それぞれが向かう明日
「本日はお時間をいただきありがとうございます、メダータ前公爵閣下」
そう言いながらラーイ公爵令嬢は自分を招待してくれた、現在はご子息に当主を譲り引退した前メダータ公爵へと礼を言う。
「なに、もう隠居した身ですからお気遣いなどなさらなくて結構ですよ、あぁそういえば正式に婚約者へと内定されたそうで……お祝い申し上げる……と言ってよいのかな?」
「勿論ですわ、ヴァール侯爵令嬢とはきちんとお互いの意見をすり合わせておりますし、王家や貴族家のバランスを見てもこれが一番だと」
そういいながらも、メダータ前公爵にはラーイ公爵令嬢の表情は少しだけ愁いを含んでいるように見えた。
「さすがに候補が二人になったからとは言え、この国の歴史上でもあまり例のない二妃制が採用されるとは思いませんでしたよ」
「……えぇそうですわね。 わたくしも正直ヴァール侯爵令嬢で決まるものとばかり思っておりました」
「おや? ご自身ではなく? 貴女様は王妃様の後ろ盾もお持ちであったのですから選ばれてもおかしくなかったでしょうに」
少しだけ皮肉気に言うメダータ公爵。
「王妃様のご推薦を頂いていたとしても、学園でのあの騒動を未然に察知して防いで見せたヴァール侯爵令嬢の功績の前では霞んでしまいましょう」
「確かに……それが決め手になり正式に妃が決まりかけたとか」
「はい。ですがヴァール侯爵令嬢がその功績をもって二妃制を希望されたのです」
「ヴァール侯爵令嬢ご本人がそれを望まれたのですか?」
「はい、しかも『自分は子を持たずとも良い』とまでおっしゃいまして……」
「……それは随分と大胆な御発言ですなぁ」
「えぇ……正直わたくしには彼女が何を考えているのか理解できませんでしたの……ですからきちんと話を聞きたいと思いまして機会を設けて話し合いましたの」
「なるほど……」
「ヴァール侯爵令嬢は、仰いました。『ラーイ公爵家の事情は存じております、だからこそ今回は王家の犠牲となるための家の者としてでなく、由緒ある公爵家からの輿入れとして堂々と跡継ぎを生む王妃となられませ……わたくしはその間に王太子を支え国を繫栄させる努力をしたいのですよ』とだから子を産んでいる暇がないのでお任せしますなんておっしゃるのですあのお方……」
可笑しそうに言うラーイ公爵令嬢を見ながら呆れたように。
「最近の先進的な考えの御令嬢は、突拍子もない事を言いだして周りを驚かせるのがお好きなようですなぁ……」
「あら? メダータ公爵令嬢も例外ではないと?」
ラーイ公爵令嬢は興味深そうに問う
「娘は学院の専門課程の方で学んでおりましたが、とうとう専門の研究機関の方で本格的な研究をすると手紙が届きました」
「まぁ、ちなみにどんな研究を?」
「『不混』についてでございますよ」
「っ⁉ ……それはまた……。」
「現状、原因と考えられるモノについての仮説の検証中だとか」
「原因? 血筋が原因なのではなかったのですか?」
「一般的にそう言われてはおりましたが、どうもそうではないかもしれないと……まだ仮説段階だそうですからこれからに期待ですなぁ」
「……原因が究明されるだけでも希望が見えますものね、わが国からも研究に関して支援できないか検討いたしますわ」
「それがよろしいかと」
「ところでメダータ公爵令嬢はその……ご結婚はお考えではないのでしょうか……?」
「ははは、今は研究が忙しいから考えてないとは言っておりましたな……憎からず思っているものはおるようではありますが」
苦虫をかみつぶしたような顔で前公爵は言う。
「あら、ふふふ……そのようなお顔をなさるなんて……父親とはどこの家も変わらないのですね! わたくしの父も正式に婚約が決まった時にそっくりの顔をしておりましたわ」
可笑しそうに口元を隠すラーイ公爵令嬢。
「それはそうですとも、手塩にかけて育てた娘を嫁にやるのですから、もっと良い男がいるのではないかと止めたくなるものですよ」
「娘として愛されている証拠だという事ですわね」
「その通りでございますよ、ですから貴女様も何かあった時は遠慮せずに父上を頼ってあげてください。あやつも父として嬉しく思わないはずがありませんからね」
「ご忠告感謝いたしますわ……もうこんな時間ですか……御面会いただきありがとうございました。 この立場となりますと、おいそれと御令嬢に手紙を送ることもいらぬ疑念を持たれかねませんので近況をうかがえて感謝しております」
「こちらこそ隠居した暇人とお会い下さり感謝いたしますよ」
「では、失礼いたしますわ」
そう言ってラーイ公爵令嬢は見事なカーテシーを披露し、隠居所である館を辞していった。
メダータ前公爵は出立する馬車を見ながら
「王妃も探りを入れるならもう少し人を選べば良いものを……良くも悪くもまっすぐな御令嬢ではなにも聞き出せはせんだろう……しかしもういい加減我が妻をいつまでも敵視するあの女はいらんな……」
そう一人呟きながら、次代が育ったこのタイミングならもういいだろうと排除のための策を思案し始めるのであった。
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