第1話 五年前に消えた少女
ミステリーもの書きたくなったのて書いてみました!
楽しんでもらえると幸いです。ブクマや感想を教えてくれると喜びます(?)
人は、死んだ人間を忘れる。
それは悪いことじゃない。
生きていくためには、いつか思い出を過去にしなければならない。
だから俺は、五年前に死んだ彼女のことを忘れられない自分が、少しだけおかしいのだと思っていた。
――白石玲奈。
五年前。
俺の目の前から消えた少女。
死体は見つかっていない。
墓もない。
だから正確には、彼女が死んだのかどうかすら誰にも分からない。
それでも世間では、彼女は「死亡扱い」になっている。
理由は簡単だった。
あの日。
街の中心にある旧研究施設が爆発した。
施設の中にいた人間は、ほとんど助からなかった。
玲奈も、その一人だった。
――俺以外は。
「……また来たのか」
夜の廃ビル。
俺は懐中電灯を照らしながら、瓦礫の間を歩いていた。
ここは五年前の事故現場。
今では立入禁止になっている。
それでも俺は、何度もここへ来ている。
理由は一つ。
俺には、普通の人間にはない妙な力があるからだ。
物に触れる。
すると。
そこに残った「感情」が、頭の中へ流れ込んでくる。
恐怖。
怒り。
悲しみ。
喜び。
強い感情ほど鮮明に残っている。
ただし、見えるのは映像ではない。
誰が何をしたのかも分からない。
ただ、その場に残された感情だけ。
だから事件解決には、あまり役に立たない。
少なくとも五年前までは、そう思っていた。
「……ここだ」
瓦礫の下から、古い金属製のプレートが見える。
俺は手袋を外した。
そして触れる。
瞬間。
「――っ!」
頭の中に、感情が流れ込んできた。
恐怖。
強烈な恐怖。
誰かが逃げている。
何かから。
そして――
『湊!』
「……玲奈?」
聞こえた。
声ではない。
感情に混ざった、記憶の断片。
俺は慌てて手を離した。
「……今の」
玲奈。
間違いない。
五年前。
事故が起きる直前。
彼女はここにいた。
俺はポケットから古いメモ帳を取り出した。
そこには五年間書き続けてきた記録がある。
『事故発生 18:42』
『施設爆発 18:47』
『消防到着 18:53』
『俺が発見された時間 19:06』
そして。
『玲奈の行方不明 18:41』
ここだけがおかしい。
玲奈は爆発より前に消えている。
なら。
彼女は事故に巻き込まれたわけではない。
「……誰かに連れ出された?」
そのときだった。
背後で足音がした。
俺は振り返る。
「誰だ?」
返事はない。
もう一度。
「誰だ!」
暗闇から、人影が現れた。
黒いパーカー。
顔は見えない。
「こんな場所で何をしている」
「それはこっちの台詞だ」
「五年前の事故を調べているのか」
「……だったら?」
男は黙った。
そして。
「もうやめろ」
「嫌だね」
「忠告だ」
「五年前にも同じことを言われた」
男の動きが止まった。
「……何?」
「俺がここを調べていると、いつも誰かが邪魔をする」
俺は一歩近づく。
「お前も同じ連中か?」
「……」
「玲奈について知ってるのか?」
男は答えなかった。
代わりにポケットから何かを取り出した。
小さな金属片。
それをこちらへ投げる。
俺は受け取った。
「それは――」
「五年前、お前が持っていたものだ」
「……俺が?」
金属片に触れる。
能力が発動した。
――恐怖。
――焦り。
――そして。
ひどく強い感情。
悲しみ。
誰かを失った悲しみ。
頭の中に、たった一つの言葉が浮かぶ。
『約束したのに』
「……何だ、これ」
顔を上げる。
男はもういなかった。
「待て!」
追いかけようとする。
だが。
足が止まった。
視界の端に。
誰かが立っていたからだ。
少女。
長い髪。
白い服。
五年前と変わらない姿。
「……玲奈?」
少女はこちらを見る。
けれど。
何も言わない。
