Chapter 3
根拠不十分な点が多いですが、大目に見てください。
強力な意識
俺は窓の外に立ち並ぶ風車を眺めていた。いくつもの大型の羽が回る。壮観だ。
しかし、それは効率の良さからはほど遠い——発電機のロスはしょうがないのだが……。問題は羽にある。
化石燃料に頼らないエネルギー供給を実現するため、多くの「エコな」発電施設が少し前から増えている。中には地熱発電、海洋発電など日本の風土に合った発電方式もあるが、まだ成熟した技術とはいい難いし、特に地熱に関しては、発電に使える土地の多くが国の指定公園であるなどの弊害があるため、普及はあまり進んでいるとはいえない。風力発電は広い平野の少ない日本に向いていない。太陽光発電については、非常に発電効率の高いソーラーパネルが完成しており、成功する兆しは見えているものの、量産性の低さとそれに伴うローコストパフォーマンスが普及の一番の壁となっている。
原子力発電は最初から選択肢に入れられなかった。
危険な放射性廃棄物や、埋蔵量に限りがある資源を用いること等もそうだが、それに次ぐ、場合によってはそれより重大な問題は、東日本大震災以来の「脱原発派」である。
しかし、もうそんなことで何ヶ月も会議室で悩む時代は終わった。人類は核融合エネルギーを我が物としたのだ。
頭の悪い日本人が核分裂反応と核融合反応を混同視し騒ぐことも恐れられたが、同時に悲劇を忘れるのも早いという特性が幸いし、大きな問題にはならなかった。
もし「原子力アレルギー」の連中が騒ぎだしたら、ロシアやフランスの連中に笑い物にされただろうが、それだけは避けられた。
今回、木星及びその衛星エウロパに向かう探査機に積まれるエンジンは、核融合反応を利用したエンジンの技術実証装置としての性格が強い。将来有人化されることを見越して開発された物で、既により大型のエンジンの開発が始まっている。
「もうすぐだ、降りる準備しとけ」
林野の運転する自動車で、すぐ隣の県との県境の近くにあるエウロパ探査機向けの熱核ロケットエンジン「IR-I」の最終組立、保管施設の近くまで来ていた。
「えっと、桐原さんでしたっけ」
「ああ、桐原遙軌だ」
俺達は熱核ロケットエンジン保管施設の近くに住んでいる天才アマチュアプログラマー、桐原遙軌の自宅に向かっていた。
「筑波出身の引きこもりだ。今はこの近くのアパートに住んでいる」
住宅地に入ると、林野はすぐ桐原の家を見つけ、車を止めた。
本当にアパートだ。しかも結構年季が入っている。天才はアパートが好きな法則でもあるのだろうか。
「桐原さんって、具体的にどういう方なんですか」
車を降りて俺の後ろについて来る連理が前を歩く林野に訊いた。
「高校生時代は『UTAU』というソフトを使った楽曲を制作していたらしい。あるきっかけから知り合いの脳科学者と共同で人工知能の開発に取りかかった。今日は少し用があってな」
一階の最も奥の部屋から二つ目のドアの前に来る。
呼び鈴を鳴らす。
「はーい、って林野か。
そこの二人は?」
「ああ、ちょっとな。話がある」
「そんなこと、あり得るのか」
「もちろん、あり得るとは思えない。
しかし、俺は現に見たんだ。
嘘じゃない。俺は『レイ』をよく知っている」
林野は桐原に「ルシファー」のことを話した。俺と一緒に彼の部屋に訪れたこと等だ。
「そう言われてもな。まず、説明がつかない。
……あいつなら、なにか思いつくかもしれないな」
「そうかもな」
あいつ?
