奥からアンジェロの興奮した声がする。声のする方へ駆け寄ってみるとアンジェロは目をキラキラさせて農地の隅を指差した。
「見て見て! トクタミ草だよ!」
建物の影に生えていたのは、依頼で指定されていた薬効のある草だった。後ろからつけてきた女性はアンジェロが喜んでいる理由が分からないらしく、少し戸惑いながら言った。
「……あの、その雑草がどうしたんですか?」
「雑草なの?」
「はい。別に欲しかったら勝手に抜いていっても……」
その言葉にアンジェロの目がキラリと輝きを増した。
「早くも一つ解決か……で、残り二つだが、依頼人が側に住んでいるらしい」
「ほんとー?」
「ここで嘘をついて何になる?」
「ならないねー」
聞いた側から早速掘り進めるアンジェロにブレイトは依頼書片手に告げる。
「草を回収したら早速向かおう」
「はいなー」
「あ、チチさん! ちょうどいいところに」
そんな話をしていると女性が声を上げた。声に応じて後ろを振り向くと杖をつきつつも足腰がしっかりしてる老婆が農地に入ってきていた。
「エミちゃん、今日もお疲れ様。……そちらの方々は?」
「あ、我々こういうものでして」
ブレイトが依頼書をかざすとチチは杖を持っていない方の手で口を隠した。
「あらあら、うちのサーバルがご迷惑をかけて」
「あれ、サーちゃんどうかされたんですか?」
「ここ一週間家に帰ってきてないのよ」
「まぁ……」
トクタミ草を取ったアンジェロが女性三人の周りをぐるぐる歩き始める中、ブレイトは話の輪に入りにいった。
「最近サーバルの身におかしかった点はございましたか」
「いえ、いつも通りにご飯を食べてから屋根の上で昼寝してて……夕飯が出来たので呼びに行ったら……」
まるで我が子が失踪してしまったかのように心配するチチにブレイトは優しく微笑んだ。
「大丈夫です、サーバルちゃんの行方をちゃんと探してみせますから」
「本当かい? よろしくお願い申し上げますね」
「おばあちゃん、サーバルちゃんの大好物とかってわかる?」
「サーバルの? オタモトのソースをかけたお肉が大好きよ」
撒き餌に使うためだろう、とブレイトが安心している中、アンジェロは改めて食い散らかされた作物を一瞥して自信ありげに言った。
「わかった、今日中に全部解決させるよ!」




