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2.Cheerful rookie

 ちょうど受注したばかりの募集だったらしく、仲介所の職員はアルバート達が依頼を見せるとまだ建物内にいた依頼主の元に案内してくれた。


「はじめまして、アンジェロっていいますー」


 引き合わされたアルバート達に柔かな笑顔と独特なイントネーションで自己紹介をするのは、茶色い巻き毛と大きな目が特徴的な、少女よりも小柄な少年だった。

 アビレオの物ともアンテロープの物とも違う言語だったが、少女は全く気負うことなく相手の話してきた言語で返した。


「初めまして、私はブレイト。こちらは護衛のアルバート殿だ」

「よろしくねー」


 ニコニコ笑顔のアンジェロに手を取られて振られている少女(ブレイト)にアルバートは意外そうな顔を浮かべた。


「あんた、アンテロープ語はカタコトなのにエトワール語はちゃんと喋れるんだな」

「色々付き合いがあってな。母国(アビレオ)語とエトワール語ならちゃんと喋れる」

「へー、すごい! 二ヶ国語も話せるの?」

「アルバート殿には劣るがな。確かアルバート殿は主要国語は全部話せるのだろう?」

「どこで聞いたんだそんなん……。まぁ、多少はな」

「ひえー!」


 アンジェロにアビレオ語が通じていないのとブレイトがエトワール語で返事をしてきたため、アルバートが即座にエトワール語に切り替えるとアンジェロは大げさに驚いてみせた。

 互いの自己紹介が終わったのを見届けて職員は断りを入れてから三人から離れていった。


「でー、一体どんな依頼を受けてるのー?」


 アンジェロからの質問にブレイトが眼くばせするのを見てアルバートは考えるように少し宙に目線を漂わせてから口を開いた。


「基本、受けさせられた物は全部やるつもりだ」

「何でも屋さんなんだー」


 依頼には種類があり、獣を駆除する依頼ばかり受けている者は「ハンター」、要人や商隊の護衛ばかり受けている者は「用心棒」、物を探したり集めたりする者は「収集人」、壁や溝などの掃除を行う者には「清掃屋」といった感じで、受けている依頼があまりにも偏っていると渾名のような物がつくこともある。

 「何でも屋」もそんな渾名の一つで、実入りの多い少ない・依頼主の良し悪し関係なしに依頼を受ける者を指す物であった。

 ただ「○○屋」という渾名はバカにする目的で使う者が大半である。だが自分の仕事を端的に伝えられる良い渾名だと好んで使う者もいた。

 丸くて大きな目をキラキラと輝かせてアルバートを羨むように見つめているアンジェロは明らかに後者のようだった。


「特に問題はないようだな。では、契約の話といこうか」


 その様子を見て、ブレイトは鞄の中から紙を取り出した。


「期間だが、とりあえず明日から『リーダーである私が死ぬまで』となっている。だがどうしようもない事情で抜けざる負えない時には相談を必ずして欲しい。もし無かった場合は契約不履行として賠償金などを支払ってもらう可能性もある」


 アンジェロは一転して真剣な表情で手渡された紙を睨みつける。ブレイトも自分の前に同じ紙を置いて指差しながら話を続ける。


「受ける依頼だが、アルバート殿の言っていた通りこれといった指定はしていない。またそれによって得た報酬は参加した者内で分けてもらって構わない。やりたいことを好きにやってくれ、という形だ。ただ一つ条件があって……なるべく我々から離れないで欲しい」