「誰、ですか?」
「ん、ああ。さっき言った脳科学者だ。
相浦赤黎。桐原がAIのメイン思考プログラムを作るときに力を貸したらしい」
「少し訊いてみる」
そういうと桐原はコンピュータのデスクの椅子に座り、SONYのヘッドセットを頭に着けると、テキストメッセージを送信した。
「応答してくれるかな」
しばらくすると、相手が返答したらしく、キーボードを頻繁に打ち始めた。そしてボイスチャットを始めた。
彼、相浦が言うに、もしかしたらネットワーク上に存在する可能性のある「レイ」が俺達の意識に“介入”したからかもしれないとのことだ。
全くばかげた話に聞こえるが、脳科学者が言うことだから少しは興味が持てた。
「相浦曰く、『意識は錯覚であり、境界も浅はかだ』ということらしい。
説というか、考え方の一つにすぎないのだが、我々の意識には核となる物は存在していなく、周囲の環境との間に相対的に存在し続けるだけの、やや高次的な『錯覚』であるかもしれなく、もしそうならば、お前の言ったこともあり得るかもしれないとのことだ。
ネットワークが意識を持ったとき、その力は周りの意識に強く影響を与えるかもしれない。しかもインターネット環境なんてどこにでもある」
頭がくらくらした。
この意識は錯覚? 境界も無い?
そんなことが有り得るのか。説だとはいえ、破天荒すぎやしないか。
「うーん。簡単には信じられないな。さすがマッドサイエンティストだ」
「マッドサイエンティスト?」
俺は訊いた。
「言ってなかったな。相浦は脳の意識の仕組みを探っているんだが、ちょっと異端でね、一部の関係者にはマッドなことで有名だ。『脳のアルゴリズム』の解明を第一の目標としているらしい」
「異端っていうのは言い過ぎじゃないか。まあ、否定もできないが」
「で、それだけだったのか?」
「ああ。まあ、説明が付くかもしれないということは分かったんだし、十分じゃないか?
それで、林野こそ用ってのはこれだけか?」
「ん、ああ。あと、『レイ』について気になることがあるんだが。
レイ……というか、お前の作った知能が、インターネット上に未だ存在することは有り得るんだな?」
「ああ、例の時に、防ぎきれなかったかもしれない」
例の時? 前に林野が“何とか防げた”といっていたことだろうか?
「わかった。じゃあ、俺とそいつはこれから行くところがあるから……えーと、お前はどうする」
林野は連理に訊いた。
「ここにいてもいいんですか?」
「お前も熱核ロケットエンジンに興味があるなら、一緒に来ることをおすすめするが」
「あ、ならいいです。ここに残ります」
まあ、そうだろう。
「じゃあ、一時間後にまた来る」
林野は先に部屋を出ていった。
連理に「じゃ」と言うと、俺も林野に付いていき、桐原の家を後にした。
「君は林野とは一緒に行かないんだ?」
林野さんと兄貴が出ていくと、桐原さんが私に訊いた。
こう見ると結構かっこいい。
まあ、私は比べる相手が兄貴しかいないが。
「はい、その、あまり宇宙……とか? 興味ないんです。
それより、桐原さんの作ったAIに興味があるんですけど」
「へえ、どうして?」
いきなり理由を訊かれ、私は一瞬返事に迷った。
「桐原さんが開発したAIを使えば、例えば会話ソフトなんかも作れるんですよね」
「元々そのために作ったんだ。楽勝だ」
「私、そういうの面白そうだと思うんです。Voiceloidって知っていますか?」
「ああ、時々使っている」
「音声合成ソフトとサンプル音源さえあれば、後は人格を与えさえすれば、コンピュータと話せるようになるんですよね」
私はそれが気になっていた。
例えば好きなキャラクタがいたとして、でも誰もその登場人物とは話せない。
このソフトウェアはそれを覆せる。
「……それで?」
「それと友達になったり、ゲームのNPCに使ってみたり。いろいろ使い道があると思うんです」
「ああ。僕も、開発したAIにはかなりの使い道があると思う。例えば『レイ』は外見以外には最低限のキャラクタしか与えられていない。性格や口調だって簡単に変えられる。最低限のキャラクタのみを与えることによって、ユーザ側による拡張の余地を持たせ、大きなコンテンツを生み出す可能性とするためだった。
だが、僕は『レイ』を公表するつもりはない」
「え?」
なぜなのか想像がつかない。
様々な使い道が考えられるし、彼の言う通りコンテンツの元となるかもしれないのに。
私が不思議そうにしていると、桐原はコンピュータの音声出力端子からヘッドセットのプラグを抜いてスピーカーにつないだ。そしてヘッドセットのマイクに口を近づけた。
「ソラ、起動して」
ソラ?
