2 転移紀
次に目を開けたとき、俺は草の上に倒れていた。
見上げた空は異様なほど青く、雲は現実離れした形をしている。
遠くを見ても、青々とした木々や山々があるだけだ。
風の音と、どこかで喚く獣の声が耳に届く。
腐臭も呻きもーーーあの世界の気配は、どこにもない。
ここはーーー
もう、あの地獄ではない。
生き残る理由を与えられた世界で、俺は再び、生きることを選ばされているということを、そのとき初めて理解した。
とはいえ、ここがどこなのかもわからない。標識のようなものも見当たらず、自分が今どこにいるのか判断がつかなかった。
見渡す限り、緑。
相変わらず獣の喚き声が響いているだけで、近くに人の気配は全くない。声の聞こえない場所に行くため、しばらく歩くしかなさそうだ。
どれくらい歩いただろうか。
いつまで経っても獣の声は途切れず、むしろ、離れようとするほど、より大きくなっているようにさえ感じる。
ふと、振り向けば背後から黒い影がこちらへ近づいてくるのが見えた。
ーーーほんの数秒ほど見つめていただけのはずだった。その影はいつの間にか、俺がその形を認識できるまでに近づいていた。
ーーー人だ
どうしてだろう。涙が溢れてくる。喉が痛い、鼻の奥がつんとする。
逃げることもできず、ただその人が近づくことを待っていた。
よく見るとその人物は誰かに追いかけられているようだった。獣だと思っていた声は人間の叫び声だったのだ。追われる人は大きな声で助けを求め、追う人達は怒鳴り声をあげながら走っている。
人影がまだ小さい時から思っていたが、人間の走る速さとは明らかに違っていた。
おおよそ人が出せるスピードではない。一瞬ギャグ漫画か?などと変なことを思ったくらいだ。
現に、追われる人はもう俺の目の前にーーーーー
ぐしゃり、と変な音聞こえた。
顔が近い、近すぎる。
痛くはない。だが熱い。
どうしてだろう。追われていた人は俺を見下ろしながら何かを叫んでいる。その背後には、すでに鬼のような顔をした人が立っている。
俺は力を振り絞り、その人の背後を指差す。
そして、そのまま意識を手放した。




