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雪よ、降レ!  作者: りっか(監修/訳=Yuki.)
第1巻
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第6話


 長官の事務室を3人の兵士が訪れている。今回の偵察任務を遂行することになる、重要なメンバーたちだ。

 それぞれに簡単に名乗らせた後、単刀直入に本題に入る。前のめりになり、大きな机に肘をついた。


「――中尉」


 静かな呼びかけが、空調の音に埋もれることなく、冷たく響く。直後に、繊細な時計の針の音が、粒だって聞こえた。


 それに相対(あいたい)する小隊長は、元気に答えた。


「はっ! なんでございましょうか」


「お前の目は腐っているのか?」


「いいえ、腐っておりません! どうかいたしましたか」


 そのまったく純真な目を、逸らすことなく向けてくるこの女に、長官はしばらく考えてから、こう語りかけた。


「まず、志願を募ると決めた時、私はこう考えていた:きっと自信のある者たちがこぞって手を挙げ、自信があるだけの無能は競争の結果いなくなり、最後には心身ともに優秀な精鋭が本任務に就くことになるだろう、と。しかし、実際は何が起こったか。分かるか?」


 そう問われ、少し逡巡した小隊長は、足下のカーペットに一瞬だけ目をやってから、答えた。


「手を挙げる勇気のある者は、私以外にいませんでした」


「そうだ。そこで私は次にこう考えた:自身に満ち溢れた中尉は、えり抜きの強者(つわもの)を連れてきてくれるに違いない、と。ここで、ひとつ問おう――その考えは、果たして正しかったか?」


「はい! 間違いはありません!」


「ふむ……」


 どこまでもまっすぐな声。そこまでの自負があるならば、それなりの理由が、見てすぐに取れるはずだ。

 小隊長の後ろ、背筋を正す女の子2人に視線を移す;改めて、じっくりと観察してみる。


 1人は、なんか人を舐め腐っている感じが顔に出ていて、隠せていない。常に人を小馬鹿にするチャンスを窺っている目だ。一方で、いざという時に急に仲間思いな一面を見せて、株を上げるタイプにも見える。


 もう1人は、金髪が目にうるさい。その表情は一見すると自信が無い。だが同時に、やる時はやる人間の顔つきをしている。


 男は、3人を前にして、深く考え込んだ。そして、しばしの静けさののち、ゆっくり頷いた。


「……分かった。ただいまを以って、この3名を、正式に本任務の実行部隊とする。詳細は後ほど中尉に伝えられる。今日のところは下がれ」


 元気のよい返事が返ってくる。礼をして部屋を後にする彼女らを見届けてから、彼は深くため息をついた。


 わずかにしなる背もたれに深く沈み込み、目を閉じる。


 彼女らについて、考える。

 中尉が連れてきた少年兵は、最初に見た時、まったく役に立ちそうには見えなかった。今も、そう感じている。しかし、彼女がその2人に抱いている篤い信頼は、間違いなかった。


 情報によれば、彼女らはそれぞれ7歳の時に入隊し、共に育ってきた戦友とのことだ。そこに存在する絆というのは、戦場においても非常に多くを意味することだろう。

 今はまだ未熟であるにしろ、これから成長を続けていけば、いずれもがきっと多くの勲章を胸につけることになったに違いない。


 ――だからこそ、残念な気持ちでいっぱいだ。いつの時も、そうした有望な人間から先に死ぬことになるのが。


「すまない。上の人間は、地上が嫌いな者が多かったらしくてな」


 本任務は、その最後に、約束された失敗が待ち受ける。それは、将来を嘱望される若者の、あまりにあっけない終わり方によって達成されなければならない。そして、そのことによって、今後のいかなる地上への希望をも断ち切らなければならない。そうしなければならなくなってしまったのだ。

 彼は司令官ではあったが、未来を定める権限は、持っていなかった。

 

「悪く思わないでくれ」


 部屋を掃除するロボット以外は動かない、冷たい時間が流れる――


 *


 さびついた机が、3つ集まって、1つの大きな机を作り出す。卓上に3つのランプが置かれ、その光が一丸となって部屋を照らす。3つの椅子のそれぞれが、思い思いに軋む。


「小隊長、私たちホントに地上にいけるんですか?」


 向かい側に座るその人に、びっしり文字の書かれた紙束を読みながら、あおめが尋ねた。


「ああ。本当だ。だからこれをしっかり頭に叩き込むんだぞ」


「うーっす」


 小さな部屋に詰め込まれて彼女らが読んでいたのは、地上について詳解するものだ。


 例えば、地理:地図・ちょうどこの地下都市の上にあった国は何か・そして他にどんな国があったか、文化:人々の風俗・価値観・言語、その他:人類の敵に関するいくらかの目撃証言、などが述べられている。


「うわー目でっか。てか、この人の髪型かわいいなぁ。うちんところの美容師もできないんすかねぇ」


「この写真は見せられないからな。してほしいなら自分の言葉で説明するしかない」


「え、てことは私がこの可愛いやつの発案者にワンチャンなれるってこと? 私ビョイフルエンシャじゃん」


「“美容インフルエンサー"だ」


「発音むずいっすて。ていうか昔はほんとにそんなバカみたいな職業が存在したんですかね」


「今とは比べ物にならないくらい豊かだったから存在しえたんだろう」


 ペラペラと紙をめくっていき、必要とあらば、その情報を脳のメモリに刻み込んでいった。

 ある時は、都市の空中写真を見たえいらが、感嘆の声を漏らした。


「すごい……こっ、これが、ひひ、1つの街なんだ……」


「大佐のおでこより広いっすね」


「当たり前だ。あ、それと、街の名前も一応覚えておけよ」


 普通は教えられないようなかつての地上の姿を、写真と共に学ぶのは、彼女らにとって非常に興味深かった。しかし、この機密扱いの文書においてすら、100年前に何が襲来して、何を人類たちに行ったのか、そうした情報は不明のままだった。


「今回の偵察では、地上の広い範囲における現状を把握することだけでなく、状況が許せば――つまりそれを可能にする遺跡なり遺物なりがあるならば――過去に何が起こったのかについても調査を進めることが求められている」


「そそ……そそ……そ…………そっそれを私たち3人だけでやるんですか?」


「そうだ」


 短く頷く。


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