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第二章 音冥寺

 あと、二日で夏休み。およそ四十日間にも及ぶ大連休なんだが、その実は剣道の大会やら、ボランティア活動やら、合宿やら、夏季講習やらいろいろあって、意外と遊べなかったりするんだよなあ。

 それにしましてもですよ。今朝も我が親友、マユ様のご立派な裸体を拝ませていただきましたよ。田上が聞いたら脳幹破裂すること間違い無い光景です。俺にとっては他愛も無い日常風景なんですよ。

 おまけに今朝は、妹、鈴葉も入って来ましてね。世間的には十分エロい光景ですよ。うら若く美しい十四と十六の少女が全裸で目の前にいるのですよ。良心的なムスコのおかげで、あわや【変態】にならずに済んでいる私ですが、少しだけ邪な心が起きそうになりま、コホン。なりませんでした。。


 朝の食卓はといえば、昨日までは黄泉が爆盛ごはんを三杯を駆け込むように食って、なかなか賑やかでほのぼのとした朝の風景でした。それが昨日、突然に居なくなったのですけど、俺以外の家族は既に知っていたようで、別れも済ませてあったのですよ。わたしも別れをしたような記憶もかすかにあるのですが、どうもおぼろげなんですよ。そこに、鈴葉の帰郷ですよ。これはかなり突然だったそうです。本当は後、一年先だったのですが一週間前にあちらの本家から通知が来て、転入の手続きをやって、昨日、帰って来た訳です。


 父上、母上、爺上のはしゃぎようは、昨晩の歓迎会からハイテンションでしてね。わたしもついていけませんでした。末娘は一番カワイイでしょうから無理もありません。今朝も親バカモードが炸裂しまくってましてね。いつもの二倍のおかずの数ですよ。

 それとは真逆に末息子のわたしなんざあ、ペットほどにもかまってもらええないのです。出掛けに弁当がなかったので、母上に声をかけましたら「あんたもいるの?」でございましたよ。母上は、かなり面倒くさそうに台所へ行きまして、冷蔵庫にあった昨晩の余った飯をタッパから出しまして、電子レンジでチンもせずに硬いまま弁当箱に無造作に入れ、上から大雑把に梅干しと沢庵をドカ入れされて終わりでした。見た目はもはや残飯です。あの忙しくても丁寧に家事をされる母上が。

 一方、鈴葉の弁当はこの上なく、可愛らしく小さく盛られてましてね。姉貴が昨年、弁当の盛り付け選手権で金賞をとった盛り付けの再現ですよ。父上は、さっそく商品化を考え始めたようで、名前は【鈴葉】だそうですよ。


 鈴葉は久遠女子中学へ転入したようで、今日が初登校日なんですが、中学は裏だからと高校まで一緒に通学しております。まあ、裏とはいいますが、間に山林挟んでいるのですよ。彼女の走りなら間に合う距離だとは言いますが、商店街を通らずに行けば、家から二キロ弱なのにわざわざ反対側の高校まで来てから遠回りで行くとはいったい何を考えているのでしょうか我が妹は。


 下着もうっすら透けて見える白い夏服のセーラー服姿の彼女は目立ちすぎるほど可愛いわけでして、兄としてわたしも鼻高々でございます。

 商店街の方々も鈴葉のことはけっこう覚えていたようで、みなさん笑顔と大きな声をかけてくださいました。たぶん、彼女はご近所のあいさつ回りも兼ねて一緒にきているのかなとおもいました。

 そういえば黄泉の後任の話は聞けずじまいでした。隣の部屋の住人も今日は始発で出向き、久遠埋駅から直接学校に向うそうなのでまだ会えずじまいです。男にはさほど興味のない私ですが、一応、上司と聞いておりますので、やや緊張しておる次第です。


「鈴葉ちゃん、帰って来たの!」

 清涼感あふれる美しいこの女神のような御声は、マイスウィートハニー澪とラブリー霧子の声ではないか!