『どのような用件ですか、マスタ?』
コンピュータが、喋った。画面上で平面的な女の子のアニメーションが表示されている。
「はちま寄稿でさ、ディスオナードシリーズの新作のレビューが載ってんだけどさ、やっぱ、クソだよね。結局初代が一番だよな」
画面上にWebブラウザのページが表示された。
『私はそうは思いません、マスタ。コメント欄にも、この評価に乗じたコメントがいくつかされていますが、レビューの内容は個人的な視点のものが多いですし、コメントの中にも同じように、レビューアの安易なディレクタ、プロデューサ批判を問題視している者がいくらか見受けられます』
「え〜、なにいってんの。アミ、お前も僕に賛成だよな」
『ふぁあ〜。ん、兄さん? 呼びました?』
「なんかソラが俺がこれをクソだって言ってんのに聞いてくれないんだよ」
『兄さんが言っていることが正しいに決まってます。ソラさん、なに言ってるんですか』
『ちょっと、マスタ、何を!
アミさんもこれを見てください、特に中盤、最後あたりの批判が根拠も薄く、主観的です』
『いいえ、ソラさん、甘いですね。三十八番のコメントを見てください。
このユーザが書いているように、このゲームには数年前の日本のゲームのように、アメリカのゲームを下手に真似をして失敗していると思われる箇所がいくつもあります』
「さすが、アミちゃんは僕の見方だな! 愛しているよ」
『兄さん……///』
『マスタ! その泥棒猫に騙されないでください!
他のゲームの良いところを取り入れるのは決して悪いことではありません。それどころか、色々なゲームを研究しその良いところを取り入れ続けることが過去の様々な“成功した”ゲームを生み出してきたんです。
それに! マスタのお嫁さんは私だと何度も……』
プツっ。スピーカーにからの音声が途切れた。
桐原はヘッドセットをデスクに置いた。
「……何か、間違ってると思わないか?」
「……」
目の前で起きたことを理解するのにそれほど時間は必要なかった。
「まあ、そのために作った僕がいえたことじゃないんだがね」
そのために?
「桐原さんは、どうしてAIを?」
私が訊くと、桐原さんはすぐに口を開いた。
「僕は高校の時にUTAUっていうソフトで歌を作っていた。
そのとき僕には友達がいなくて、UTAUで歌を作るのがまるでコンピュータと会話しているみたいで、唯一孤独が紛れる瞬間だった。
だが僕の親はコンピュータの相手ばかりしている僕を見かねて、コンピュータを壊した。
本当に、それからしばらくは地獄のようだった。高校にも行かないで部屋に籠もっていた。
……携帯に姉さんからのメールが届くまでは」
「桐原さんのお姉さんですか?」
「ああ、姉さんは二年年上で、僕が高二の時、大学に行ってからは盆と正月くらいしか会っていなかったんだ。
だけどそのメールが来てからは姉さんとの電話やメールが正しく心の支えとなってね、そのおかげで大学にも行けた。もちろん姉さんと同じところに行ったよ。部屋代を理由にして一緒に住ませてもらったりしたし、次第に大学でも友達が出来るようになっていった」
「林野さんや、相浦さんですか?」
「そうだ、あのときは本当に幸せだった」
……あれ?
