表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪よ、降レ!  作者: りっか(監修/訳=Yuki.)
第1巻
22/40

第22話


 暗がりから、ひとまず外に出る。木からおこぼれの光をもらう。

 小屋の壁にもたれるようにして、座り込んだ。

 もしかした開くかもと思って、外にいながらも、常に小屋の中の動きに、耳を傾けた。しかし、完全に諦めるその最後の時まで、物音ひとつすることはなかった。どれくらい待ったかというと、丸一日だった。


 もはや開くことは無いと思われた。


「任務は失敗した」


 これからどうすればいいのか、よく分からなかった。


 ――雨が降ってきた。山の中は、昼とも夜ともつかない、どんよりとした暗さだ。


「……ししし、小隊長、こっ、こ、こ……こ、こっ……小屋の中に入りましょう」


「そうだな……」


 皆が重たい腰を上げる。中は埃っぽいし狭いしであまりいたくはないのだが、この降りようでは、木の下にいるわけにはいかなかった。


 外に器を置いて水を溜める。


 雨粒が枝葉を打つ。それが地面に落ちる。水たまりがあちこちにできてゆく。その水面には、いくつもの波紋が立ち現れては、重なり合い、絶えることがなかった。

 あれだけセミの声でうるさかった山は、激しい雨音がありながらも、静まり返ってしまったかのようである。


「ねえ、2人とも」


 小隊長が弱々しく呼びかける。水の滴る音に今にもかき消されそうだった。


「……どうしたんすか?」


 2人の部下は、顔を上げたが、それでもなお何かに上から押さえつけられているみたいだった。

 小隊長は、独り言のように口にする。


「――ごめんね」


 皆、その言葉に、ただ沈黙で返すのみかと思われた。

 長い間があったのち、


「それは言うたらあかん」


 あおめが力を振り絞るようにして言う。雨のホワイトノイズに、ほとんど飲み込まれていた。

 頭の中に様々な言葉が駆け巡ったにせよ、最終的に出てきたのはそれだけだった。


 ――――思い出して書いてみい言れわてもやな、なんやこの辺のことわよう覚えてへん、漁師んとこの娘があほ抜かしよつたから、なに言うてんねんとは思たけど。またなんや呆けたこと言うとるわゆう感じで、あやまつてほしいとわ一つも思てへんかつたわ。だつて、あの時、あんたについていく言うたんわ私うやから、なにをあやまることがあんねんな。そないけつたいなこと抜かすひまあつたら、さつさと金もちになつて、うちらにどぐされ金の一つでもよこさんかい。


 だいすき←これぜつたい消すな


 あおめ


 補足:字・言葉遣い・文章のいずれもが乱れており、理解が困難な箇所もあるが、執筆者を尊重して清書および改稿はしないでおく。寄稿をどうもありがとう――――


 夜になった。


 雨はいつの間にか止んでいた。代わりに、無数の虫たちが雨上がりの大合唱を始めたので、山は常に音で満たされていた。


 3人がライトをつけないので、全くの暗闇であった。また、仮に明かりがついていようとも、彼女たちは漆黒ともいうべき黒装束に、文字通り頭のてっぺんから足の先までを包んでいたので、その表情を見ることはかなわなかっただろう。


 小屋の中、身動きする者はいない。


 ――――我々がすべきことは、非常に単純だった。それには、緻密な戦略も、必勝の戦術も、上官からの命令も、もうこの時には要らなかった。


 ただ受け入れればよかったのだ。


 そして、それこそが難しかったのである――――


 誰しもが黙り込んでいた。


 自然が作り出す騒音が、彼女らの耳を塞いでいた;突然それがピタッとやんで、はたと静寂に囚われたので、皆いっせいに周囲を見た。

 例えば森を支配する捕食者が現れると、それまで盛んに鳴いていた虫は一斉に黙り込む。

 何かが起こらないと、何かが現れないと、彼らは黙らない。そしてその何かは、えてして歓迎されるものではない。


「なんだ……?」


 不自然な沈黙に身構える3人であったが、何も起こらない。やがて、虫たちも平穏を取り戻して、再び歌いはじめた。


 何だったのだろうか。何らかの肉食動物が近くに来たのだろうか。


「み、見てきますか?」


「……いや、いい」


 結局、それが何だったのかは分からなかったけれど、それをきっかけにして、彼女たちにほんの少しばかり活力が戻った。ようやくこの我慢ならぬ暑さに対して行動を起こす気になれた。暑苦しいヘルメットやマスクは外してしまう。首のところがちょっと外の気に触れて、涼しく感じた。ふぅ、と一息つく。


 それから、小隊長は目を瞑って、しばらく考えた。十数秒が経った後、目を開いた。


「行こう…………アヤメの家に」


 その一言は、おそらく、他二人が実のところ待ちわびていたものに違いなかった。ただ、彼女ら自身、その故郷との決別に踏ん切りがついていなかったので、素直に反応できたわけではなかった。


 だから、まだ彼女らの中では、あやめの家に行くことは、依然として仮住まいを求めることを意味していた。

 それは、彼女たちの足取りの重さにも現れていた。雨上がりの山、ぬかるみが彼女たちを引き止めんと足にまとわりついた。

 かつて軽々と登頂した山は、いまやはるか上まで無限に続いているかのように思える。晴れ渡った天球にいくら星が輝いていようとも、今の彼女たちには、それらは無いに等しい。


 1日の太陽のサイクルがいくらか繰り返されたのち、あやめの家に戻ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