暇の挨拶はしめやかに
その日王城では月に一度の、王太子と婚約者候補一人で行われる小さな茶会が開かれていた。
その日に呼ばれていたのはラーイ公爵令嬢、王太子と二人きりで過去に出題された問題の意見交換や貴族家の大小さまざまなニュースなど話の話題はつきないのだが、何事にも終わりの時間というものはあるもので
「王太子殿下、そろそろお時間でございます」
と少々申し訳なさそうに侍従が告げてくる。
「そうか、それではラーイ公爵令嬢。 馬車までエスコートさせてくれ」
その言葉にラーイ公爵令嬢は嬉しそうに
「はい、王太子殿下」
と答え、二人そろって部屋を出て廊下を歩いてゆくそんな中、ふと人影を発見し二人は驚く。
「おや、メダータ公爵令嬢ではないか。 本日は君と面会する予定ではなかったはずだが……」
困惑しながら王太子はメダータ公爵令嬢へと声をかけた、その様子に少しだけ眉をひそめながらもラーイ公爵令嬢は声を出さず静観する。
「これは王太子殿下、並びにラーイ公爵令嬢。 不躾に申し訳ございませぬ……ですが本日、国王陛下より特別に許可をいただき陛下の御前にまかりこしました次第にございますわ」
「陛下に謁見を……そうだったのか」
「はい、先日父メダータ公爵より陛下へご報告させていただきましたのですが、正式にアーマーゾ女帝国への留学の日取りが決定いたしましたので、陛下より特別に激励のお声がけをいただきましたの」
その言葉に二人は衝撃を受けた。
「えっ⁉」
「なんだって! では君は学園には入学しないのかい⁉」
「はい、アーマーゾ帝国より女帝陛下直々に招待状を賜りましたので」
その言葉に思わずラーイ公爵令嬢は
「嘘……なぜわたくしやヴァール侯爵令嬢ではなく貴女なの……」
と呟いてしまった、迂闊な発言をしてしまい内心焦るラーイ公爵令嬢であったが、メダータ公爵令嬢は特段気にした様子もなく
「普通はそう思われますわよねぇ」
とにこやかにラーイ公爵令嬢に話しかける。
「実は、招待状にきちんと理由も書かれておりましてね? お二人のような優秀な方々は招待しても国が許可を出さないだろうが、わたくしなら色々ちょうどいいのではないかと」
その言葉の意味を理解したラーイ公爵令嬢はハッとして
「では婚約者候補を……」
「はい、正式に辞退させていただきました。 陛下にもご了承いただき書面上の手続きは完了したと……でなくては出国の手続きができませんので」
ニコニコとメダータ公爵令嬢は語る、その様子にラーイ公爵令嬢はずいぶんと出来すぎた落としどころだな……と感じていた。
王家より落第の判定を受けたと貶められることもなく、かといって自ら不出来なので辞退いたしますと言えば候補につけた王家や自らの家門の間に禍根を残すことになりかねない……だが名誉ある学院に留学するとなればすべてが丸く収まる……だがまぁ悪戯につつく必要もない事だ。
婚約者候補でなくなるならば、もうメダータ公爵家は我が家門の敵ではない……いや積極的に味方に取り込むべきか……。
「そうだったのですね……大変名誉なご留学、つつがなくお過ごしになられますようお祈り申し上げますわ」
ラーイ公爵令嬢も微笑みながら、新たな門出に立つメダータ公爵令嬢を祝福する。
その言葉に呆然としていた王太子も
「そ、そうだね……メダータ公爵令嬢、婚約者候補として長い間ともに励んでくれてありがとう。 留学先でも体に気を付けて沢山学んでくれ」
少々顔色が青い気がするが、そこは王太子としてのプライドで満面の笑みを作りメダータ公爵令嬢を激励する。
「お三方と共に切磋琢磨させていただけた時間はわたくしにとっても大切な思い出でございますわ、王太子殿下、そしてラーイ公爵令嬢も学び多き学園生活を送られますようお祈り申し上げます……では御前失礼いたします」
と優雅にカーテシーを披露しメダータ公爵令嬢は踵を返した、その様子を見ながら王太子は思わず
「婚約者候補はこれで二人になってしまったね」
とラーイ公爵令嬢に話しかける、その言葉に
「そうですわね……少々寂しい思いがいたしますわ」
と悲しそうな表情を作りながら王太子の感情を慮り無難な答えを返すのであった。
その答えを聞きながら王太子は突然なぜか分からない焦燥感に包まれる……どうしてこうなっている……何か決定的に間違っているのではないのか……と。
この世界の強制力さんの実力はこの程度です。




