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雪よ、降レ!  作者: りっか(監修/訳=Yuki.)
第1巻
23/40

第23話


 朝だ。「この世界」の暦では、週末の始まりだ。


「やっと戻ってきたか……」


 道半ばで忘れ物を取りに戻ってきたみたいな、焦りなのか苛立ちなのか分からない気持ちが、どうにも胸に渦巻いている。


 しかし、一方で、あやめとほんの数日ぶりの再会ができるというのは、なんであれ喜ばしいことであった。


「土曜日のこの時間帯はまだ寝てるはずっすよ」


「も、申し訳ないけど、おお、お起きてもらおう」


「なに、アヤメも歓迎してくれるだろう」


 少しばかり緊張を緩めながら、川沿いの家へどんどんと近づいていく。そこには、最後に見た時と変わらない姿の一軒家があった。

 彼女らは、自分たちでもよく分からないままに、安心した。


「なんだか最初にここに来たことを思い出すな」


「っすね。アヤメをワンチャン殺してたかもしれないって考えると、不思議なもんです」


「わ、わ、わたし、ナイフできき、き、切っちゃった……」


「覚えてないっしょ」


 ちょっとした思い出話をしながら、先頭の小隊長が、インターホンを押した。応答を待たずに、外から呼びかけも行う。


「おーイ、アヤメ!」


 しばし待つ。反応は無い。


「ぐっすりっぽいっすね」


「ッもう一度押しましょう」


 ピンポーン。家の中でもそれが鳴るので、二重になって聞こえる。どれほどぐっすり眠っていようともハッと目を覚ますほどには、この音は呼び出しに適していた。


「アヤメアヤメー! 出てこイやー!」


「アヤメサん! おはヨございます!」


 ――返事は無い。


「仕方ない、入るか」


 経験上、この家の住人はろくすっぽ戸締りをしない。引き戸に手をかけて、ちょいと引いてみれば、果たしてなんの突っかかりもなくスルスルと開いていった。


「おジャマしマーす」


 ドタドタと上がり込む。「靴は脱げ!」と散々注意されたことはよく覚えているので、3人とも泥まみれのブーツを玄関で脱いだ。時間がかかった。靴を並べるときに気づいたが、白かった外床のタイルは、あっという間に泥で汚れてしまっていた。


「これはアヤメが怒るな」


「元から汚れてたって言いましょう」


「だ、だ、ダメだよ。あ、あっ、あ……あ後で私たちが綺麗にしないと」


「そうだな。後で、だな」


 まずはリビングに入る。寝室からでないのは、土曜日は65%の確率でソファで寝落ちしているからだ。怖がらせないために、いくらかの装備は玄関に置いてきて、表情も見えるようにした。

 つけっぱなしのテレビ、飲みかけの缶ビール、寒すぎるエアコンの風。今日も健全とはいえない光景がまた見れるのかと思った。

 しかし、


「いい、いないですね」


「では寝室だな」


 1人には大きすぎるベッドで熟睡している姿がありありと浮かぶ。いたずら好きの子供みたいな足取りで、どたどたと階段を駆け上がる。


「アヤメ!」


「アヤメアヤメー!」


「ア、アヤメさんっ」


 奥の寝室の扉を、勢いよく開け放つ。

 ガバッと跳ね起きて、驚きながらも低い声で「おはよう」と呟く――そんな未来を想像していた。


「…………アヤメ?」


 静かだ。

 ベッドは、人の膨らみが無く、誰もいないことは明らかであった。念の為に布団をのけてみても、いるわけはない。誰かが寝ていたようなぬくもりもなく、むしろ長い間使われていない感じを覚えた。


 ここにいないのだとしたら、いよいよ居場所が分からない。


「外だろうか」


 しかし、1か月弱を共に生きて、彼女が川や裏手の山に自ら行ったのを見たことがなかった。


「仕事ですかね?」


「……っぶ、病気で、病院に行ったのかも」


 とりあえずリビングに戻る。エアコンはついておらず、暑い。リモコンで電源を入れようとしても、動いてくれない。そんなこともあるかと思い、諦めた。


「何であれ、相当急いでいたんだろう」


 3人でファブリックの青いソファに腰掛けた。ちょうどクッションは3つに分かれ、ソファ自体はL字になっており、小隊長は脚を伸ばして座れる端っこを選んだ。

 3人して、家主の行き先について考えを巡らせた。ふと、えいらが気がつく。


「あっ! で、でも、くくっ、く、く……るまは、車は、ありましたよね」


 あの真っ赤な車、意識はしていなかったが、少し前の記憶を掘り起こしてみれば、確かにその映像に映り込んでいる。


「そこまで遠くには行っていないということか。いや、だとしても、うーん……」


 考えても、見当もつかない。


「まー、とりま待ってみましょ」


 あおめが、ソファと向かい合う大きなテレビを点けようと、リモコンのスイッチを押した。


 この時間帯、特に面白い番組がやっているわけではないことはすでに知っていたが、頭を空っぽにして眺める分には悪くない。


 そう思ったのだが――


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