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雪よ、降レ!  作者: りっか(監修/訳=Yuki.)
第1巻
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第27話


「それで」――小隊長と向かい合うように座った色白の少女が、切り出す。他の2人も立っているのが居心地悪く感じ、なんとなくリーダーの横についた。


「どうしたんだ?」


「これからのこと」


 ユキはそこで一旦区切ると、ぴったり正確に1秒の間を空けた。


「先ほども述べた通り、既に限界がきている」


「――逃げるんか」


「限界」を迎えた兵士たちの行き着く先を何度も見てきたあおめが、考察をすかさず挟む。

 ユキは、人間がそれまでの経験に基づいてなんとなしにやってのける、その瞬時の飛躍に多少驚かされた様子で、その人をじっと見つめた。


「そう。逃げる。我々は、この地球を放棄しようとしている」


 それが意味するところはなんだろうか?

 15歳の女の子はすぐに思い至った。


「てことは、全部きき、き、き……消えちゃうってこと? きっ、木も動物も、人も。さっきみたいに!」


 岩石や水だけが残る、あの無機質な風景を思い出す。それは、空が青い火星みたいなもので、地球とはとても思えなかった。あるいは、大海から生命が誕生する前の地球と同じ姿なのかもしれない。


 なにしろ、あやめの家の前の川は、どこまでも透き通った水だった。ただ惑星の表面を流れるだけの液体だった。そこにはひとかけらたりとも生命の痕跡はないのだ。


 ユキは、それが現時点における地球の真の姿であると断言している。もはや、3人はそれを疑わなかった。


「そんな、無責任な」


 小隊長は、人類を――あるいは地球をも――代弁して、顔をしかめた。

 対する宇宙人は、無表情のまま答える。


「そう、無責任。だから、私は、それを良いと思わないだろう」


 ユキはまっすぐ伸びた背筋を保ちながらも、ほんの少しばかり俯いたように見えた。


「だから、私たちは――私は、あなたたちに提案する。人類の代表として、考えてほしい」


 ユキが提示したのは以下の通りである。


 一、人間以外の全ての微生物から動植物に至るまでを保持する一方、人間は消す。

 一、前項に関して、人間を消さない場合;極端に人口を減らし、全個体を集めた街を1つだけ作り、最低限の種の保持はする。

 一、前項に関して、共生が図られる場合;ここに本物の人間も移住させ、時間をかけて(もしくは何らかの意図的な操作によって)「本物」の割合が増えていくことで、最後には我々の創った人間はいなくなる。この場合、我々と人類との間で完全なコンセッションが最終的に実現される。

 一、人間種を、現在地下に残存する「本物」を含めて抹消し、旧来の我々の伝統を達成する。これに関しては、考慮に値しない。が、懸念はすべきである。


「そして」とユキは、これから言うことこそが最も重要であるかのように、一拍おいた。淀みなく喋る彼女が意図的に生み出した間は、3人の視線を集めるのに大いに役に立った。


「我々は、直接的な返事を知ることを望まない」


「……どゆことスか?」


「あなたたちにしてほしいのは、どれがあなたたちにとって最もふさわしいと思われるかを番号で指定することではない」


「じゃあ、え、えっと、どっ、どう、どういう……ふ、ふうに答えればいいの?」


「1つ、我々に教えてほしい。我々の疑問に、1つ、明快な答えを与えてほしい」


 そう言うので、誰もが、待ち受けているだろうと思われる難問に、緊張を高めさせた。試験で、問題をその目で実際に読むまでの、束の間の強い焦燥にも似ていた。

 ユキは、珍しく眼球を動かして、3人を左から右へと順繰りに見てから、問題を口にした。


「我々が、私が知りたいのは、ただ1つ――」


 ――アヤメは、人間?


 と。


 なんとシンプルな問いだろうか。実質的には2択であり、これが授業の最後のテストならば、2分の1の確率でバカも点数を取れる、ラッキー問題だ。


 しかし、残念なことに、この問題の真の狙いは、


「その答えに応じて、前述の諸提案に関する選択が変わる。既にどれが対応しているかは定められている」


 つまり、答えが「アヤメは人間だ」「人間でない」のいずれになるにしても、4つないし3つのオプションは実質的に2択であるということだ。そして、それはある程度の予測ができる可能性はまだあるにしても、実際はほぼランダムであると言える。仮に「人間だ」と答えたらどれが選ばれるかは、分からないのだ。


「そんな、勝手なことを……」


 小隊長は、静かなる怒りが手指の先に出てくるのを隠そうともしなかったが、やがてみるみるうちにそれは萎んでいった。上層部の身勝手な決定に腹が立つのは、これまで一度や二度ならず経験してきたが、ゆえにこそその怒りが無駄であることも知っているのだ。

 そんな小隊長に対して、ユキはほとんど俯くようにして頭を下げた。


「ごめんなさい」


 けれど、と。


「我々はもう、我々自身を完全にはコントロールできなくなっている。こうすることしかできなかった」


 よく分からないが、そうらしいので、小隊長が目の端で自分を捉えていることを知っているあおめは、肩をわざとらしくすくめるのみだった。


 しかし、考えてみると、悪くないかもしれない;えいらは、机の木目を見つめながら思った。

 なぜならば、それによって、全人類の行く末を定めるという重責がいくらか軽くなったように思われるからだ。言ってしまえば、自分たちは「アヤメが人間か、人間でないか」という問題だけを考えればよくなったのだ。


「今、答えを出せそう?」


 ほんのわずかに上がり調子のイントネーションで、ユキが尋ねた。

 流石にそれは無理な話だ――小隊長が口を開こうとする。


 そうして、彼女の両唇が離れたその瞬間だった。


 なにか強い衝撃が来て、その振動や音があまりに圧倒的であった――ように感じられたので、3人は反射的な行動を見せた。3つの椅子が、一斉にざっと引く。古いので、激しくきしんだ。


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