表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥探し  作者: やむつづる
プロローグ
1/30

プロローグ

城は壊滅状態となった。


城内には反乱軍が入り、王族側つまり現政権側の兵は統率を失い、方々で投降している。しかし王族側のトップであり指示者である王はまだ捕まっていなかった。


城を蹂躙する指揮を執りながらもルーイは単独で動き、王を探していた。実の弟である黒髪の王を討ち取らなければ、この戦いは終わらない。


城内の清楚で上品だった内装は見るかげもなくぶち壊され、煤けた残骸が方々に転がり散らばっている。ルーイは城内に数ある隠し小部屋を端から調べて回っていた。


「ボス!」


呼ばれて振り向くと仲間の男が追ってきたところだった。ルーイに追いつくや、彼は息を切らせて話し始めた。


「ボス、いました!こっちです!」


それを聞くや否やルーイは男と共に駆け出す。早く。早くヤツを。


着いたのは地下の食糧庫だった。厨房の奥から直接地下へと造られた食糧庫は、隠れるには最適だったのだろう。そこの隠し部屋にいたところを見つけたという。厨房にはおびただしい血と肉片が飛び散っており、ずくずくに崩れた死骸が転がっていた。生臭さが鼻をつく。


「よォルーイ!捕まえたぜ、王サマ!」


縛りあげた若い王に剣を突きつけている男が言った。怒鳴るように叫んで場所を示す。


「ジェイ……、代わる!」


ルーイは言って、姿を見つけてぞくぞくした。ついに、やっと追い詰めた。重臣に庇われ、こんなところに隠され、結果、敵前である自分の前に惨めな姿をさらすカイトを見下ろした。カイトは薬を飲まされていたのか、ぼんやりしているようだった。しかしルーイを見つけたカイトの目はみるみる内に光を取り戻した。


その顔に、ルーイは王である弟の首へ剣をつきつけた。拳銃では温い。直に傷つけたかった。


黒髪の王は薄汚れ、縛りあげられた姿ながらもルーイに視線をまっすぐ向けていた。ルーイは湿って張り付く髪をゆっくりとかきあげた。長い金色の髪が、きらきらと宙を舞う。


汗が冷やした背中を、ぞくぞくと興奮が這いまわる。深呼吸をしても逸る動悸はおさまらない。もう一度深く息を吸いこみ、ルーイは言った。


「……ユリアを返せ」


追い詰められたにも関わらず、カイトはそう問われた瞬間静かに笑んだ。表情が無かった顔にに薄く笑みを浮かべ、金髪の兄を見つめる。目を細め、口角をとがらせて笑うさまに、ルーイは眉をひそめた。


「ああ?何笑ってやがる!」


仲間の一人が凄み、カイトをさらに締め上げようとする。ジェイはそれを制し、ルーイを伺った。


遠くで勝ちどきが上がっているのが聞こえる。

ルーイは無言で弟を睨んでいたが、カイトは嫌な笑みを浮かべたまま話さない。


「返せ、はおかしかったな。おれが迎えに来たんだ。答えろ、ユリアはどこにいる」


ルーイは一度微笑んでから、剣の先を更にカイトにつきつけた。切っ先の触れる首から、小さく血が滲む。それでもカイトは笑っていた。ジェイが危ぶみ、ルーイに下がれと注意を促すが彼は頑として動かない。


「……言えよ。何の時間稼ぎだ」


床にへたりこんだままへらへらと笑う弟に凄む。ユリアのことが好きだったカイトに、彼女を殺せたとは思えない。


焦れる。


「 壊れた 」


呟くように吐き出された一言が、すぐには理解できなかった。


「あはは、ユリア、壊れちゃったんだよ、はは、壊れちゃった……!」


瓦礫の転がる城内に、カイトの笑い声が響く。思わずルーイじゃ力任せに殴った。それすら面白そうに、カイトは笑い続けている。ルーイは腸が煮え、その熱が身を焦がすような感覚に任せてカイトを殴った。ぐいと胸倉を掴む。

腫れ、切れた唇から血を流しながらもカイトは笑っていた。


血を流し、押さえ込まれているのにカイトの方が余裕があるように見えた。ルーイはカイトを殴り飛ばし、蹴りつけた。剣を放りだして、何度も、ところかまわず蹴り続けた。げぼ、とカイトが血反吐を吐き、身を折る。その体をルーイは無理やり引き起こした。


「もういい、居場所だけ吐けよ」


「場所……? この国とったなら自分で捜せよ。別に隠したりしてないさ」


げほ、とむせ、カイトは荒い息とともに血を吐いた。


「僕が彼女を拒否したから壊れたんだよ。おまえに抱かれた女なんか願い下げだってはっきり言ってやったんだ、あんまり聞き分けないから。指一本触れてやらなかったさ。治せるといいね」


もう笑っておらず、息をきらしたカイトは早口に吐き捨てた。ルーイも息を切らし、頭に血が上っていた。カイトから一度離れ、ルーイは息を整える。


薄暗い食料庫の中は血と汗の匂いが満ち、お互いの荒い息づかいがこもる。ルーイはさっき見つけたカイトの妻のことを口にした。


「ああ、おまえの女、死んだぞ」


「……自害だろ」


いちいち返答が癪に障る。悔しがらせたい。泣いて命乞いをするほど痛めつけてやりたい。


「違うよ、ヤり殺したんだよ! みんなでまわしてさ!」


ふん、とカイトは気にも止めない風に鼻を鳴らした。ルーイの言うことを全く信じていないのだろう。カイトは、床に倒れこんでいた身体を自力で起こし、座り直してルーイに向かう。まぶたも唇も切れ、腫れて血で汚れていた。


二人以外誰も口を開かない。


「おまえの勝ちだよ、殺せよ」


カイトが言う。


「おまえの思うとおりの世界を創ればいい。金髪を嫌ったのは、この国のみんなだ。僕だけじゃない。でももういい、僕は疲れた。おまえと同じ世界で生きるのはもう嫌だ」


追いつめたはずなのに、追いつめた気がしない。優位に立った気がしない。どうしようもない焦燥感にルーイは頭を抱えた。投げ捨てた剣を取ると、ルーイは無言でカイトに切っ先を突きつけた。カイトは傷だらけの身をぐっと伸ばし、ルーイに首を晒した。この期に及んで尊厳のある振る舞いが、ルーイを焦がす。


「おめでと、新国王。国を治めなよ。


できるならね」


目の前が真っ暗だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