「あ、澪姉、霧姉!」

 高校の正門で、はしゃぎあう夏服の女学生たち。なんと美しい光景なのでしょうか。

「あ、鈴ちゃんだ」

 豪田や寿子も駆け寄って行きます。俺の知り合いで彼女を知らぬ者はいないとばかりに次々に人がたかって参ります。その中に、なぜかバカ1、3までも混じっておりました。

 あっという間に百人は優に越す人だかりが出来てしまいました。でも、流石は俺の妹です、引き際はちゃんとわきまえておりました。自分がこの場を去らないと事態が収集できなくなる事に気づいたのでしょう。

「それでは皆様、私も学校がありますのでこれにて、兄のことよろしくお願いします」と、投げキッスをすると、ちらりとめくり上がるスカートから白いパンツをのぞかせながら猛ダッシュで構内の端へ走り金網を登って、飛び降りたのです。めくれ上がるスカートの真ん中を手で抑えながら壁の向こうへ着地してました。

「ぐえー」という、うめき声も僅かにしたのですが、気のせいかもしれません。みんな聞こえてはいたようですが、どうでもいいと思ったようです。


 不思議なことに、鈴葉が去っても俺をとりまく人垣はそうそうに小さくなりませんでした。「鈴葉さんのお兄さん」と、見知らぬ男子生徒達に呼ばれ、握手を求められてしまってます。しかも、学年証を見ればその殆どが特別クラスの優等生です。

 澪や霧子に聞いた話では、特別クラスの卒業生でもある姉、愛女あやめはセレブどもの間でも有名なんだそうですが、その類まれな経営手腕から鋼鉄の女の異名もあり、恐れられる存在でもあるようです。とにかく、美しい才女ではありますが、うかつに近付けないトゲの多い薔薇女ということなんですね。ならば、その妹なら懐柔も容易ではないのかとでも考えているのでしょうかね。

 こういう計算高い人々を見ますと、単純に助べ心だけのバカマサとバカガミの方が可愛らしく見えてしまいます・・・・・・・・・・・・・・!


 いつの間にか、おしとやかになっている自分に気付いた。人間、阻害されるとこうも精気を失うのだなと実感した。こういうのにも淀みの変動はあるのだと黄泉は言っていた。

 そういえば鈴葉のは、シッカリ標準語で話してた。外面そとづらも使えるように成長していたとは、この兄よりも出来るではないか。



 午前中の授業も終わった。数学の小テストの出来は七十五点でまあまあだったな。文武両道をうたう学校だから、主要科目で二つ欠点取ると三ヶ月の部活停止だ。大会とか出てると部長がそうなった場合、いくさの途中で大将失うようなものだから迷惑はかけられんよ。普段はサボっても俺もやる時はやるからな。団体戦でも強いのは信頼関係がある結果だしな。

 俺は残飯のような弁当を駆け込むように平らげると、茶道部の部室がある中庭へと向かった。木の上なら目立つまいてと、俺は跳躍力をいかして、さっと木に登る。これも黄泉の修行の成果なのかもな。この木は一年の時から愛用してるんだが、以前は昇っている最中に落ちることもあったんだな。睡眠というのはたかだか数十分でも熟睡できれば、午後の活動力が格段に違うんだよ。世の偉人達は皆、昼寝を日課にしてたのは有名な話しさ。

 俺はすっと眠りに落ちることにした。




 眠る時間は体内時計がセットしてくれている。眠りから覚めようとしたとき、「あ、いたいた」と聞き馴染みのある声が下の方でした。萎えたムスコでさえもむくむく元気になる程の清涼感漂う澪の声である。澪は、地上三メートルの高所を難なく登って来ると俺が寝そべる枝の反対側に腰を下ろした。

「ねえ聞いた? 新任の上司の話」

「端末に通知は来てたけどな」

「じゃあ、細かく見てないんだね。詳細情報の見方はちょっと難しいから後で教えてあげるよ。簡単に言うと、その人、午後一の地学の授業で対面するよ」

「地学の教師なのか、また地味な学科だな。ええ、じゃあ落合はどうなんだよ。変わるなんて話し、そもそも俺ら聞いてなかったけど。紹介がある筈の全校集会も取りやめで見てねえしな」

