第39話
さて、兵士には、小隊長の“復活”を実際にその目で見た者たちがいた。ラジオ放送を聞き、テレビ放送を見、自分たちの仲間たるイアないしアイから詳細を聞かされた後、ただちに彼らは軍人をやめた。それをとがめる者は誰もいなかった。誰しもが、上の人間たちに、もう一度空を見る夢を邪魔されるのは我慢ならなかった。
「見たんだぜ俺は。マジで生きてた! みんな、ちょっとだけふっくらしてた。あれは、地上でいいもん食ってんだぜきっと」
「ああああーーーーー、私も早くあんな服着たいし焼けたいぃぃぃぃ」
「日焼けによってでしか生まれない、あの腕や肩の模様を見たか。中尉殿は、本当にタイヨーを浴びてきたんだよ……俺も早く日焼けして爆モテしてやる……」
白い肌のつわものたちが、あーだこーだと楽しそうに語り合う。すると、実際にはそれを目にしていなかった者の間でも、なにかそういうイメージみたいなのが出来上がってきて、地上への思いが膨らんでいった。
彼女たちを目撃した中には、同年代の、少年隊の者たちもいた。
「俺、とりあえず家族のところ戻るわ!」
「俺も! また会おうな!」
「もう祭りだ祭り!」
ある者は、荷物をさっさとまとめてしまって、家族のいる階層のところへ下っていく。またある者は、上がっていく。普段、そうした行き来は厳しく制限されているにもかかわらず、階層間のエレベーターや階段は、素通りすることができた。それを制御したり警備しているロボットたちが、それを許すからだ。しかも、積極的に誘導している節まであった。それだから、いつもは静まり返っている暗晦な場所が、かつてないほどに賑わうことになった。
下層の方では、情報の回りがやや遅いため、少々落ち着いてはいるものの、一部の熱気はすごかった。というのは、扇動する者がいたからである。
「わが妹の言葉はしかとその耳で聴いていたな?! これからエレベーター修理の大作業が始まる……いや、これから我々が始める! もう始めちゃおう! ていうかエレベーターってどこにあるんだ?」
と1人の女性が威勢よく叫ぶと、暗がりに、ぅおー!と威勢の良い返事がいくつも重なって響いた。暗いので、その集団が実際どれほどの規模なのかが、よく分からない。
「腕のあるものは木の切れ端でもいいから持ってついてこい! 足しかない奴は、何も持たなくていいからついてこい! 腕も足も無い奴は、期待して待ってろ!」
また、ぅおー!と返ってくる。
確かにそこはまだ暗い。しかし、人々の顔には、既に、だんだん明るさが戻りつつあった。
「とりあえず上に行くぞ! それで、なんか賢そうな奴ら集めて、何すればいいか教えてもらうぞ!」
「ぅおー!!!」
「お前ら、ぅおーしか言えないのか!」
「ぅおー!!!」
「もういい!」
「ぅおー!!!」
かくして、多くの人々が動きはじめた。まさしく、小隊長が願っていた通りに――
ところで、支配者だった者達は、この事態に、自らの命の危機を感じ取って引きこもるか、中には自害する者までいた。しかしながら、大半の人々にとって、彼らはもう邪魔さえしなければどうでもいい存在だったし、そんなことよりもやるべきことがあったので、彼らは放っておかれた。




