まずは父と話し合い
部屋の前へと案内され、トントンと重厚なドアを叩き入室の許可を得た執事がドアを開く。
「お父様、お呼びと伺い参上いたしました」
「あぁ来たか、さあ掛けなさい」
執務室の前にある応接間のソファへ腰を下ろした娘に父であるメダータ公爵は早速用件を切り出す。
「先日王家より王太子殿下との婚約の打診を受けた、当家としては問題ないので受けようと思うのだが良いな?」
その言葉に公爵令嬢は意を決したように顔を上げて
「お父様、その件なのですが……一つお願いがございますの」
「願いだと?」
「えぇ、わたくしも婚約そのものについて否やはございませんの……ですが、一つ不安がございまして……」
「不安とは?」
「王妃教育にございます」
「ふむ、現状お前につけている教師陣からは特にマナーや教育について問題はないと報告を受けておるが?」
「確かに現状はまだついていけておりますが、この先も大丈夫だという自信がございません……そのせいで家門に泥を塗るような事態は避けねばなりませんし、どうか婚約者候補という段階に留めていただきたいのです」
公爵は少々呆れたように
「公爵令嬢ともあろうものが何を弱気なことを……」
その言葉にも負けず
「お父様は、他家の御令嬢についてどれだけの情報をお持ちでいらっしゃいますの?」
と言葉を突き付ける。
「一通りの情報位は得ておるぞ」
「ならばヴァール侯爵令嬢が自領の産業について目覚ましい成果をあげられていることは?」
「そういえば……たしか新しい染物の開発に意見を述べたとか」
「ラーイ公爵令嬢が親子で隣国の大使と面会した時に、流暢な発音で大使とお話された話は?」
「あぁ、あのあとラーイ公爵にずいぶんと自慢話を受けたな……」
公爵は憮然とした顔でその話を思い出した。
「その点わたくしは突出した所のない『一般の貴族令嬢』としては及第点をいただいておりますが正直『足りない』と思うのです」
「ならばこれから……」
「これから努力すればいいとおっしゃる? 確かに勉強すれば語学はなんとかなるやもしれません……しかし自領を富ませる発想力まではわたくしには難しい……しかも今から努力してもご令嬢方はその時間でさらに上のレベルまで成長される事はまず間違いありませんわ」
その言葉に父公爵は思案する。
「うーむ……」
「ですから、王家からの打診を断ることなく穏便にすませるために『候補』としてラーイ公爵とヴァール侯爵家にも打診していただくべきだと思いますの」
「なるほど……まぁ当家は特に王家との縁は深い方だし、婚約にこだわる必要もない。そしてラーイ公爵とヴァール侯爵に恩も売れるか……あそこは王家との繋がりが薄いから諸手を挙げて喜ぶであろうしなぁ……ふむ、良いだろう! 王家の方には私から話をしておくとしよう、お前は下がりなさい」
「はい、では失礼いたしますお父様」
そう言って退出しようとした娘に
「あぁ、一つだけ言っておくが」
「どうしましたのお父様?」
「こうやって家門の事を考え視野を広く持っているお前を決して『足りない』などとは私は思わないよ?」
そう言いながら父公爵はニコリと娘に笑いかけた。
「お父様……ありがとうございます」
唐突に褒められて真っ赤になった公爵令嬢はパタパタと逃げるように部屋から退出していくのであった。
お父様は娘が内心婚約を嫌がってるのをちゃんと理解しています。




