メダータ公爵邸にて
今更ながらの人物の名前紹介 メダータ公爵家
父 ナイゾ・メダータ公爵
母 セイル・メダータ公爵夫人
兄 セナーイ・メダータ公爵子息
娘 アンヌ・メダータ公爵令嬢
「お父様、只今戻りました」
執事に先導されメダータ公爵令嬢は、父である公爵に呼ばれ執務室を訪ねた。
「あぁ戻ったか。 ちょうど一息つくところだったよ、さぁ座って話を聞かせておくれ」
公爵もデスクから離れ、応接用のソファへと足を運ぶ。
「で、どうであった? やはり国王は呑気に祝辞をのべたであろう?」
「はい、学院で良く学び沢山の知識を持ち帰るようにと」
「ははははっ! やはり国王はお前が戻ってくると思っておるようだな」
「わたくしとしては、それでもかまいませんが……」
「そこはお前の好きにして良い、だが我がメダータは今の所は婚姻による縁など特にどことも求めておるわけではない……むしろ現状を考えれば、逆に今以上に力をつければ面倒なだけだ……だから息子であるお前の兄も領地経営に専念させて王都から遠ざけておるのだからな」
そう言いながら公爵はため息をつく。
「お兄様も手紙にて同じようにおっしゃってましたわよ?」
ふふふ、と令嬢は思い出し笑いを浮かべる、そんな時執務室のドアがノックされ執事が
「奥様がお帰りになられました」
と告げる、公爵はその言葉に急いで自ら扉を開けに行き
「セイル、良く帰ってきた」
と領地へと帰っていた妻の名を愛しそうに呼び、いそいそとソファへとエスコートする。
「まぁ旦那様、相変わらずですわね」
久方ぶりに顔を見た娘のメダータ公爵令嬢へニコニコと笑いかけながら、夫である公爵へ話しかけた。
「何を言っておるのだ! 二年も領地へ行ったままで全然帰って来ない妻に久しぶりに会えたのだぞ! 喜んで何が悪い」
「まぁ、まるで子供のような事を……旦那様は王都から動けないのですから、わたくしが息子の助けとなるべく領地へ行くのは当然ではありませんか……」
そう言いながらメダータ夫人は呆れたように夫のメダータ公爵をみた、突然始まった両親の痴話げんかめいたやりとりに、娘としては落ち着かない思いをしながらも
「お母さま、出立前にお会いできてとても嬉しいです」
と声をかける、そんな娘を愛しいと語り掛けているような眼差しで見るメダータ夫人。
「久しぶりね、また少し背が伸びたのではなくて? この分だともう少し身長が伸びるかもしれないから、出立前にもう少しサイズの大きなドレスも用意した方がよさそうね」
「はい、お母さま」
母の細やかな気遣いに嬉しそうに返事をする公爵令嬢。
「こういう細かいところは、父親では気づかないだろうと思って一旦帰ってきたのですわ……やはり正解でしたわね」
そう言ってチラリと夫を見る、公爵は少し気まずそうにオホンとわざとらしい咳払いをして
「な、ならば女性同士でなければ具合の悪い話もあるだろうし私は少し席をはずそう! 」
わざとらしくポンと手を叩きいそいそと逃げてゆく公爵、パタンと扉を閉められた瞬間こらえきれずに母と娘はくすくすと笑ってしまうのだった。
「ところでアンヌ」
「はい、お母さま」
「本当は、貴女に向こうでの行動の指針になる話をしに来たのよ」
「指針……ですの?」
「えぇ……学院で学ぶこと自体に何も問題はないわ……でも、女帝はかならず貴女を自国へ取り込みにかかるでしょう? 」
その言葉に少し考えながら、公爵令嬢は答える。
「……この国の筆頭公爵家であり国内で有数の権力と資産をもつ我が家門を取り込まないという選択肢は確かにありませんわよね」
「えぇ……恐らく向こうで貴女に女帝国の男性を直接紹介してくるか……偶然知り合わせる程度は必ずやってくるでしょう……ですがこの国と血を混ぜるということは必ず『不混』の問題が出てくるわ、だから考えられる手としては大きく二つ。 女帝国で貴女にラーイ公爵家と同じ立場の家を創設させる、もう一つは養子を取らせる手ね……まぁどちらも色々問題は多いと思うのだけど、あの国は女帝の一声でなんとでもなってしまうわ」
メダータ公爵夫人はそう言いながら、用意させたお茶を口にする。
「確かにその可能性は高そうです」
「あの女帝なら、『こちらから男性の婚約者を連れてきても良い』とも言いそうだけど、その子は結局『不混』の可能性がある子だから、問題が先送りになって余計ややこしくなるだけだし流石に言わないでしょうけどねぇ」
「確かに……子供のうちから女帝国で育って、万が一にも女帝の子らと恋仲になりました。 なんてことになったらシャレにならない騒動になりますものね」
「えぇ、だからこの中で一番可能性が高いのは『偶然の出会いから恋仲になり将来を誓うけど、子供に健康の不安を抱えさせたくないから養子を取ろう』っていう路線かしらね」
「あぁ……ありそうですわねぇ『君や生まれてくる子供が不幸になるなんて耐えられないんだ』とかなんとか言って養子の話を進められそう……」
想像してゲンナリしてしまう、その様子を見て夫人は可笑しそうに
「あらあら、まるで見てきたように言うのね?」
「巷にあふれた恋愛小説ならこんな感じかなと」
そう言いながら肩をすくめる娘に意外そうな声で
「あら、アンヌったらそんな小説読んでいたの?」
と問いかける。
「王太子殿下のお心を掴むためと講師の先生に頂きましたわ」
「あらまぁそうなの……まぁあんまり役には立たなそうだけども……」
「女性の理想が詰まった話をみて男性の心をつかめと言われても困りますよね?」
「そうよねぇ……まぁとにかく貴女が今後どうしたいか今すぐ決めろとは言わないわ、でもこの辺はきちんと頭に入れて行動なさいね」
「はい、お母さま」
そのまま、二人は母娘水入らずで晩餐の身支度の時間ギリギリまで語り合うのであった。
後で書くつもりではあるのですが、この国の貴族間では祖父祖母、夫婦、親子などの血縁関係のない間柄では基本人前で名前を呼ぶことは、かなり強いレベルのマナー違反となります。
婚約者は本人同士の了解があれば黙認されますが、候補はNGとなっています。(二人きりの時に本人同士が了解している前提で呼ぶ事はまぁあるかも……)




