「どうせあなたは忘れてしまうけど」
すべてのカジュアルティーズに捧ぐ――
彼女に夏は来なかった。
木漏れ日柔らかな四月の午後、昼寝から僕が目覚めたとき彼女は既に死んでいた。ドアノブにロープをくくりつけて。
陽射しのような穏やかな表情だった。
梅雨が来て、夏になった。彼女はいなかった。誰もが彼女の喪失に慣れていく中、僕だけが世界から取り残されていた。
秋になっても喪失感は癒されることなく、むしろ肌を撫でる冷たい風に寂寥感が増したくらいだった。
冬になった。彼女について語られることはもはや無かった。僕だけが彼女を思い、クリスマスには一人でケーキにキャンドルを立て、ゆらめく炎に去年の彼女の姿を透かし見た。
雪が降った。記憶を底に覆い隠すように積もり、やがて溶け、
――そして再び春が来た。
僕は彼女の書いた「いしょ」を取り出し、読み直す。
「答えあわせをしに行くの」と彼女は書いていた。
ねえ、死んだらどうなるのかってふしぎに思わない?
ジゴクか天国、それか来世。
本当に死後ってあるのかなあ。
螢子はね、なんにも無いと思う。なにも無いの。ねたら朝おきるでしょう? 朝おきないのがきっと死ぬってことなんだよ。
もしね、螢子が死んで、ユーレイになったら、きっとお兄さんのとなりでニヤニヤしてると思うな。悲しそうにしているお兄さんを見て、おっかしー、螢子はここにいるのにって笑ってるの。
でもね、死ぬのはふしぎなことじゃ、ないんだよ。いつかは死ぬ。みんな死ぬの。だから螢子が死ぬのはみんなより少し早いってだけで、ふしぎなことじゃないの。
きっとお兄さんは、いつか螢子のことをわすれてしまうけど、出来るだけ長いあいだおぼえてくれていたらうれしいな。
螢子のことをわすれないでね。いつまでも。
ごめんなさい。ありがとう。さようなら。