ラーイ公爵令嬢
どうしてこんなことになっているのかしら……。
ラーイ公爵令嬢は己の現状を振り返っても未だに理解が及ばないでいた。
つい先ほど、父であるラーイ公爵より王太子妃候補に選ばれたから、より一層励みなさいと言われ衝撃を受けた。
そもそも、ラーイ公爵家はこの国の中で唯一外交にすべてを振り切った家門だと言える。
そして他国からの輿入れも王家ではなくすべてこのラーイ公爵家が受けるのだ。
……この国には説明のつかない『不混』と呼ばれる不可思議な現象が起きる。
それは、この国の人間と他国の人間の間に子供が出来た時に起きるのだが、厄介なことに毎回起きるわけではなく、しかも起きたとしても第一子で起きるとも限らない。
そして、この現象が起きた子供はとても体の弱い子が生まれてしまう、だがなぜか平民の間で起きる不混はそこまで重篤にならないのに貴族間……特に王族に近くなれば近くなるほど症状が重くなり、数百年前に王族に生まれた不混の子は一度も目を開けぬまま儚くなったのだという。
長年の研究の末に見いだされた不混という現象、そのような事態を王家に二度と起こさぬために設立されたのがラーイ公爵家なのだ、それゆえにいつ政略的な問題で婚姻の話が来ても良いように、ラーイの家の者は語学と他国の知識を子供のころか叩き込まれる。
「そのために努力してきた結果が、まさか王太子殿下の婚約者候補に選ばれてしまうなんて……」
確かに名誉な事ではあるが、自分自身の本来の役目は他国の血を一度受け止めてから問題のない子供を王家へと嫁す事だとずっと教えられてきた……それなのに婚約者候補になるなんて本当にこれで良かったのか……いくら考えても答えなどでない。
だが、もう決められてしまった事は後戻りなど出来はしない……ならば完璧な王妃となるためにより一層の努力をするだけだ……そう決心するのだった。
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王城の美しい庭園の景色を楽しむ余裕もないまま、ラーイ公爵令嬢は非公式のお茶会に自分だけが招待された意味を図りかねていた。
「ふふ……そう緊張せずともよろしくてよ?」
現王妃であり王太子殿下の母君でもあるお方を前にして緊張しないでいるのは無理だと心の中で叫びながらも持ち前の気の強さで、優雅に微笑んで見せる。
「王妃殿下のお心遣いに感謝いたします」
無難に微笑みながらそう返すと、満足そうに王妃殿下は微笑む。
「やはりその胆力と才能……王太子妃にふさわしい成長を日々遂げているようですね、教師陣達からの評価も高くてよ?」
「過分なお褒めをいただき恐悦にございます」
「ほほほ、そう謙遜せずとも宜しい。わたくしは三人の中で一番貴女が王太子妃にふさわしいとおもっているのですよ」
その言葉にラーイ公爵令嬢は驚いた。
「王妃殿下はメダータ公爵令嬢が本命なのかと思っておりました」
思わず本音が出てしまったラーイ公爵令嬢に
「おやおや、これは面白いことを……確かに候補を3人選ぶという話になる前はメダータ公爵令嬢へ婚約の打診を陛下がお決めになったのは事実です、しかし妃教育の進捗を考えたらあの娘は『足りない』のです」
「足りない……ですか……」
「そなたも見ていて感じるでしょう? 確かにメダータ公爵令嬢はきちんと教育課程をこなし努力はしているように見えます。ですがそれ以上の成果を出している貴女とヴァール侯爵令嬢の中では完全に見劣りしていることに」
「それは……」
うかつに肯定できず言葉を濁すラーイ公爵令嬢。
「メダータ公爵令嬢は王家の血も入った由緒正しい血統という点しか取り柄がない、ですが貴女はそうではないでしょう? ラーイ公爵家にもきちんと王家の血の流れがあり、しかも他国との繋がりも深い。確かにヴァール侯爵家も良いのですが、小賢しいだけの娘に王妃が勤まるかしら……ねぇ?」
そう言いながら王妃殿下は少し不機嫌な表情で、ゆっくりと目の前に用意されたお茶を口にする。
ここは黙して語らず様子を見るべきと、ラーイ公爵令嬢は何も言わず黙ってお茶を楽しんでいるように見せる。
その様子をまた満足そうに見ながら、王妃殿下は
「王太子のこと……頼みましたよ?」
と圧をかける……これにはさすがに答えないわけにいかずラーイ公爵令嬢は
「畏まりました」
と返事を返すのだった。




