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とある物語の『悪役令嬢』になった転生者のおはなし  作者: 清水 流花


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王太子の憂鬱

 王太子であるスークは悩んでいた。

それは彼の婚約者候補となった三人の令嬢についてである。


まずは一人目、メダータ公爵令嬢。 特筆すべきこともない一般的な令嬢である。

勿論王太子妃候補として日夜努力している姿を見ているし、性格も至って普通の令嬢である。


二人目はラーイ公爵令嬢、家格はメダータ公爵家に一歩及ばないものの格式ある公爵家の御令嬢である。

特筆すべきは語学力の高さと様々な国の政情にとても造詣が深い点だろう、将来国を背負うものの伴侶として申し分のない能力なのは言うまでもない。ただ性格は少々気が強い……感じがする。


三人目はヴァール侯爵令嬢、この令嬢はとにかく発想力がすごい。

少し話しかけるだけで、いくつも新しい政策についての新しい意見が飛び出てくる。

中には実現するのが難しいものもあるが、いつか実現できたらいいねと話し合うのもまた楽しいものだ。

こういう同士としての安心感もまた将来の王妃にふさわしいのではないかなと、最近よく感じている……。


「そうなるとどうしても比べてしまうんだよなぁ……」


ポツリと出てしまった独り言に


「ならば、メダータ公爵令嬢は早々に候補から外れていただくべきでは?」


と答えが返ってきた。

突然の声に驚いて後ろを振り向くと、彼の親友兼来年入学予定の学園内における護衛騎士が内定しているミュスクル伯爵子息である。


「びっくりした……いたのか」


「ノックいたしましたが返事がございませんでしたので、なにかあったのかと勝手に入らせていただきました」


「そうか……しかしよくこの独り言が婚約者候補のことだとわかったね」


「それは、殿下とも大分付き合いが長くなってきましたからね」


「確かにね……しかしそう簡単に候補の令嬢を切り捨てるのもなぁ……特に問題があるわけじゃないし……」


王太子の言葉に呆れたように言葉を返す。


「何を言ってるんですかまったく……殿下はメダータ公爵令嬢の将来に責任を持つべきお立場なのですよ! ダメならダメと早々に見切りをつけて差し上げるのも優しさだとおもいますがね」


「優しさ……?」


イマイチ、ピンときていない王太子の言動に少々眉をひそめ


「もう少し踏み込んでお考え下さい、わが国では基本的に側妃制度は認められていません。必ず三人の中から一人に決めなくてはいけないんですよ?」


「まぁ……そうだな」


「そうなった時、残りのお二人は新たに婚約者を見つけなくてはいけません」


その言葉に、今まで想像もしていなかった婚約者候補という立場の少女たちの未来を考えさせられた。


「そ……そうだよな……新しい相手を探すには早ければ早い方がいい……うん、確かにその通りだ……」


頭では納得しているのになぜだろう……心の片隅がチクリと痛んだ。


「ならばいつまでも婚約者候補という立場に縛らずに、早く解放してあげるのがメダータ公爵令嬢に対して殿下にできる唯一の優しさだと思いますよ? 今なら学園に入学する前ですし王太子妃候補として教育を受けたという箔がついて、婚約者なんてより取り見取りでしょ?」


「そ……そうだな……私の一存では決められる問題じゃないし、とりあえず父上と相談してみるよ」


「それがよろしいでしょうね」


うんうん、と頷いてミュスクル伯爵子息は頷いた。


「しかしもう一人についても早々に決めた方がいいんだろうか?」


「あー……それはもう少し待った方がいいと思いますよ」


「ん?なぜだ? 決めるなら早い方がいいんじゃないのかい?」


その言葉に深くため息をついてミュスクル子息は諭すように語り掛ける。


「殿下、もう一度想像してみてください、今お一人に決めたとしますよね? 正直考えたくありませんがその後にそのお方が病気になったり、不慮の事故で動けなくなったりした場合どうなります?」


その言葉に王太子の顔色が青くなる。


「そ……それは婚約者として不適格になってしまうな……」


「えぇ、ですからある程度の時期まではお二人のままでいてもらうべきなんですよ……その分選ばれなかった方に対する保証はきちんとすべきですけどね……」


「それは当然だろうな」


王太子は深く頷いた。


「とりあえずその辺りも陛下にご相談されるのがよろしいのでは?」


「あぁ、分かった。 相談に乗ってくれて助かったよ」


ニコリと王太子は微笑んだ。


「それは良うございました! ではわたくしめは護衛に戻らせていただきます!」


冗談めかしておどけて見せてからミュスクル伯爵子息は護衛を続けるべく部屋の外へと出て行った。

静かになった部屋で王太子は一人ソファに転がって物思いに(ふけ)る。


『……どうしてだろう……今まで彼女の事なんて特になんとも思ってなかったのに、気持ちがこんなにモヤモヤするなんて……やっぱり引導を渡す事に良心がとがめてるのかなぁ…… 』


いくら考えてもやはり答えは出なかった。

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