「離れない?」

「有事時に連絡がつかないと大変なことになるからな。アンジェロ殿はまだまだ人間としても傭兵としても若い。なるべく我々もサポートがしたいんだ」


 自分の胸に手を当てて目を伏せるブレイトに顔を上げていたアンジェロは気を引き締めるように口を閉じた。


「何か気になる点は無いかな?」

「うーん、特にはないかなー」


 改めて紙面に目を通したアンジェロだったが、本当に書類に不備がなかったのか考えることを諦めたのかそう言って曖昧に笑った。

 その反応にブレイトは安心したように背もたれに体を預けた。


「ではその紙の一番下の所に拇印か名前を書いてもらえるか?」

「ほいきた」


 そう言ってアンジェロは自分の親指の腹を軽く噛み切ると、血が出てきたそれを一番下に引かれていた線の上に押し付けた。


「これでいい?」

「お、おう……」


 まさか血印を押されるとは思っていなかったのであろう、ブレイトはやや顔を引きつらせながら自分の名前を記した紙をアンジェロに渡した。

 親指を紙ナプキンで拭ったアンジェロはそれを受け取ると大事そうに抱きしめた。


「じゃあ今から依頼取り下げてくるねー!」


 そう言って意気揚々と受付へと向かっていったアンジェロの後ろ姿が人混みの中に消えていった所で、抑揚の無い声がかけられた


「……何で爆弾について話さなかった」

「話したところで彼に何が出来る」


 ブレイトは目を細めると立ったままの彼を見上げながら口元を両手で隠した。


「神を倒せそうな者などアルバート殿を含めてもそうはいない。しかし万が一アルバート殿達が神の前に敗れてしまったら、その場に取り残されてしまった無関係の人々はどうなる? そうなってしまった時に彼らを安全な所へ誘導する用の傭兵を私は準備しなければならない」

「……だからリッキーも誘ったのか?」

「ああ、リッキー殿を引き抜けば彼を慕う者たちも何人か一緒に引き抜けるだろうからな。アルバート殿を雇おうとしてる時点でアンテロープには喧嘩を売っているんだ、リッキー殿を一緒に引き抜いても大差はないだろう……」


 そこまで言った所で、ブレイトは何かに気づいて目を見開いた。


「そ、そうだ! そういえばアルバート殿に私の爆弾のことについてまだ」

「話は聞いた。とんでもない神様や貴族様もいたもんだな」

「ふぇ?」


 全く話した覚えのないことをあっさりと答えたアルバートにブレイトは間抜けな声を上げる。しかし話す必要が無さそうなことを理解するとやや動揺しつつも紙をしまい始めた。


「そ、そうか。ならいいんだ」

「……しかし、誰でも良いと言っておきながらとんでもない奴を引き当てたな。バレたら面倒くさいことになるぞ」


 どこか遠くを眺めてアルバートがつぶやく。そのつぶやきは元気な声によってかき消された。


「おまたせしましたー!」


 現れたアンジェロが身につけていたのは拳の威力を上げるための金属製のグローブ。それはピカピカで、まだ彼の経験が浅いことを物語っていた。


「早速だが、もう何か依頼は受けているか?」

「うにゃ、受けてないよー。仲間なる人に迷惑かけちゃいけないから」

「……別に受けてても良かったんだが」

「ならこれはどうだ」


 するとアンジェロの前にアルバートが紙を投げ置いた。

 近くの森にも生えている薬効がある植物の採取、逃げだした飼い猫の捜索、畑を荒らす害獣(正体不明)の駆除という、どれも全く別のベクトルを向いている物だった。


「いつの間に……」


 ブレイトが見終わって置かれた物に目を通しているとアンジェロは自分の胸を叩いて自信満々に言った。


「だいじょーぶ! 今日中に全部片付ければ合格なんだよね!」

「え、合格?」

「昨日先輩から聞いた! 最初に受けさせた依頼を解決出来たか出来なったかで本契約を結ぶかどうか決める、って!」


 そんなつもりはない、と反射的に言いそうになったが先ほどのアルバートの不服そうというか心配そうというか何とも言えない反応が脳裏をよぎり寸前で飲み込んだ。

 そして助けを求めてアルバートを見るが、アルバートは顔色一つ変えず話を聞いているだけ。


「アルバートさんも、ブレイトさんもついて来るの?」

「いや。これはお前の実力を見るためのテストだ」


 その上勘違いを深めそうなセリフを吐くばかりでブレイトは悲鳴をあげそうになった。

 するとアワアワと口を開いたら閉じたりしているブレイトを見かねてか、アルバートが目を閉じた。


「まぁ、やるとは思わないが……一応ズルしないようにこいつはついて行くだろうがな」

「りょーかい! よろしくね、ブレイトさん!」


 とうとう口の動きまで止まったブレイトの手をアンジェロは嬉しそうに掴んで上下に揺らした。

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