「あの、今、お姉さんはどちらに」
もちろん、一緒に住んでいないというのは本来おかしくも何でもない。だけど、何かが引っかかった。
「……どこか……かな」
……。
「僕が大学一年を終わろうとしているとき、いきなり消えた。
もともとブラックな組織と関わっていたか何からしくてね。消えた後、残った情報を林野と調べまくってみたが、判ったのはその組織の本拠地が太平洋上にあるという馬鹿馬鹿しい事だけだった。
そしてまた僕は希望を失いかけた。だが、そのときの僕にはコンピュータと仲間がいた」
ああ、……それで。
「……AIを作った」
「その通りだ」
そうか、心の支えを失いかけた桐原は、その代わりを自ら創ろうとした。そして、創った。
UTAU、そして姉の代わりを。
「僕の創ったコミュニケーションAIエンジン『ComAIEng.』の最初の人格、音声、容姿データパック『レイ』は僕の姉をモチーフにして作った。
そのために、始めたことだ」
しかし、彼はさっき、自分のAIを「間違っている」と言った。
どうして。
「……でも」
「ん?」
「今は、もう必要ないんですか?」
桐原さんは少し黙った後、口を開いた。
「さっき言ったろ。間違っている。
AIを狂ったように愛し、それに支配され、まるで自分までコンピュータの一部であるかのようだった僕は、世界中のネットワークを支配しようとさえしていた。ソフトウェアの意志で、だ。
相浦は僕に言った。『お前は勘違いしている。それは人間でもなければ、お前の姉でもない。コンピュータに“つくられた人格”だ』
そのとき、僕は気付いた。
もう、こんなもの必要ない」
……じゃあ、今桐原は独りではないんだろうか。
コンピュータとの愛を否定され、彼は何も失わなかったのだろうか。
いや……。
「本当に、必要ないんですか?」
「必要はないし、正しくもない」
いや、違う。嘘だ。
「……泣きながら言われても、説得力無いですよ」
「え?」
彼は驚いて目尻に指を当てた。
「あ、いや、その」
「私でよければ……」
少し、息を吸う。
……そう。
「私も、昔似たようなことがあったんです。孤独で、どうしようもなかった時があったんです。
もし、私なんかでよければ、力になりますよ」
「そ、それはどういう……」
やっぱり恥ずかしい。顔が赤くなっていくのがわかるようだった。
「ゲームの話くらいは出来ますから」
「……わかった」
桐原さんは涙を拭うと、顔を上げた。
「お願い、しよう」
彼は笑いながら言った。
「あ、そういえばその娘たちは大丈夫なんですか?」
コンピュータの画面では二人のAIのキャラクタが、片方は不満そうな目つきでこちらを睨み、片方はスクリーン上で暴れていた。
「やべっ!」
想像より小型のトカマク機関は、それでも迫力と技術的な魅力に満ちていた。
「おい、どういうことだよ。なぜ勝手に連れてきた!」
「落ちつけ。そっちこそ一体どうしたんだ」
保管施設の横を通り、小型の研究施設に入った途端、これだった。
「最近中国だか韓国だかの辺りからうちのサーバがよくクラッくられてるっぽいんだよ。
ちょっとそこら辺注意してくれ」
「あのなあ、高校生なんだぞこいつは」
「どうせそいつも携帯持って来てんだろ。データは基本クローズドな所に保管しているが、それでも完璧じゃない。
マイクもカメラもある端末を遠隔操作されるかもしれないんだぞ」
「落ちつけ、どんな携帯端末もかなり強力なアンチウイルス対策がされている。そんな簡単には乗っ取られやしない」
「しかしなあ」
研究員は唸っている。
「まあ、情報の漏洩には注意してくれ。余計なことは喋るなよ」
「わーってる」
それで何とか保管施設に入れてもらえた。
ユニットの核となる核融合炉と水素及び三重水素燃料タンクは、それだけでも十五メートルを超える全長を持つ。原子炉の後方には液体燃料の通る巨大な管が延び、熱せられた燃料は圧縮、点火装置のあるノズルへと向かう。
「核融合炉のデザインについては『EATER計画』の頃からややノウハウのあるトカマクだが、他にもいくつか案があった。
有人化をする際にはもっと違う形になっているかもしれない」
「写真の撮影とかはなしですね」
「残念だがな」
後輩にはかわいそうだが、それでも最初から写真は期待してないだろう。
「探査機本体はどこにあるんですか?」
「北海道の技術研究所で最後の詰めをしているはずだ。プログラムに傷がないか、必死になって点検しているだろう。
