ヴァール侯爵邸にて
その日、メダータ公爵令嬢は面会の予約を取り付けていたヴァール侯爵邸へと馬車を走らせた。
ほどなく屋敷に到着し、直ぐに応接室にてヴァール侯爵令嬢と対面する。
「ヴァール侯爵令嬢、面会のお約束を快諾いただきまして感謝いたしますわ」
そういいながら応接室へと通されたメダータ公爵令嬢は笑顔でヴァール侯爵令嬢へと話しかけた。
「いえ、王太子殿下よりお話は伺っておりましたから……なんでもアーマーゾ女帝国の学院へ留学されるとか……正直とてもうらやましいお話ですわね」
ヴァール侯爵令嬢は、少しだけくやしい想いを乗せてそう口にした。
「そうですわね……本来であればヴァール侯爵令嬢のような才媛こそがふさわしいのでしょうが、将来の国母となられる可能性がある限りは国を出ることは叶いませんでしょう……それとも……候補を辞退されますか?」
その言葉に思わず
「ありえませんわ! 王太子殿下の隣に立つ資格に比べれば留学などいくらでも諦めますとも! その気概なく候補としておそばについていた貴女と一緒になさらないで!」
と激高してしまう、だがすぐに自らの失言に顔色をなくし
「あっ……これはその……」
と言い訳をしようとするその様子にメダータ公爵令嬢は
「お気になさらずに……事実ですもの」
と全く気にする様子もなく答えた。
「わたくしなど所詮数合わせに呼ばれたようなものですもの……あぁ勘違いなさらないでね? 決して王太子妃教育を受けることに手を抜いたわけではありませんわ……ただ、わたくしは元から『足りない』事を自覚していただけです……いえ、覚悟などしたくもなかった……」
「……それは流石に不敬では……」
「ええ、その通りですわね。 ですからお互いここだけのお話ということで」
そう言いながらメダータ公爵令嬢は微笑む……お互いの失言をなかったことにしようと。
「メダータ公爵令嬢、やはり貴女は手を抜いておられた……今確信いたしましたわ」
顔を強張らせたままヴァール侯爵令嬢は射貫くような目でメダータ公爵令嬢を見る。
「あらまぁ! 過分な評価おそれいりますわ、ですがそう仰られるならば一つだけわたくしのお話を聞いていただけないかしら」
「お話……一体何ですの?」
「いえ、もうすぐお三方は学園に入学なさるでしょう? ですからその前に一つだけ……とある子爵家が庶子を入学させるという話はご存じかしら?」
「子爵家が? いえ、さすがにそこまでは調べておりませんでしたがそれがなにか?」
意外な話に眉をひそめながらヴァール侯爵令嬢は答える。
「子爵令嬢とはいえ引き取られてそう間もないと伺いましたわ、しかもその方は元は平民としてお暮らしであったとか……最低限のマナーもおぼつかない可能性が高いのではないかしら」
その言葉に困惑しつつヴァール侯爵令嬢は
「まぁ……そうかもしれませんわね……学園の規則的に少々問題が出る可能性があると?」
「それだけではなく、平民の方というのは異性に対する距離感が貴族とは違いすぎるので問題を引き起こす可能性もある……やもしれませんわね」
「それは、その者が王太子殿下に不用意に近づくと?」
「可能性はありますわ、普通ならばマナーをきちんと習得させてから学園に通わせるのが貴族の親としての務めですもの……それをこの短期間で学園に通わせるというのはそう疑われてもおかしくはございませんでしょう? まぁ子爵としては同格かあわよくば伯爵子息の目に留めたい程度の考えかもしれませんけども……」
その言葉に
「なるほど……そのような者がいるということは承知いたしました。 情報をいただき感謝いたしますわ」
とヴァール侯爵令嬢は礼を言う。
「ですがラーイ公爵令嬢ではなくなぜこの話をわたくしに?」
「それは、ラーイ公爵令嬢ではイザ事が起きた時に大きく動きすぎてしまう気がいたしまして」
そう答えつつ、出されていた少しぬるくなったお茶をいただく。
「……確かにあの方の性格を考えれば派手にやりそうですものね……そんな真似をしたら王太子殿下にも火種が飛びかねない……確かにわたくしの方が対処に当たるには最適ですわ……ふふふ……つくづく貴女様が婚約者候補を降りてくださって良かった……王妃殿下がメダータ公爵令嬢を推していたら勝ち目がありませんでしたわね……」
少し悔しそうに呟くヴァール侯爵令嬢。
「あら、王妃殿下はわたくしを推すなんてありえませんわよ? なにせ王妃殿下は母のメダータ公爵夫人と仲が悪いんですもの」
ほほほと声を上げて笑うメダータ公爵令嬢。
「……初めて聞きましたわ」
困惑しつつ眉をひそめてしまうヴァール侯爵令嬢。
「ですから、当家と懇意にしすぎると王妃殿下の不興を買いかねませんのでご注意くださいませ」
「なるほど……何事にも適度な距離は必要という事ですわね」
「まさしくその通りですわ」
二人の令嬢は可笑しくなって同時に笑ってしまうのであった。