「落合先生は、特別クラスの専任になったようね。それで神宮寺先生が普通クラスの専任な訳よ。それで神宮寺先生ね、出勤途中で事故にあったらしいよ。何でも通学途中の女子中学生と衝突したんだって」

「そりゃあ一大事だな。その女子中学生はどうなったんだ」

「その場にはいなかったけど、先生は軽い脳震盪起こして、失神してたのを探しに出ていた先生が見つけたらしいの。調度、校舎のネットの柵超えた反対側の道に倒れてたって。あそこって、駅からの近道だけど、女子中も共学の中学も駅側にあるし、こっちは民家も少ないのにあの道通る子がいたんだって思ったわ」

「どうしてぶつかったのが女子中学生だと分かったんだ」

「その先生が譫言でね『女子中学生が降ってきた』って言ってたんだって」

 あれ、なんか思い当たる節があるぞ、その話し。なんだったっけ? まあ、いいか。

「それで、その先生、病院に行かなくて大丈夫なのか?」

「ばかね、うちの学校の医務室はこの都の病院と直結して町の病院も兼ねてるじゃない」

「そうか、それでどうだって」

「命に別状無さそうだから、午後の授業に出るんだって、全く災難よね。あと一日で一学期も終わりという時期なのにね」

「全くだ、いったい何を急いでいるんだかだな」


 午後の授業で対面した母ちゃんの末の弟の辰巳叔父さんは、頭は髪の毛が多少もじゃもじゃで癖毛があって、インテリそうな眼鏡をかけ目鼻立ちのスッキリとしたイケメンだった。

 額には謎でも無い女子中学生(我が妹、鈴葉)の靴あとが痣としてついた場所を布当てをしていた。辰巳おじさんは兄貴と同い年だから、兄貴や姉貴とは親しいのではないかと思う。

 彼の前任者の落合は大学卒業してからずっとこの学校にいるその道二十五年のベテランだったが、若い時の写真もおっさんくさかったので、このギャプは相当なものだ。

 当然、女子どもは、辰巳おじさんが自己紹介をする前からキャーの黄色い声上をげまくりだった。

「今日からと言っても、一学期の授業は本日で最後ですが、普通科の皆さんの地学を担当することとなりました神宮寺辰巳じんぐうじ たつみです。よろしくお願いします」

 挨拶が終わるや否や。女子どもの声援は鳴り止まない。まあ、いろんなところで言われ続けて来て馴れているのだろうか、困った顔ひとつ見せない様子だ。だが、俺をすぐに認識したようで、鋭い視線を投げてきた。【殺気】ともとれる鋭いものだった。やっぱり只者ではないようだ。




 学校の後は、おふくろの味地下本部での新部隊編成の紹介と新任者の紹介が行われた。そこには黄泉も来ていたのだが、名札は佐々山沙希と書かれている。本名に戻っているということは黄泉の役を下りたということか。


 まずは、上司の紹介だったが、コードネームを知って愕然となった。

「わたしは神宮寺辰巳、コードネームは音冥零士おんみょう れいじと言います。組織表には載っているのでコードネームは目にする機会はあったと思いますが、こうして本名を語り、皆さんと対面するのは今日が始めてですね」

 なんだってーーー、こいつが音冥零士だって? 今まで俺が会っていたのは沙希の父親という話だったが。しまった、俺はきちんと調べていない。黄泉が言うままに信じていた。だが驚愕はそれだけに留まらなかった。

「わたくしは、佐々山沙希ささやま さき。階級は一佐です・・・・」

 黄泉と声は同じで背格好も似ているし、顔も似ているが、雰囲気が全然違う。全くの別人に思える。化粧がとかじゃない。しかも、俺を視界にとらえているのに、全く気にかけていない様子だ。それ以前に新任という挨拶だ。どうなっている。昨日までいた佐々山沙希は偽物だったのか。馬鹿な。だが、あの人が昨日まで我が家に居て、大盛り飯を喰らい、道場でシャワーを浴びていた人には見えない。しっかりとした、大人の女性だ。

 だが、澪や霧子、爺ちゃんは全く動揺していない。俺だけが動揺している。俺の記憶はまた書き換えられているのか、いったい誰が何のために。

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