俺が一歩近づく。
すると。
消えた。
「……」
幻覚か。
そう思った。
でも。
足元に何か落ちている。
拾い上げる。
古い髪飾り。
俺が五年前に玲奈へ渡したもの。
「なんで……」
五年前。
事故の前日。
俺は玲奈にこれを渡した。
『これ、あげる』
『何これ?』
『髪飾り』
『見れば分かるよ』
『……可愛い』
『だろ?』
そんな、くだらない会話だった。
でも。
玲奈は最後までそれを身につけていた。
事故の日も。
「……なんで今ここにあるんだよ」
髪飾りに触れる。
その瞬間。
今までとは比べものにならない感情が押し寄せてきた。
恐怖。
怒り。
悲しみ。
そして――
強烈な「生きたい」という感情。
「――っ!」
俺はその場に膝をついた。
頭が痛い。
呼吸が苦しい。
何が起きている。
こんな感情、今まで感じたことがない。
そして。
一瞬だけ。
映像が見えた。
能力で見えるのは感情だけ。
それなのに。
今回は違った。
暗い部屋。
椅子。
目の前に立つ誰か。
そして。
玲奈。
彼女は泣いていた。
でも。
死んでいない。
俺は息を呑んだ。
「……生きてる?」
映像が消える。
俺は髪飾りを強く握った。
「玲奈……」
五年間。
俺は彼女が死んだと思っていた。
でも違う。
少なくとも。
あの事故の時点では。
玲奈は生きていた。
そして俺は。
何か大切なことを忘れている。
五年前。
事故の直後。
俺には三時間の記憶がない。
18時から21時。
その時間だけ、完全に抜け落ちている。
医者は事故によるショックだと言った。
警察もそう判断した。
でも。
俺は今になって気づいた。
違う。
俺は記憶を失ったんじゃない。
――誰かに消された。
そして。
その記憶を消す必要があった理由がある。
「……玲奈は生きている」
口にすると、現実味が増した。
なら。
探すしかない。
五年間探して見つからなかった。
それでも。
今なら手掛かりがある。
髪飾り。
金属片。
謎の男。
そして五年前に消えた三時間。
俺はメモ帳を開く。
新しいページに書いた。
『五年前の事故』
『玲奈は生きていた』
『18:00~21:00の記憶』
『謎の男』
『髪飾り』
そして最後に。
『玲奈を探す』
ペンを置く。
その瞬間。
窓ガラスを誰かが叩いた。
「……?」
顔を上げる。
誰もいない。
ただ。
窓に一枚の紙が貼り付いていた。
近づいて剥がす。
そこには。
たった一行。
『探すなら、死んだことにされている人間を探せ』
俺は紙を見つめた。
「……どういう意味だ?」
答えはない。
けれど。
紙の裏側に、小さな住所が書かれていた。
知らない場所。
知らない建物。
ただ一つだけ。
俺が知っている名前があった。
『白石玲奈』
五年前に消えた少女。
死んだことにされた少女。
俺が五年間、探し続けた少女。
その名前の横には。
日付が書かれていた。
――明日。
「……待ってろ」
俺は立ち上がる。
「今度こそ、俺が見つける」
五年前。
俺は彼女を救えなかった。
だから今度は。
何年かかってもいい。
彼女を見つける。
そして――
もし本当に生きているのなら。
もう一度、俺の前に連れて帰る。
その先に。
彼女を「生き返らせる」なんて未来が待っているとは。
このときの俺は、まだ知らなかった。
俺の能力が。
単に過去を見るための力ではなく。
失われたものを、この世界に呼び戻すための力だということを。
そして五年前。
俺が忘れてしまった三時間の中で。
玲奈自身が、俺に何かを託していたことも。
――すべてを思い出したとき。
俺は初めて知ることになる。
あの日。
消えたのは玲奈だけではなかったのだと。
主人公はちょっとした特殊能力があるみたいですけどそれが今後どのように活躍するのか想像しながら第2話をお楽しみに!ヒロインらしきあの子はどうなるかも考察してみるのも良さそうですね!




