Overture
その星は氷に閉ざされていた。
光ることない運命のその母星とともに、その星の無限ともいえる可能性も氷から解き放たれることはなかった。
真空の寒さの残る希薄な大気は、可能性を外の世界へ導くのには不十分で、氷原を見渡す術を彼らに与えるものは未だになかった。
星がもっと大きかったら厚い大気を得たかもしれない。彼方の恒星にもっと近づけたら氷は溶け、光とその熱は星の可能性に大きな力を授けただろう。そしてその母星が天に輝くのなら、その星には知性が宿り、未来は彼らのものとなったはずなのだ。
母星に近く、また早い公転周期によって、強い潮汐力を受けているのが救いだった。表面の氷の下には熱でシャーベット状になった水が広がっており、温度の高い所では完全な液体となっている。百キロメートル以上深い海底には鉱物質を噴きだす海底火山がところどころにみられ、その周辺は有機物に溢れるオアシスとなった。
多くの生命が誕生し、進化が続いた。点在する熱水噴出孔から離れ、寒い世界に飛び出す頑丈な種や、氷の薄い辺りでは光合成を行える種も生まれ、中には単純な知性を持つものも現れた。
それでも、彼らは氷の外へ行くことはできなかったのだ。
酸素からなるとても薄い大気は凍てつくように寒いとともに、その気圧は氷の表面の至る所にある亀裂からみえる水を一瞬にして揮発させるほどに低いのだった。
彼らの星には、救いの手が必要だったのだ。