1話 ビルドを始めよう
今、俺は流刑地に降り立たされたような絶望感に苛まれながら寒村を見渡していた。
ボロボロの掘っ立て小屋のような家と心なしそれよりも良い作りの教会と少し作りの粗い鍛冶屋そして酒場兼宿屋それ以外は荒れた地面が見えるだけだ。
自分の他に同じように呆気に取られている”異界人”を見ながら独りでに口から
「 負からの開始か・・・ 」
寒風が肌を刺す中ポツリと声が漏れてしまった。
2010年頃から活発になったVRの研究は各国で活発に研究され2030年頃には新たに開発されたダイブ型VRシステム「 Real 」が国際基準となり、それから8年後の2038年にはフルダイブ型VRシステム型筐体「 pupa 」が開発された。
そして現在2045年・・・
「 よっしゃーやっとキター!! 」
俺、道長昴は発売が決定してから価格が軽く軽自動車を新車で1台買える価格にも関わらず予約開始とともに30分で予約終了したデバイス型フルダイブVR筐体”ticket”をやっと手にすることが出来たのだ。
”ticket”全世界発売、初期生産10万台日本販売分だと1万台の狭き門をくぐり抜けて手に入れたのだその喜びもかなりのものだろう。
しかも今は予約開始からはや半年後のことである。
「 さてと基本のエーテル回線接続環境と個人IDの登録は済ませてと・・・ 」
エーテル回線・・・光回線が主流になった後2030年頃発見された新物質”エーテル”。この素材の発見によりネットはネクストステージに進んだ、光回線よりも大容量の双方向通信を可能にしてそれが元にフルダイブ型VRゲームも発展していった。
そしてこの”ticket”ではさらに驚くべき事を可能とした。
「 さて、それじゃあ世界中の仲間と冒険しますか 」
そう、”ticket”発売と同時にサービス開始になったフルダイブオンラインゲーム「 ビルドワールドオンライン 」は全世界と繋がりそして各接続国の言語に翻訳されると言う驚くべき事を実現しているのだ。
キャラメイクはすでに別のキャラメイカーソフトで済ませてある名前は「アキラ」黒髪・ブラウンアイの肉体年齢18歳程度のヒューマンだ。
ビルドワールドオンライン・(通称・BWO)では開始時は5つの種族しか無いヒューマン・エルフ・ドワーフ・ホビット・ビースティアンだ。
それぞれを簡単に説明するなら器用貧乏・魔法特化の紙装甲・鈍足の力持ち・器用な紙装甲・魔法適正無しの肉体馬鹿。
まあ、色々説明すると違うのだが大まかな説明はコレであっている。
そしてログインして
「 ようこそ、”この世界”へ 」
の声とともに冒頭に戻る。
周りのざわめきが落ち着いた所で金髪・グリーンアイのトガリ耳が村に響くほどの大きい声を出した。
「 私達はついている!!まさしく神の思し召しだ!! 」
その声に
「 何がついているんだ!! 」
「 どう見ても外れじゃねぇか!! 」
「 引っ込んでろ優男が!! 」
と外野から野次が飛ぶが注目を集めた優男は声高らかに演説を始めた。
「 諸君の意見も一理あるだろう、だが考えて欲しい。この荒れ果てて何もない村だからこそチャンスではないのか? 」
周りを見回しながら一呼吸置くと優男と呼ばれたエルフの青年は演説を続けた
「 普通の街から始まるとしてもその街に滞在は出来ても街の権力者へのコネクションや生産を目指す者に至っては自分の店を持つ事も大変だろう?それに生産した物も発展した街なら2足3文で買い叩かれるのが目に見えている 」
演説を聞いているドワーフを一人ひとり見ながら演説を続ける
「 だがこの村はどうだまともな建物一つ無い、村と言って良いのかもわからないような場所だ。いや、だからこそ見返りが多いのではないかな? 」
そこで大きく深呼吸をするとテンポを早めながら演説が続く
「 賛同してくれるものがいるのなら私は自分の知恵を使って可能な限りのサポートをしようだからお願いだ私に力を貸して頂きたい。村とともに私達自身も発展しようではないか!! 」
演説を聴き終わり”異界人”はシーンと静まり返ったが
「 で、俺は何をしたらいい? 」
その声を出したマッチョで無骨なビースティアンの声がきっかけになった。
「 わ・・・私も協力します 」
「 たしかに見返りは多そうだね話に乗ったよ 」
と次々と協力を申し出る者が増え俺を含め30人のグループが出来た。
どうするか渋りながら賛同しない者も多かった賛同した者の2倍以上の数はいそうだ。
そこで俺は優男エルフの一言に胸を打たれた
「 賛同してくれた者に感謝する。さあ、ビルドを始めよう 」
エルフの優男の意見に賛同したメンバーで行動を起こし始めた俺達だったがエルフの優男の手腕は実際どんなものなんだろうか?まあ、奴の意見通りに行動していけばそれが少しずつ分かるようになるのだろう・・・
次回 2話 「 動き出す人々 」