Prologue
その様を見ていた鎧姿の少女は呆然としていた。
「どう、して……」
男が大剣を引き抜くと少年は体から血を吹き出しながら力なくその場に崩れ落ちた。
少年は敵なんかではない、パーティを組んでいた味方だった。
男は味方だった少年を、後ろから何の前触れも無く突然刺し殺したのだ。
「いやー、相手が刃物を使う奴で助かりましたよ」
男は少年からすでに斃した獣に視線を移して言った。
かつての傭兵の死体を素体とし周りにあった魔力を吸収した結果と見られる、肥大化した手には筋力のある者にしか使えないであろう巨大な肉切り包丁のような刃物が死してもなおしっかりと握られていた。
「おかげで私が殺しただなんて一切思われない」
「なん、で……?」
少年は本当に真っ直ぐなやつだった。
貧民街の生まれで、子分達の食い扶持や学費を稼ぐためにこの業界に入って。
早く一端の傭兵になりたいからと、心優しい先輩の姿を見るとすぐに飛んでいって、先達の経験による知見を教えてもらったり手合わせをしてもらったりしていた。
向こう見ずで失敗も多いが、そこもひっくるめて彼は沢山の同業者やその関係者から好かれていた。
そんな一生懸命な彼が男に恨みを持たれるようなことをしていたとは、少女の知る限りでは無かった。
「なんで? それは、この方が活かせない才能が惜しくなったからですよ」
少女の声に男が大剣を肩に担ぎながら答える。
「神様は我々に等しく才能を下さる。しかしほとんどの者はその才能に気づけず活かせないままに死んでしまう。気づけてもその才能を最大限に発揮することなく死んでしまう。そんなの、神に対する冒涜ではないか」
まるで吟遊詩人のように空いている方の手を広げて熱弁する男は笑みを浮かべた。
「だから、私は回収したのです。この憐れな仔羊の才能を。彼に与えられてしまった才能をちゃんと活かしてあげるために」
「狂ってる……」
「狂っている。それはそうでしょう。間違った才能を与えてしまうような神に仕えているのですから。……あなたのような華奢な少女に戦いの才能を与えるなんて」
先の戦いで獣に脚の腱を切られてしまった彼女はゆっくりと近づいてくる男を涙目で睨みつけるしかない。
それが、今の彼女に出来る唯一の反抗だった。
「心配しなくともあなたの才能も無駄にはしませんから」
男が剣を振りかざした次の瞬間彼女の視界は地を転がった。
「神よ、あなたのお恵みに気づけなかった哀れな者にも、お恵みを開花する前にその道を断たれてしまった者にも、等しく祝福を下さいまし……」
男が胸の辺りで印を切り、微笑みながら手を合わせたところで少女の視界はぼやけて消えた。




