エンドロール
「なにしてんだよ?」死神が立っていた。
私は包丁を握っていた。「……夕飯の支度だよ」
「お前、長くねぇぞ」と、死神が言った。
何が?と私が聞く前に、「人生のエンドロール、全然長くねぇぞ」と死神が続ける。
へー、人生にエンドロールがあるんだ。
「人生にもエンドロールはあるんだぞ」死神はまた、私が聞く前に答えた。
「見るか?」と、死神が始めて私に問いかけたので、
私は「見たい」と答えた。
「部屋を暗くしろ、そのほうが雰囲気出るぞ」
私は頷き、死神のいう通りにした。
ゆったりと穏やかなBGMが流れ始めた。
絶妙にダサいけど、私の人生らしくていいかもしれない。
「田舎のホームセンターみたい」私は呟く。「嫌いじゃないけど」
死神は「そうだろう、俺が選んだんだぞ」と偉そうに胸を張った。
しばらくして、エンドロールがスタートした。
両親の結婚から始まり、私の誕生、成長、日常なんかが買いつまんで説明されていた。
「あ、そうそう。間違いがあったら教えてくれよな 」死神が言った。
「俺、あんまり得意じゃないんだ」
「よくできてると思うよ」と、私は答えた。
続けて、私の学生時代の友人の名前が流れてきた。
「私、友達いないからさ…… 」と、呟く途中に友人についてのエンドロールが終わった。あまりの短さに言葉も出ない。
「サブリミナルかよ」死神が言った。
「サブリミナルかもしれないね」私は頷く。
そのくらい一瞬のことだった。
最後に、数年前に事故死した主人との思い出が流れた。
出逢いも、始めてのデートも、プロポーズも、結婚も、夫婦喧嘩も、
私は直視できなくて、いつのまにか俯いて涙を流していた。
「もう見たくないよ……」私はやっとの思いで呟いた。「あの人が死んだとこ、2回も見たくないよ……」
死神が、エンドロールを止めた。
泣きじゃくる私の背中を優しく擦って、微笑んでいる。
「あんたの旦那もさ、お前が死んだような顔するの、見たくないって」
ハッとして、私は死神を見た。
「夕飯の支度するやつの顔じゃなかったぞ」死神が続ける。「旦那にあんたのエンドロール見せられないの嫌だろ?」
私は何度も何度も強く頷いた。
「元気だせよ」死神がふよふよと宙に漂っている。「エンドロールにはまだ早すぎるだろ、サブリミナルじゃなくなるくらいもっと友達作れよ」
私は俯いた。「ありがとう」
「じゃあな」死神がベタな鎌を担いで、私に背を向けて消えた。
「友達かあ」
友人の名前のサブリミナルに、「死神」って書いてあった気がする。