第2話
小隊長の周りにも、20名弱の人間がいた。それらはいずれも、彼女らよりひと回り、ふた回りも年の離れた大人たちであった。
彼らは、同じ小隊のメンバーだ。他のグループも、そうして小隊ごとに固まっていたのだ。
そして、その中に、女性兵士たちと遊んでいる(彼女らに遊んでもらっている)小柄な女の子がいたのだが、あおめが暇そうにしているのを見て、近づいてきた。金髪が目立つ女の子だった。
口を開いたが、何かに喉を締め付けられてるみたいに、言葉が出ない。
「あっ、ぁ、ぁ、ぁあ…………」
あおめが目を開いて、その女の子の方を見やった。ギュッと目を瞑って、何とか自分の名前を口に出そうとしてくれているその子を、優しい目で待つ。
「あ…………あおっ、あおめちゃんっ」
「なにー」
「き、き…………きゃっキャッチボールしようよ。最近なんでやめちゃったの?」
あおめは、また目を閉じた。
「私ももう16だからねぇ。大人の階段昇っちゃったわけ」
「そうやって下着みたいな、かっ……かか…………格好で寝るのが、大人なの?」
「分かってないなぁ。これは全身あますことなくこんがり焼くため。褐色美女への道なわけ。年齢が幼いとそういうのが分からないんだろうなあ」
「い、い、ぃい一個しか違わないよ! それに、前も言ったけど、こっ……こここ……この人工太陽の強さじゃ日焼けできないんだよ」
「小隊長、えいら一等兵によるハラスメントを受けています」
「ご、ごめんっ!」
小隊長は顔をちらと上げて、一言
「ハラスメントしてるのはむしろお前だ」
そうやって価値の無いやり取りをしていると、天球上のてっぺんにある太陽が、ブゥーンと低い音を立てて、スーッと消えていった。それにとって代わるように、まるで無機質な照明が、丸天井のふちに並んでいるのだが、それがパッと点いた。そこはあっという間に、ドーム状のただの広場になった。たった1時間の朝だった。
「速やかに人工太陽灯照射場から退出せよ」
スピーカーからの声が、繰り返され、響き渡り、反響が次々と重なっていくこととで、輪郭がぼやけていく。
ごろりと寝転がっていたあおめが、即座に立ち上がった。そして、脇に畳んでいた軍服を、あっという間に着てしまった。
小隊長が、自身の小隊を整列させ、他の列に加わって、ドームを後にする。朝食後、朝7時から8時までの、束の間の休息であった。
皆、この時間が好きだった。兵士であれば、一兵卒だろうが与ることのできる特権の1つだからだ。とはいえ、それはセロトニン等にまつわる極めて精神衛生的な理由によるもので、肌が焼けるまでには至らない。
「1時間じゃ、やっぱ無理かあ」
あおめが、自分の白っぽい腕を眺めて、ぼやく。
「ひ、ひ、ひひ……日焼けなんて、させてくれるわけないからね」
と、同じくコピー紙みたいに真っ白なえいら。
下層の人間と、上層の人間は、はっきりとその違いが見える。肌の色――というのは不適当だろう。この世界では、肌の日焼け具合がその人の地位を表すものだった。下っ端の軍人は全員色白だ。
「お上様が羨ましいよねぇ。日焼けマシンなんか使っちゃって。噂じゃ、将官の子供は子宮にいる時から黒んぼなんやって」
いつの時代も、噂とはでたらめな尾ひれがつくものらしい。
さて、8時から12時まではひたすらに訓練となる。
――――狭い地下世界。資源も限られている中で、戦争は少々時代を後戻りしてしまったに違いない。
ミサイルなどもってのほかで、爆発を起こすものは例外なく使われない。戦車はただのデカブツで、化学兵器はただの自殺だ。
我々が何を気にしているかと言うと、人の命を奪うことについてはどうでもいいのだけれど、とにかく地下都市を傷つけて壊したくないのである。
そもそも、兵士の数に対して、圧倒的に装備が足りていない。
そうした状況で、最後に何が残るかと言えば、人の体だった。人体で為せることは、限られる。ゆえに、誰もが、できるできないは別として、そのポテンシャルを最大限まで引き出すことを要求されていた。
端的に言えば、近接戦闘が重視されているわけだ。そうすると、訓練内容も、人をいかに手足で殺すか、というものが多くなる。
遠距離攻撃としては、クロスボウかコイルガンがよく用いられる。それと、音響兵器も使われている。
他にも色々あるにせよ、いずれも地下都市内殻へのダメージを考慮したものだ――――
肝心の訓練であるが、完全な暗闇の中で動く訓練というのがあって、それが今日のメインであった。いかなる光も発してはならず、もし光るものがある場合にはすぐさまにそれを射撃するよう要請されているため、本訓練では死者が出ることも珍しくはなかった。
他には、小隊の中でも少年班たるえいらとあおめは、荷物の運搬や諸兵器の組み立て等、各々の役割を実践的に練習した。