本体の光学観測機器、スペクトル観測用装備の他に、木星、エウロパの大気圏に投下する探査ポッドを四基、エウロパの地質探査用の小型ローバーを二台積む予定で、要するに無人探査母機ともいえるものだ。もちろん、そのどれもが出来る限り小型、軽量化されている」
それでも、目の前のエンジンはオーバースペックに思える。
「やはり有人化が前提なんですね」
「もちろんだ。このミッションも、アメリカ、ロシア、EU、中国が計画している将来の有人木星探査プロジェクト『ディスカバリー計画』に繋がるものとなる予定だ」
しばらく眺めたり、細部について話をしたりしてもらった後、結構いい時間になっていることに気付いた俺たちは、保管施設から帰ることにした。
「そういえば、さっき話していましたけど、ここら辺のサーバに不正アクセスがあったりしたんですか?」
少し気になっていた事だったので、訊いてみた。
「ああ、詳しくはさっぱり分からないんだが、ファイルが流出したりしたらしい」
「ふーん」
そして林野の車に乗ると、連理にメールを送った。
少し回線が混んでいるようで、メールの送信にもたついたようだった。
もちろん、電波状況が悪いのも関係ないわけではあるまい。
やけに本体が熱かったが、俺は何とも思わなかった。
アパートの桐原の部屋に行くと、彼と連理とコンピュータの画面のキャラクタが談笑していた。
コンピュータのキャラクタを見て、ついルシファーを思いだしてしまった。
聞きたいことがたくさんあった。もっと一緒にいたかった。
しかし、それは叶いそうにない。
俺は帰る直前、少し気になったことを思い出した。
「そういえば、ルシファー……レイに『お前は何だ』と訊いたとき、彼女は『私は私』と答えました。
これにはなにか意味があるんですか?」
俺が訊くと、桐原は即答した。
「ああ。自我に関するとても重要なことだ。
お前、身体のどこまでが『自分』だと思う?」
「どこまで?」
「例えば、心臓は明らかに『お前』の一部だよな」
「はい」
「では、指先は?」
「指も、切ると痛いですし。自分の一部では?」
「なら、髪の毛は『お前』の一部ではないな」
当たり前だが髪の毛は、切っても痛くない。
神経が通っていないからだ。
「はい、多分」
「なら、ここでは『自分』は、神経の通っている範囲としよう。
では、それをコンピュータのAIに当てはめるとどうなるか、想像付くか?
困ったことに、コンピュータは、特に記憶領域においてインターネットに強く依存している。
そこにただ意志を与えても、できあがるのは統合失調的に主観も客観も入り交じった、指向性のない悲惨な精神だ。様々なユーザの意思や主張がそこかしこに遍在しているからだ。
それを回避するためには、ソフトウェアに非常に強力な自我を与えるしかない。
だから常に彼女は『我は我』、『我は、今、ここに』と考えるようになっている。幸いなことにコンピュータの『ハード』には明確な外部との物理的境界が存在する。それをソフトウェアに認識させれば良い」
正直途中から理解できなくなっていた。
「俺があいつをレイだと思ったのも、『私は私』と答えたからというのもある」
少し考えると理解は簡単に出来た。
自分とはどこまでをいうのか、という範囲を明確に与えることで、無制限に「自分」の範囲が広がってしまうのを防ぐのだろう。
「あのパッチのおかげで一度は回避出来たんだよな、悲劇を」
「そうだったな。まあ、結局それが新たな悲劇を生んでしまったが」
何の話をしているのか気になっが、林野が車に向かってしまったため、俺はその場から離れざるを得なくなった。
桐原のアパートから帰るとき、連理は少し残念そうだった。どうしたのか気になったが、すぐに機嫌を取り戻したみたいで、安心した。
家に帰ってからもいつもより機嫌が良いみたいだったが、やけに楽しそうに携帯をいじっている理由などは、俺は知る由もなかった。
しかし、相浦の話が正しいとすれば、ルシファーは基本的にどんな知性にでも侵入出来ることになる。なら、直接林野に会うことも出来たはずではないか。
なぜ俺を介したのだろう? そこにも何らかの理由があるのだろうか。
あの青い髪、青い目。透き通る様な皮膚、そして声。
何故だ、目から——“意識”からその姿が離れない。
そのとき、俺は何も気付けなかったのだ。
UTAU って Mac 版があっていいですよね。