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雪よ、降レ!  作者: りっか(監修/訳=Yuki.)
第1巻
34/40

第34話


「なーんもなくなっちゃったな」


「そっすねー」


「あ、でも、あっ、あ、あやめさんからもらった服は、残ってますね」


 花のすぐそばに座って、しばらく緩い時間を過ごした。別に花びらは話さないが、くだらない話をする自分たちを、いつもみたいに黙って聞いているようで、不思議な感じがした。

 

 それから、3人は、菖蒲にまた戻ってくることを伝えてから、その場を発った。その人類唯一の都市とやらを見に行ったのである。


 まず、この地球には1つしか大陸がなくて、それがきわめて広大なのだが、その中心部は中緯度に位置している。

 また、非常に巨大な地中海が存在し、それが大陸の中央付近に広がっていて、これには多くの河川が接続しており、いくつかは大河である。中心に近いところは山がちであり、いくつかは南北に走る山脈となっている。


 これは、まさにあやめの家(あるいは小隊長らの故郷)があった地域のことであり、そしてまた、その新たな都市というのも、そこにある。すなわちその街は、大陸に分布するおよそ全ての地下人類にとって等しい距離にあるようになっている。


 ――こうした説明を、街を歩きながら、ユキがしてくれた。

 

 ここは、人口12万人の小さな街である。概形が円であるところの、その半径がおよそ195キロメートルの平野中央部にあり、居住地は一箇所に集中している。それ以外はもっぱら農地のようだ。


 ――――100年前の都市の姿を直接に知る者として、「妙に整っている」というのが第一印象だった。立ち並ぶ家々は、木造ながらもしっかりとした造りだったし、そこに住む人々も小綺麗にしていた。ハイテクな機械は生活に無かったが、上下水道は整備されていて、電力にも問題が無い(どうやら我が故郷と同じ発電方式らしい)。

 という風に、全体的に未開拓の雰囲気を残しながらも、不思議なことに十分に発展している部分もあって、少なくとも不潔な場所ではない。もちろん、アヤメの時代の人たちからすれば清潔の部類には入らなかったかもしれないが、地下で生まれ育った我々には、十分すぎるくらいである。


 ユキによれば「あまりに発展していない場合、コンセッションという本来の目的を妨害するおそれがあるが、あまりに発展しすぎている場合もまた同様である」とのことで、よく分からないが、そうらしい。


 ユキは、あえて私が分かりにくいように言ってくる節がある気がする――――


「なんていうか、不思議な光景だ」


「そっすねぇ」


「なんかちょっと、ぶ、ぶ……不気味かも」


 正方形の敷地に、大きな立方体の形をした民家があって、緑の植わった庭がある;それが2×2列で並んで、1つのブロックができあがる。そのブロックが、何個もある;上空から街の様子を見ると、一般に碁盤の目と呼ばれるような、整然とした区画が浮かび上がる。発展中にも関わらず既に出来上がっているその画一性・統一性を、不気味に感じるというのである。

 

このことについて、街の設計者たるユキは、


「等しさというのは、自然のある面においては正しくないが、美においては私のイデアを最も率直に表現している」


 と実はこだわりがあったらしい。その具体が何であるにせよ、そうしたこだわりないし美的感覚を持つこと自体は、実に人間味があることのように思われるので、3人を少しばかり驚かせたのだった。


「しかし、家やアパートしか無いな。何か他の施設は無いのか? 例えば、何かしら娯楽のやつとか」


 4人が目いっぱい横に並んで広がってもまだ余裕のある、広い道。誇張でなくほとんど同じ眺めが延々と続くので、さすがに飽き飽きして、小隊長は不満を漏らした。

 陽が徐々に傾いていき、地面に映る自分の影が、平たく引き伸ばされていく。時々、人とすれ違う;それだけが変わっていく景色であった。娯楽というものは果たしてこの街にあるのだろうか。


「都市社会を成立させるために必要な機能は、揃っている。道楽の類は、ほとんどない。必要?」


「そりゃあ必要っしょ」


「わ、わ、私たちが地下に、い……いた時でも、けっこうあったよ、そういうの。劇場とか、ぶ、ぶ無難じゃないかなあ」


「そう。考えておく」


 しかし、とユキは言う。


「我々には――あなたたちには、もっと別の優先事項がある」


 新たに地上につくられたこの都市。そこで果たされるべき約束というのは、本来の(本物の)人類が、再び地上で生きはじめるということである。


 既に人々はいる。子供たちなんかも、夕方くらいになると、どこもかしこも騒いでいた。

 一応この街でも兵士として働くことになった彼女らは、既に1つの形をもった社会がそこに成立していることを認めるに至った。なので、事はエンディングを迎えたように思いかけていた。

 しかし、言うまでもなく、この都市では彼女たち3人だけが依然として「人間」なのであり、どういうことかというと


「ここに、人類を導かなければならない」


 のである。


「すなわち、いまだ地下にその全てが生息するホモ・サピエンスの諸集団を、地上に引っ張り出し、何らかの方法によってこの都市にまで来るよう仕向けなければならない」


 ユキは、3人たちに使命を与えた。

 小隊長は、それに納得を示したが、同時に、悩ましげな顔も見せた。


「何らかの方法って、例えば?」


「あなたたちが、実際にそこに行って、呼びかける、とか。色々ある」


「放送で呼びかけたりとかは、ダメなの」


 あおめが、不思議そうに尋ねた。


「我々は、ある現象それ自体を直接に再現することは出来ても、そのシステム自体を構築して、そのことによってそれを達成することは、コストが高いので、やらないし、苦手である。したがって、発信者と受信者間の、電波を用いた情報伝達については、我々は結果を疑似的に模倣することに努め、過程は省いている」


「えっと、け、結局どういうこと……?」


「我々は不確定要素を嫌うので、機械は機械としてではなく現象の再現の結果として動いている。だから、彼らが持つ受信機に対して、我々が作り出した送信機はアプローチできない。その逆も然り。また、我々は電磁波への干渉が苦手である上に、地下都市は深い所にあるため、そもそも受信させるのは極めて難しい」


 要するに、楽はなかなか出来ないということだ。


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