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狼将軍と花

花と恋バナについて

作者: aaa_rabit

 うだる陽気が連日続き、心なしか庭の薔薇達も瑞々しさを無くしているようだ。久し振りに訪ねてきた友人2人と共に、人目がないのを理由に庭園内引かれた小川へとだらしなく足を着けながらお喋りに興じる。2人とは基礎学校ーー8歳から12歳までの子供が全員通わされるーーで出会い、卒業してそれぞれの道へ進みながらも交流は途切れることなく続いている。


 とはいえ、それなりに忙しい日々を送る彼女らだったから、手紙こそ頻繁に行き来していたものの、こうして直に会う機会は殆ど無い。午前中にやって来て昼食もしっかりいただき、日差しが一番強い時間帯が過ぎても未だ話題は尽きず、近況やら愚痴までここぞとばかりに姦しく喋る。三者三様に出し尽くした頃にはそろそろお茶の時間に届こうかというところだった。


「それで2人とも、」


 冷えたバラ茶で喉を潤したエナカが順繰りに2人の少女を見つつ右手の小指を立てる。


「こっちの方はどうなのさ」


 その仕草で面白いように少女らの態度は分かれた。反応を確認したエナカはしたり顔で何度か頷き、だらしなく机の上で両肘をつくと組んだ指に顎を乗せて聞く態勢になる。

「じゃあ、まずはリアンから教えてもらおっか?」


 ソバカスの浮いた顔がにんまりと笑む。右手の小指を立てるのは恋の意味。年頃の少女が集まれば恋バナが始まるのも世の道理だ。狼狽える態度で見事に心当たりがあると言ってしまったリアンが、最近気になる相手がいることを白状する。人魚を祖に持つリアンは軍学校へ進学しており、将来は海軍に入りたいと思っている、その為の必須教科の授業で気になる相手と知り合ったらしい。


「最初はお互い意見が食い違ってばっかりで、苦手だったの。でも、そのうち議論してるのが段々楽しくなってきちゃって、気付けば一緒に行動してる事も多くってね。それで、いつの間にか彼を目で追うようになってたの」

「分かるよ、その気持ち!あたしだってヴィルとはそんな感じだったもん」

「あの頃のエナカとヴィルウィート君はいつも喧嘩ばかりしてたものね」

「確かに。だから、2人が付き合い始めたって聞いた時もやっぱりって思った」

「あの頃はあいつのこと本気で気に入らなかったの!」

「あはは、照れない。照れない」


 いつの間にか立場の逆転している2人を見守りつつ、ふとアリアンジュはうんと年離れた恋人の事を思った。そういえば一度も喧嘩したことがないと。ひと段落した2人が次はアリアンジュの番だと注目する。


「そうね、お付き合いしている方は私よりもずっと大人で素敵な人よ。軍人なのだけれど、リアンなら知っている方かもしれないわね」

「へぇ、名前は?」

「グランティルド・プロウテン様、と仰るの。確か将軍だと言ってらしたわ」

「げっ!将軍っておじさんばっかじゃなかったっけ?まさかお家の……」

「あら、違うわよ。グランティルド様はまだ20代だもの」

「知ってる!その人ってあの狼将軍よね。3年前の北方戦線で活躍した英雄じゃない!」


 興奮したリアンの口からグランティルドの経歴がずらりと並べられ、自分の全く知らない過去に、次第に広がっていくわだかまりを飲み込みつつアリアンジュは聞き入った。語られる彼の姿は彼女の知る彼とは全然違い、とても同一人物とは思えない。


「はー、なんかすごい人だね。アリア、本当にこの人と付き合ってるの?」

「……アリアの前でこんなこと言いたくないけど、将軍って女性関係もすごい派手だって噂。アリアなら大丈夫だと思うけど、でもちょっと心配だよ」

「リアン、それってアリアが遊ばれてるってこと?」


 雲行きが怪しくなってきたことに眉根を寄せつつ、アリアンジュはそんなことないと否定する事も出来なかった。彼が魅力的な男性であるのは事実で、一回りも年齢が違う彼女をどうして選んでくれたのかは分からないのだ。想っていてくれるのは確かだが、その相手が複数いてもおかしな話ではない。彼は素敵な人だから。


「ありがとう2人共。でもね、私はそれでも構わないの」

「アリア!?」

「だってあの方、私の前では誠実な恋人でいてくれるのよ。それで充分だわ」


 鋭敏な嗅覚を持つ彼は、基本的に香りを好まない。けれども短い逢瀬の中で彼はいつも彼女の香りを纏っている。それだけ贈った彼女の花を大切にしてくれている証拠だ。


 恋に貪欲な少女達は納得しなかったが、それ以上言うこともなかった。またいつか会う約束をして、それぞれの帰路へ着く。友人らを手を振って見送っていたアリアンジュは、夕焼けに紛れていくのを確認してゆっくりと手を下ろした。


「……それでも、やっぱりグラン様には私だけを見ていて欲しいと思うのよ」



 恋を知ったばかりの小さな花は時に驚くほど大人で、それでもやっぱりまだ子供なのだ。

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